今後、IPOを目指す場合、社外から、取締役や監査役になってくれる候補者探しを行うことになります。

そこで「どのような人がよいのか?どんな能力を持つ人がよいのか?」というのは、議論になります。

そこで専門家を呼べば安心という結論に至るのが一般的です。

法律の専門家として弁護士、会計の専門家は会計士、税務の専門家は税理士ということが一般的な判断になりますが、これらの肩書を持つ人であれば、誰でも良いというのではありません。

ブログの中の人が昨年末にあったやりとりを通じて説明させていただきます。

企業法務に疎い弁護士とのやりとり

ブログの中の人は、ある上場会社(以下では、「A社」といいます)に対して、つい最近、リストリクテッドストックという株式報酬の導入コンサルをしました。

リストリクテッドストックというのは、役職員へ新株予約権を付与した後に株式を交付するというストックオプションとは異なり、役職員へ株式をいきなり交付するという形の報酬制度であり、上場会社では導入が進んでいます。

リストリクテッドストックは、会社と役職員の株式の売買が発生する報酬制度であるため、金融商品取引法をチェックしなければいけない報酬制度になりますが、主な議論の内容は次のようになります。

リストリクテッドストックを導入する際、金融商品取引法に関して、理解しなければいけない主な内容
  1. リストリクテッドストックを導入する決定事項は、重要事実にあたらないか
    • 払込金額の総額が1億円以上の場合、重要事実として規定されている。
    • 会社法の改正より、上場会社が取締役の報酬として株式を発行する場合に出資の履行を不要になる。その改正によって、会社法改正前は、多くの株式を交付するリストリクテッドストックを導入する決定事項は重要事実にあたってしまう可能性があったが、会社法改正後は、多くの株式を交付しても、重要事実を回避することができるようになる。
  2. リストリクテッドストックの交付を受ける際、未公表の重要事実を保有していたとしても交付を受けることができるのか
    • 法律家によって意見が分かれている。ブログの中の人は、役職員がリストリクテッドストックの交付を受ける際、インサイダー取引を回避するためにクロクロ取引(重要事実を知っている者でも、適法に株式売買ができる取引です)にするように指導しています。
  3. リストリクテッドストックにより交付された株式は、短期売買利益返還請求制度の対象になるのか
    • 短期売買利益返還請求制度の適用除外規定あり。
  4. リストリクテッドストックにより交付された株式は、売買報告書提出制度の対象になるのか
    • 売買報告書提出制度の適用除外規定あり。

なお、金融商品取引法だけではなく、会社法、労基法も関与します(無論、税法や会計も関与します)。

A社は、IPOをしてまだ日が浅いこともあり、A社管理部門のスタッフ人員の金融商品取引法の知識は、脆弱であると言わざるをえない体制になっています。

そこでブログの中の人は、A社の求めに応じて、弁護士である社外取締役(以下では「B取締役」といいます)の事務所へ訪問し、リストリクテッドストックに関連する法規制について、レクチャーするために訪問しました。

しかしその打ち合わせを次のようなことがわかりました。

弁護士であるB取締役との打ち合わせを通じてわかったこと
  • B取締役は、近々、会社法が改正されることを認識しているが、弁護士でありながら、会社法の条文の何がどう変わるのかを全く学習していない!
  • B取締役は、弁護士でありながら、上の赤字で書かれた言葉(クロクロ取引、短期売買利益返還請求、売買報告書提出)という金融商品取引法の基礎用語がなんと初耳状態!

ちなみに、私はA社が非上場時に、B取締役とお会いした事がありますが、社外監査役と非常勤監査役の用語の区別が出来ていなかったり、関連当事者(一応、関連当事者とは会計用語ですが、社外取締役であれば知っておかなければいけないワードです)という用語を知らなかったなど、無知なことばかりでした。

さらに、A社の有価証券報告書には、次のような記載があります。

「社外取締役のB取締役は、弁護士として培われた専門的な知識・経験を有しており、社外取締役としての職務を適切に遂行することができるものと判断しております。」⇒ これって、ひょっとすると有価証券報告書等虚偽記載じゃないの???( ´艸`)

A社の管理部長は、B取締役の企業法務の無知を認識していますが、A社社長とB取締役はゴルフ仲間になっており、クビを切ることは無いだろうとの事でした。

金融商品取引法を知らない弁護士は多いと思っておいた方がよい

B取締役が個人で営んでいる弁護士事務所のホームページは、離婚、交通事故、刑事事件、不動産、相続。。。と弁護士として資格を持っている人が対応可能な業務が総花的に並んでいます。

もちろん「顧問、社外役員、企業法務」という内容も含まれております(B取締役との面談内容を通じて、私は不当表示防止法違反しているのではと疑ってしまっています)。

おそらくB取締役は、離婚問題や不動産、相続といった企業法務とは別分野の活動を中心になさっている弁護士だと推察します。

実は、日本の弁護士にとって、ビジネスのボリュームゾーンは、離婚や不動産等、B取締役が主たる活動として行っていることです。

金融商品取引法が関与する弁護活動案件は少なく、かつ金融商品取引法は複雑難解な法律であり、コロコロ変わるニッチな法律なため、チンプンカンプンな弁護士は山のように存在していると思っておいた方が良いと思います。

例えば、非上場会社でもストックオプションを付与するとき、割当対象者や規模等によれば、金融商品取引法をケアしなければいけない場合があります。

こちら↓で説明しています。

募集【IPO用語】

IPOを目指す会社が金融商品取引法を抵触していた場合、最悪のケースとして5年間のIPOが認められなくなります。

ブログの中の人は、ストックオプションの発行に関して、金融商品取引法違反をした会社を何社か見ておりますが、その会社の中には、社外役員として弁護士が連なっていたことがあります。

つまりその弁護士は法務のゲートキーパーの役割を期待して社外役員として招聘されたにもかかわらず「このストックオプションは募集に該当しないの?このままだったら、金融商品取引法違反になるんじゃないの?」という指摘をしなかったことになります(ひょっとすると、ストックオプションを付与される事で舞い上がっていたかもしれませんね)。

社外役員を招く場合は、実務にどれだけ携わったのかを確認することが一番だと思います

社外役員として、弁護士を招聘する場合、金融商品取引法のエキスパートに限定する必要はありません。

また、金融商品取引法についてガンガン業務している法律事務所は、西村あさひ法律事務所や森・濱田松本法律事務所等、大手法律事務所くらいだと思いますし、このような事務所で働いている弁護士を顧問や社外役員に招聘するとコストが割高になるのではと推察します。

会社が法務のゲートキーパーの役割を期待して、無理に弁護士を招聘するのではなく、資格を持っていなくても、上場企業の法務部門で実務を経験していた方をおススメしたいです。

またこれは会計士を社外役員に招聘するときも同じです。会計士の中には長年、金融商品取引法会計を扱っていない会計士が存在します。

社外役員として、専門家を招聘する場合、直近の実務についてヒアリングをしっかりとすべきと考えます。