10年程度前まで、コンプライアンス委員会やリスク委員会を設置している企業は大手企業を除き、ほとんどありませんでしたが、最近では、上場を目指す会社がこれらの委員会を設置している会社の方が圧倒的多数だと思います。

IPOAtoZのサポーター様から「上場するためには、コンプライアンス・リスク委員会を設置しなくてはいけないのか?」というお問合せを受けました。

そこで、これらの委員会の設置状況について昨年2021年1月以降~本ブログ作成開始時点までの間、東証に上場を達成した会社のⅠの部を調査し、調べてみました。

コーポレートガバナンス・コードにおけるリスク管理体制

プライム市場または、スタンダード市場へ上場達成するためには、コーポレートガバナンス・コードに定められた原則を遵守する必要があり、プライム市場に至っては、高い水準での遵守を求められます。

コーポレートガバナンスコード原則4-3には、次のような文面になっています。

コーポレートガバナンスコード原則4-3

【原則4-3.取締役会の役割・責務(3)】
取締役会は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、適切に会社の業績等の評価を行い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである。
また、取締役会は、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきである

4-3④ 内部統制や先を見越した全社的リスク管理体制の整備は、適切なコンプライアンスの確保とリスクテイクの裏付けとなり得るものであり、取締役会はグループ全体を含めたこれらの体制を適切に構築し、内部監査部門を活用しつつ、その運用状況を監督すべきである。

「内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきである」という記載があるため、委員会のような組織化が必要だと解釈されていらっしゃる方が少なからずいらっしゃるのかもしれません。

コーポレートガバナンス・コードの中には、リスク管理体制の整備について直接的な言及がありますが、コンプライアンス体制の整備について直接的な言及はされていません。

おそらく「内部統制」の中にコンプライアンス遵守体制が包含されているものと思料します。

コンプライアンス委員会、リスク委員会の設置状況

2021年1月以降、この記事を書き始めるまでに東証へ上場達成した会社(152社)のⅠの部を参考にして、コンプライアンス委員会とリスク委員会の設置状況を調査しました。

コンプライアンス委員会しか組織化されていないにも関わらず、企業リスクについて、コンプライアンス委員会で検討しているとⅠの部に開示されている会社は、リスク・コンプライアンス委員会(リスク委員会に関しても同様)にカウントしています。

表1 2021年以降にIPOした会社におけるコンプライアンス委員会、リスク委員会の設置状況

コンプライアンス委員会

のみ

リスク委員会

のみ

両方の委員会を設立 リスク・コンプライアンス

委員会

両方の委員会を設立せず
プライム 1 0 2 2 2
スタンダード 4 5 4 18 0
グロース 13 10 19 55 17

※ プライム(東証1部上場達成会社含む)、スタンダード(東証2部上場、ジャスダック市場上場会社含む)、グロース(マザーズ上場会社含む)

(出所:各社のⅠの部を元にIPOAtoZ作成)

表1だけを見ると、コンプライアンス委員会やリスク委員会の設置は、必須ではないようです。

なお、プライム市場上場達成会社の中で両方の委員会についてⅠの部に言及していなかった2社(シンプレクス・ホールディングスとPHCホールディングス)は、プライム市場上場ではなく、東証第1部上場です。

しかし、どの市場に上場するにせよ、リスク・コンプライアンス委員会の設置が主流になっているようです。

シンプレクス・ホールディングスとPHCホールディングスの開示例

前述しましたとおり、シンプレクス・ホールディングスとPHCホールディングスは、プライム市場(上場当時は、東証1部)上場企業なので、コーポレートガバナンス・コードの遵守が求められます。

つまり、両社はリスク管理体制の整備を求められています。

両社は、リスク管理体制やコンプライアンス遵守体制について、どのような体制をしているのか、両社の上場後の有価証券報告書の内容を見てみましょう。

両社のリスク管理体制

両社は、リスク管理体制について、以下のような開示をしています。

【損失の危険の管理に関する規程その他の体制】

  • 組織規程、業務分掌規程、職務権限規程等を整備することにより、責任体制及び意思決定手続を明確にし、経営全般のリスク管理を図っております。
  • リスクマネジメント規程等の基準を定め、事業で発生するリスクの把握と早期発見及び損害の拡大防止の徹底を図っております。
  • リスクが顕在化した場合には、経営会議を中心として、損害の拡大を防止しこれを最小限に止める体制を整えております。

(出所:シンプレクス・ホールディングス株式会社有価証券報告書より引用)

【損失の危険の管理に関する規程その他の体制】

リスク管理に関する規程を制定し、リスクに関する情報を一元的・網羅的に収集・評価して、重要リスクを特定し、その重要性に応じて対策を講じるとともに、その進捗をモニタリングし、継続的改善を図ります。

なお、リスクマネジメントに関する規程として、「リスクマネジメント基本規程」、「グループ緊急対策基本規程」、「グループ緊急事態対応マニュアル」等を定め、リスク管理体制を整備しております。

(出所:PHCホールディングス株式会社有価証券報告書より引用)

両社とも、リスク管理委員会は存在しないようですが、リスク管理に関する規程を整備することによってリスク管理体制が整備されているとアピールしていますね。

これだけを見れば、プライム市場やスタンダード市場へ上場を目指す会社は、リスク管理委員会を設立しなくとも、最低限、リスク管理に関する規程を準備する方が無難な感じがします。

両社のコンプライアンス体制

両社の有価証券報告書を確認すると、以下のとおりでした。

  • 【取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制】

コンプライアンス意識の徹底を図るとともに、効果的なガバナンス体制及びモニタリング体制を整えることによって、取締役の職務執行の適法性を確保します。

  • 【使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制】

コンプライアンスに対する方針の明示によって、使用人のコンプライアンス意識の向上を図ります。また、効果的なモニタリング体制を整えることによって、使用人の職務執行の適法性を確保します。

(出所:PHCホールディングス株式会社有価証券報告書より引用)

【取締役及び使用人の職務の執行が、法令及び定款に適合することを確保するための体制】

  • 取締役及び使用人に対し、法令、定款及び社会倫理の遵守が企業活動の前提となることを徹底しております。
  • 監査等委員会は、取締役の職務執行が法令等に適合していることについて毎期確認を行っております。

【内部監査の組織及び人員並びに内部監査手続】

当社における内部監査は、内部監査担当部署として、社長直轄の内部監査室を設置しております。内部監査室は、内部監査室長及び内部監査室スタッフ7名の計8名で構成されています。内部監査手続は、社内規程及び年度内部監査計画書に基づき実施されております。当社の内部監査は、業績の向上、財産の保全・活用に資することはもちろん、企業としてのコンプライアンスの充実を目的として行っております。

(出所:シンプレクス・ホールディングス株式会社有価証券報告書より引用)

両社の有価証券報告書では、リスク管理体制に関する説明と違い、コンプライアンス規程の整備について言及していませんでした。

両社の事例だけを見た限り、「コンプライアンス遵守体制の整備のためには、コンプライアンス規程の整備が必須である」という仮定は、間違いのように考えられます。

つまり、「規程や委員会等が無くても、現行の組織体制で十分にコンプライアンスを遵守出来ている」と説明出来ればOKということになりそうですね。

まとめ

最近、上場達成した企業のコンプライアンス委員会、リスク委員会の設置状況について調査し、紹介させていただきました。

リスク管理体制、コンプライアンス遵守体制については、IPO審査において定番質問になっているため、事前に想定Q&Aを準備しておくことをお勧めします。

IPOAtoZでは、IPOAtoZのサポーター様からご要望・お問合せがあれば、地味に、地味に、じみ~にコツコツ調べて、サポーター様に対し、このような回答をしています。

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