ALiNKインターネットの目論見書

2019年12月10日に東証マザーズへ上場した株式会社ALiNKインターネットの従業員数は次のように推移していることがわかります。

表 ALinkインターネットの従業員数の推移

従業員数
直前々期末 5名
直前期末 9名
申請期第2四半期期 9名
申請期末 10名

ALiNKインターネットは、従業員数たった9名(臨時従業員なし)のみという極めて少人数組織です。

社員数が少人数のIPO

ALiNKインターネットのようにIPO時点で一桁しか従業員数がいない会社は、極めてレアですが、社員数が少ない会社がIPOを達成した事例は多く存在します。

表 社員数が少ないIPO例

従業員数 社名 事業内容
9名 ALiNKインターネット 天気予報専門サイト『tenki.jp』運営
11名 Delta-Fly Phar 抗がん剤を開発するバイオベンチャー
13名 Amazia 漫画アプリ『マンガBANG!』運営
14名 Kudan 人工知覚ソフトを開発し、ライセンス提供
15名 ミクリード 個人経営居酒屋向け食材卸
16名 モダリス 遺伝子治療薬の創薬ベンチャー
19名 タスキ 投資用不動産販売とFintechを活用した福利厚生サービス
20名 ステムリム 『再生誘導医薬』を開発するバイオベンチャー

IPOに向けた組織体制

IPOを目指すことになれば、どの会社でも組織体制について間違いなく議論が生じます。

特に小規模組織の場合は、次のようなことがクローズアップされます。

経理実務者と出納実務者の分離

毎年のように会社経理担当者による横領事件が発生しています。このような横領事件が発生する原因のほとんどは、経理と出納の実務のすべてをたった一人で行っていたという会社です。

そこで「日々の取り引きの記録を会計帳簿に記帳する業務を行う人(経理担当者)」と「取り引きに応じて銀行口座などの資金を動かす業務を行う人(財務担当者)」を分ける必要があります。

IPOを達成するためには、単に担当者を分けるだけではなく、原則、これらの担当者の上司や責任者を置いたうえで、その責任者による承認確認業務がルーティーンの中に入れることによって、さらに牽制機能を高める必要があります。

つまりIPOを目指す場合、会計に関する実務担当者と責任者は、合わせて最低でも3名必要になります。

そこで、よくあるのが「うちの会社は、出金の頻度が少ないため、財務担当者を設置できない」という反応です。しかしIPOを目指すとなると、管理部門の業務量は莫大に膨れ上がるため、財務担当者がヒマで時間を持て余してしまうという心配は、ご無用です。

  • 経理実務担当者を任命する
  • 経理実務担当者とは別の社員に出納実務担当者に任命する
  • 会計実務全般をチェックする役割をする者を任命する

経理部門への内部監査体制

原則としては、内部監査は独立した部門による体制で行うべきですが、会社の規模や体制によっては独立した部門を組織化する必要はありません。

そこで内部監査業務を内部監査室・内部監査部以外に担う場合、以下のような留意点があります。

内部監査室を設立しない場合の主な留意点
  • 内部監査業務を行う部署へ内部監査を行う部署を決め、監査を実施する必要がある。
  • 内部監査担当者は、一定レベル以上の会計・法務知識が必要である(例えば総務部が内部監査を行う場合、総務部の内部監査担当者は一定レベル以上の会計知識を要する)。
  • 「経理財務部門が内部監査担当部門になるのは適当ではない」という判断される場合が多い。

特に内部監査を行うことができる人は、一定レベルの経理知識が必要になります。特に少人数組織の会社の場合、経理部門以外に経理知識を持つ人材を確保することに対して、ハードルが高くなります。

内部監査業務を自社で完結できることが一番ですが、それが困難な場合、アウトソーシングすることを考えてみてはいかがでしょうか。

内部監査を含む管理部門のアウトソーシングについては、こちらをご参考いただければと思います。

管理部門のアウトソーシング【株式公開の業務】

兼務が多い組織

少人数組織の会社は、全社員がマルチタスクになりやすくなります。

しかしマルチタスク制を進めていくと、会社組織は兼務兼任のオンパレードとなり、指揮・命令系統が不明確になったり、業務の重複や漏れなどが生じ、能率的な業務が遂行されなくなりやすくなります。それだけではなく、不正を防止できない体質も生じます。特に以下のような場合は、改善を求められます。

  1. 横の兼務
    • 全ての横の兼務がNOではありませんが、内部牽制が効かなくなるような横の兼務はNOと判断されます。
    • NOと判断される横の兼務は、例えば「経理部長兼経営企画室長兼総務部長」や「営業部長兼品質管理部長」「営業部長兼経理部長」をいいます。
  2. 3段階以上の縦の兼務
    • 縦の兼務が多い場合、属人的組織であることが露呈されます。
    • 3段階の兼務とは、例えば「管理本部長兼経理財務部長兼経理課長」をいいます。

特定人物の依存

特にマザーズを目指す会社を中心とするベンチャー企業は、少人数組織が多く、オーナー社長など特定人物への依存度が高くなります。

ALinkインターネットの目論見書のリスク情報には、次のような記載が存在します。

ALinkインターネットのリスク情報

当社の代表取締役である、池田洋人(以下、「同氏」という。)は、インターネット広告業界に関する知識と経験を有しているだけでなく、気象予報士を取得する等、気象に関する知識を保有しております。

そのため、同氏は当社の経営戦略の構築等に際して重要な役割を担っております。当社は、特定の人物に依存しない体制を構築すべく経営体制の強化を図り、同氏に過度に依存しない経営体制の整備を進めておりますが、現状では何らかの理由により同氏の当社における業務執行が困難になった場合、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(出所:株式会社ALinkインターネット 目論見書より抜粋)

IPOの審査では、特定人物への依存度の低下に向けた活動内容を問われるのが定番です。

特定人材への依存度解消に向けたアクションプランを準備しましょう