東証グロース市場(旧東証マザーズ市場)へ上場を目指す企業に対しては、主幹事証券会社がグロース市場の適合要件である高い成長可能性を有しているか否かについて審査を行い、判断します。

一般的には、高い成長可能性を有している会社というのは、売上が右肩上がりの会社のイメージを持ちます。

しかし、東証グロース市場(旧東証マザーズ市場)に上場達成した会社の中には、直前期の売上が減った、または申請期の売上が減る見込みである会社、つまり右肩上がりではない会社でも上場達成した事例が存在します。

そこで、このような会社にフォーカスを当てて、検討させていただきます。

なお、この記事につきましては、2019年1月以降2022年9月までに東証マザーズ市場または東証グロース市場に上場達成した会社(261社)について、IPOAtoZの中の人が手打ちで集めたデータを元にしておりまして、内容等を一切保証しておりません。

直前期の売上が前年度から減収した会社

直前期の売上が直前々期より低かった上場達成企業は、261社中22社ありました。

内訳は、表1のようになります。(社名に株式会社を省略しています)

表1 2019年~2022年9月までに東証グロース市場(東証マザーズ含む)に上場達成した会社の内、直前期の売上が減収になった会社一覧

社名 業種 直前々期売上(百万円) 直前期売上(百万円) 減収率(%)
Link-U 情報・通信業 628 610 3%
ステムリム 医薬品 300 200 33%
バルミューダ 電気機器 11,191 10,849 3%
ファンペップ 医薬品 355 301 15%
QDレーザ 電気機器 960 756 21%
全研本社 サービス業 6,410 5,827 9%
ペルセウスプロテオミクス 医薬品 275 85 69%
デコルテ・ホールディングス サービス業 4,704 3,670 22%
コラントッテ その他製品 5,665 5,331 2%
ラキール 情報・通信業 8,776 7,220 6%
ラストワンマイル サービス業 1,458 1,458 18%
スローガン サービス業 1,458 1,311 10%
フレクト 情報・通信業 2,882 2,559 11%
ラバブルマーケティンググループ サービス業 1,212 963 21%
タカヨシ サービス業 5,782 5,165 11%
CS-C サービス業 2,240 1,947 13%
エッジテクノロジー 情報・通信業 1,578 1,466 7%
マーキュリーリアルテックイノベーター 情報・通信業 1,341 1,254 6%
セレコーポレーション 建設業 18,815 17,084 9%
ストレージ王 不動産業 1,344 1,134 16%
マイクロ波化学 サービス業 1,052 458 56%
プログリット サービス業 2,183 1,981 9%

業界に関わらず、直前期が減収に終わったとしても、高い成長可能性を有しているかに対し、否定されない事がわかります。

中には、直前期の売上が直前々期よりも10%以上落ち込んだ会社、さらには半分以下になった事例(ペルセウスプロテオミクス、マイクロ波化学)が複数存在します。

したがいまして、どのような業種であれ、直前期の売上が直前々期の売上を下回ったとしても、グロース市場への上場を否定する決定的な理由にならないようです。

直前期が減収に終わった会社に対する上場準備について、次の2つを仮定し、簡単に調べてみました。

直前期の売上が減収した会社は、上場申請が遅くなるのではないか?

直前期が減収に終わったとしても、高い成長可能性を有していることを説明することは、ハードルが高くなると予想されます。

そこで、直前期が減収した会社は、申請期の業績をじっくり、時間をかけて確認されるのではと考えます。

上場承認時に提出する目論見書には、四半期財務諸表が記載されています。

証券会社や取引所から申請期の業績をじっくり確認されたのかどうかは、目論見書の四半期財務諸表を見れば、大体わかります。

そこで、これらの22社の目論見書の四半期財務諸表を確認しました。その結果、表2のようになりました。

表2 直前期の売上が減収になった上場達成会社22社の目論見書における四半期財務諸表

社数(社名)
第1四半期報告書提出会社数 1(ラキール)
第2四半期報告書提出会社数 7(QDレーザ、コラントッテ他)
第3四半期報告書提出会社数 14(ステムリム、バルミューダ他)

表2を見ると、直前期の売上が減収で終わったとしても、それだけが上場延期になる決定的な理由にはならないようです。

主幹事証券会社の判断に偏りがないか?

繰り返しになりますが、東証グロース市場(旧東証マザーズ市場)へ上場を目指す企業に対しては、主幹事証券会社がグロース市場の適合要件である高い成長可能性を有しているか否かについて審査を行い、判断します。

直前期の売上高が減収に終わった事に対し、各主幹事証券会社は、どのような判断をするのかを調べてみました。

そこで22社の主幹事証券会社を調べると表3のようになりました。

表3 直前期の売上が減収になった上場達成会社22社の主幹事証券会社

社数
SMBC日興証券 7(Link-U、マイクロ波化学他)
SBI証券 6(ファンペップ、CS-C他)
みずほ証券 3(バルミューダ、全研本社他)
大和証券 3(フレクト、ストレージ王他)
野村證券 3(コラントッテ、ラキール他)

表3には、IPOの大手主幹事証券会社が名を連ねていることがわかります。

主幹事証券会社に判断の偏りは、無いようです。

申請期の売上が前年度から減収する見込の会社

主幹事証券会社は、上場申請会社が東証グロース市場の適合要件である高い成長可能性を有していると判断するには、原則、上場後の売上が拡大することを求めます。

しかし、申請期の売上が直前期よりも伸びていなくても、東証グロース市場(旧東証マザーズ市場含む)に上場達成した会社は多く存在します。

申請期の売上が直前期より低い経営計画(期越え上場の場合は、実績)であった上場達成企業は、261社中19社ありました。

内訳は、表1のようになります。(社名に株式会社を省略しています)

表4 2019年~2022年9月までに東証グロース市場(東証マザーズ含む)に上場達成した会社の内、申請期の売上が減収になる会社一覧

社名 業種 直前期売上(百万円) 申請期売上計画又は実績(百万円) 減収率(%)
ステムリム 医薬品 200 100 50%
INCLUSIVE サービス業 1,669 1,652 1%
Retty サービス業 2,268 2,213 2%
Fast Fitness Japan サービス業 11,333 11,110 2%
インバウンドテック サービス業 2,983 2,019 32%
ファンペップ 医薬品 301 3 99%
ペルセウスプロテオミクス 医薬品 85 67 21%
セレンディップ・ホールディングス 輸送用機器 15,196 14,460 5%
ステムセル研究所 サービス業 1,676 1,409 16%
メディア総研 サービス業 702 667 5%
レナサイエンス 医薬品 209 122 42%
ジィ・シィ企画 情報・通信業 2,638 2,078 21%
リニューアブル・ジャパン 電気・ガス 22,276 15,394 31%
Finatextホールディングス 情報・通信業 2,751 2,654 4%
ハイブリッドテクノロジーズ 情報・通信業 1,735 1,702 2%
CS-C サービス業 1,947 1,907 2%
サスメド 情報・通信業 115 95 17%
坪田ラボ 医薬品 687 640 7%
AViC サービス業 1,329 1,215 9%

業界に関わらず、申請期の売上が直前期に比べて減収の計画を立てたとしても、高い成長可能性を有しているかに対し、審査において否定されない事がわかります。

中には、申請期の売上が直前期よりも、10%以上落ち込む見込みの会社が何社も存在することがわかります。

したがいまして、どのような業種であれ、申請期の売上が直前期の売上を下回るような経営計画を策定したとしても、グロース市場への上場を否定する決定的な理由にならないようです。

そこで、また次のような仮定を立てて、調べてみました。

直前期が減収した会社が申請期に減収する経営計画を立てると上場出来ないのではないか?

直前期の売上が減収に終わり、申請期の売上計画をさらに減収と計画した会社は、4社ありました。表5になります。

表5 2019年~2022年9月までに東証グロース市場(東証マザーズ含む)に上場達成した会社の内、直前期と申請期の売上が減収になる会社一覧

社名 業種 直前々期売上(百万円) 直前期売上(百万円) 申請期売上計画又は実績(百万円)
ステムリム 医薬品 300 200 100
ファンペップ 医薬品 355 301 3
ペルセウスプロテオミクス 医薬品 275 85 67
CS-C サービス業 2,240 1,947 1,907

業種が医薬品の3社は、バイオベンチャーであるため、理解できそうな感じですが、CS-Cは、バイオベンチャーではありません。

そこでCS-Cの事業内容や売上が減収を続けている理由について、少し調べてみました。

株式会社CS-CのIPOについて

CS-CのIPOは、2020年9月期を直前期とし、上場日が2021年12月24日(金)となっています。翌週の火曜日(12月28日)が定時株主総会なので、ギリギリのスケジュールでの期越え上場でした。

そのようなスケジュールである事から、主幹事証券会社は申請期の予算達成状況とその翌期の予算の内容を確認した上で、主幹事証券会社であるSBI証券は、CS-Cが高い成長可能性を有していると判断したものと思われます。

なお、CS-Cの上場直前期と申請期の売上高は、2期連続で低下しましたが、申請期の利益は、経常利益、当期純利益とも、最高益を獲得しています。

利益面の底上げも主幹事証券会社の判断を後押ししたと思われます。

バイオベンチャー以外の会社が直前期と申請期の売上がどちらも前年度を下回るような事があった場合、この2つのような条件がないとIPOは難しくなるかもしれません。

まとめ

上場直前と直後の期の売上高が右肩上がりでは無かった上場達成企業にフォーカスを当てて、グロース市場の適合要件である高い成長可能性を有しているか否かについて考えてみました。

このブログ記事は、売上が右肩上がりでなければ東証グロース市場へ上場出来ないとお考えの会社経営者がいらっしゃったため、作成させていただきました。

勿論、右肩上がりである方が良いことは間違いありませんが、ビジネスモデルに魅力があり、予算作成の精度が一定レベルにあれば、売上が右肩上がりで無くとも、東証グロース市場への上場は夢ではないとご理解頂ければ幸甚です。

過去の記事ですが、直前期の予算達成状況を開示している事例があります。

この会社は、利益計画を達成しなくとも上場出来たと述べています。これも併せてご覧ください。

上場申請直前期の予算達成状況を開示しているIPO事例

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