引受審査や上場審査では、Ⅰの部のリスク情報の内容に関する妥当性について、審査されます。

リスク情報とは何かについては、こちらで説明していますので、ご参考ください。

事業等のリスク・リスク情報

輸出型産業の会社や、海外に子会社や営業所を保有する会社を中心として、リスク情報に”カントリーリスク”を記載する例が多くあります。

ここでは、チャイナリスクについて、しっかりに書かれた事例を紹介させていただきます。

アクシージアのⅠの部

Ⅰの部チェック

2021年2月21日に東証マザーズへ上場することが決まった株式会社アクシージアのⅠの部のリスク情報には、次のような内容が記載されています。

株式会社アクシージアのリスク情報

当社グループでは、マーケットの拡大が期待されるアジア太平洋地域、特に中国において事業活動を展開しており、今後一層の拡大を目指しております。現在、社外取締役を含む8名の取締役のうち4名は中国籍であり、中国ビジネスを展開するうえでの強みとなっていることもあり、当社グループにおける中国向けの売上高は第9期連結会計年度において86.0%に達しております。一方、これらの中国での事業活動におきましては、予期し得ない不透明な政策運営、各種法制度の未整備や変更、外国資本優遇措置の見直し、労働問題等のオペレーションリスクのほか、反日抗議行動や治安悪化、テロ・戦争の勃発、感染症の流行による社会的混乱等のリスクが潜在しております。2019年1月の中国電子商取引法(EC法)の施行に際しては、流通や販売網に変化が生じたものの、早期から中国本土での販売力強化を行ってきたことや中国本土でのブランディング・マーケティング体制を自前で構築する等、対応を進めております。また、中国の主要販売チャネルであるEコマースにおきましては、主として阿里巴巴集团控股有限公司(アリババグループ)のプラットフォームで販売していることから、阿里巴巴集团控股有限公司(アリババグループ)の運営方針の変更や経営状況等の影響を受ける可能性があります。当社グループでは、これら中国での事業活動に潜在するリスクに対しては、現地情勢の把握に努め早期の回避策を講じてリスク管理に努めておりますが、完全に回避できるものではなく、これらが顕在化する場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(出所:株式会社アクシージアのⅠの部より)

中国向けの売上が86%となっているというのは、凄いですね。極めてレアな企業だと思います。

規則等には定められていませんが、リスク情報のトップに来る項目は、会社にとって最も重要な項目を記載することが多いのですが、アクシージアについては、上に記載した項目がトップに来ています。

チャイナリスクが書かれたⅠの部は、存在しますが、ほとんどはあっさりした内容です。アクシージアの場合は、中国市場に偏重していることからも、丁寧な書きぶりになっています。

チャイナリスクに関する参考事例

アクシージアと同じように、中国での事業展開に関するリスクについて、丁寧に書かれた事例を次にいくつか紹介します。

上場申請資料を作成中の方々のご参考になればと思います。

TDK株式会社

当社グループは、グローバルに事業を展開しており、連結ベースでの海外売上高比率は90%を超えています。

対象となる多くの市場や、今後経済発展が見込まれる新興国では、不安定な政情、戦争やテロといった国際政治に関わるリスク、為替変動、関税引上げや輸出入制限といった国内政治・経済に起因するリスク、文化や慣習の違いから生ずる労務問題や疾病といった社会的なリスクが、顕在化する可能性があります。また、商習慣の違いにより、取引先との関係構築においても未知のリスクが潜んでいる可能性があります。こうしたリスクが顕在化した場合、生産活動の縮小や停止、販売活動の停滞等を余儀なくされ、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

特に当社グループの中国向け売上高は連結売上高の50%を超えております。同国へ進出している得意先及び現地企業への供給体制を確立するため、中国に製造拠点を数多く有しており、その結果、当社グループが中国に保有する有形固定資産は、2,687億円、中国拠点による生産額は、当社グループ全体の50%を超えております。

同国にて上記のような政治的要因(法規制の動向等)、経済的要因(成長の持続性、電力等インフラ整備の状況等)及び社会環境における問題事象が発生した場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社は、需要地における生産を原則としつつも、生産拠点の配置については、カントリーリスクやその他の要因も考慮し、適宜見直しを行っております。

(出所:TDK株式会社 有価証券報告書より)

ソレイジア・ファーマ株式会社

a 中国固有のカントリー・リスクに関する事項

当社グループ事業は主にアジアを対象としており、その中心は日本及び中国です。中国の医薬品等産業は中国政府の厳しい監督管理下での規制を受けており、政策、規制、法律等に変化が生じた場合には、当社グループの経営戦略や事業活動の制約要因となり、当社グループの財政状態及び経営成績に重大な影響が及ぶ可能性があります。

b 中国での雇用に関する事項

当社グループは、中国での事業活動に際し、中国人従業員を採用しています。中国の労働環境は、社会制度の違いにより日本に比べて企業による管理が困難な場合があり、従業員の採用、解雇、退職などに関わる人事問題、また、賃金、残業等に関わる給与問題、不正行為等について、対応が困難な局面が生じる可能性があると考えています。当社グループでは、これら労務管理上の諸問題を事前に回避すべく最大限努力する所存ですが、当該事象が顕在化し解決までに長期間を要す場合、又は多額の費用が発生した場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に重大な影響が及ぶ可能性があります。

c 中国の開発活動に関する事項

当社が現在保有している開発品は、すべて中国で開発販売権を有しており、そのうち、SP-01は2018年7月に、SP-03は2019年3月に、中国当局の承認を受けております。一方で、SP-02とSP-04においては、今後も中国での開発活動を推進する計画にあります。医薬品等の開発活動は、前掲「医薬品医療機器等法その他の規制に関する事項」のとおり様々な規制のもとで推進することが必要ですが、中国の規制が日本等の他の国との規制が相違する場合、中国での開発活動がその影響を受けることは否定できません。

d 中国での自社販売体制に関する事項

当社グループは、開発品の中国上市に対応し、北京市、上海市及び広州市において、自社販売を行うことを基本戦略としています。自社販売体制の人材のうち、主力は医薬情報担当者(Medical Representative:MR)によって構成されています。また、製品の商流構築にあたっては、中国の複数の医薬品等卸業者を活用しています。当社製品の状況に応じて、MRの採用や医薬品等卸業者との契約関係構築を行っておりますが、これら自社販売体制の維持が期待どおりに行えない場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に重大な影響が及ぶ可能性があります。

(出所:ソレイジア・ファーマ株式会社 有価証券報告書より)

株式会社フェローテックホールディングス

(中国における事業展開について)

①当社グループの製品の大半は、主に製造コストを低減するための戦略に基づき、現地法人である中国子会社にて製造しております。これらの現地法人においては、今後とも製造能力増強に向けた設備投資を計画しておりますが、中国における事業展開においては、投資・税制・通貨管理・貿易・環境・労働に関する法令や規制等の変更、政治的、経済的リスク、その他社会的リスクが存在しており、これらが顕在化した場合には、当社グループの財政状態や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

②リスクが顕在化する可能性

米中貿易摩擦にみられるように中国単独の要因だけではなく、世界各国と中国の関係により顕在化する可能性があります。中国政府の政策等に対しても顕在化の可能性があるものと認識しており、発生する時期は随時と認識しております。

③リスクが顕在化した際の影響度

発生するリスクの事態により影響度合いが異なるため、単一での影響額の見積もりは出来ません。

④リスクへの対応策

法令遵守や規制に適合した施策を着実に実施しております。現地法人の所属する各地方政府との関係を友好的に保ち、早期の情報収集、対策に係る指導を受けるよう努めております。

毎月、リスク管理委員会を開催し、中国子会社よりリスク情報の報告を受けております。

(出所:株式会社フェローテックホールディングス 有価証券報告書より)

株式会社エンバイオ・ホールディングス

当社グループでは、日本国内の土壌汚染対策事業で蓄積した技術やノウハウを中国市場に展開するために江蘇省南京市に現地法人(恩拜欧(南京)環保科技有限公司)を構えております。2019年1月に土壌汚染防治法が施行され、土壌汚染対策市場は拡大期に向かうと想定されますが、今後中国政府の政策変更や経済運営状況、地方政府による行政指導等によって市場拡大時期に遅れが生じた場合、加えて目下の新型コロナウイルスの感染拡大に伴って経済活動が停滞した場合には、当該子会社の業績に影響を及ぼす可能性があり、さらに当該子会社の経営成績の推移によっては、追加出資又は会計手当等が必要となる場合が想定され、当社グループの財政状態及び経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

(出所:株式会社エンバイオ・ホールディングス 有価証券報告書より)

ベルグアース株式会社

当社グループは、中国の巨大マーケットでの事業活動を実施するため、2014年11月に中国の青島芽福陽園芸有限公司を子会社化、2017年12月に北京欣璟農業科技有限公司を中国のパートナー会社と設立しました。農業関連の様々な規制緩和は進んでおり、外資系企業が中国国内で事業を行う幅は広がっております。しかしながら、今後、中国における法的規制、政情・経済の変動など予測不能な事態が発生し、中国子会社及び関連会社の事業展開に影響が出た場合、当社グループの事業展開や業績に影響を与える可能性があります。

(出所:ベルグアース株式会社 有価証券報告書より)

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