ストックオプションは、権利行使が可能な期間であれば、権利行使できるようになります。

しかし、ほとんどのストックオプションには、一定の条件をつけ、その条件をクリア出来なければ、権利行使が可能期間であっても、権利行使できないように設計されています。

この条件を一般的に「権利行使条件」と呼んでいます。

ストックオプションの制度設計をする際、権利行使条件は、最も自由設計できる箇所であり、ストックオプションの意図や目的を最も表現する項目であるため、経営者にとって大きな関心事になります。

ここでは、権利行使条件として、どのようなものが事例として存在するかを紹介させていただきます。

株式上場達成要件

「株式上場を達成しなければ、ストックオプションの権利行使ができない」または「株式上場の達成に関係なく、ストックオプションの権利行使が出来る」というストックオプションに分類されます。

株式上場達成要件があるストックオプション

IPOのストックオプションを割当てする場合、「当社株式が日本国内のいずれかの金融商品取引所に上場されるまでの間、権利行使ができない。」という条件をつけるケースがほとんどです。また、「当社株式が日本国内のいずれかの金融商品取引所に上場された日から、〇日後でなければ、権利行使ができない。」という事例も存在します。

株式上場達成要件を付ける目的は、次の2つに集約されると考えます。

株式上場達成要件があるストックオプションの採用目的
  1. 株式上場を目指すというメッセージを込める
    • 「株式上場を達成出来なければ、紙屑になる」「株式上場を達成出来れば、資産を獲得できる」というメッセージを込めることに繋がり、株式上場を目指して、役職員のモチベーションアップを狙う。
  2. 株式上場を失敗した場合のリスクヘッジ
    • 非上場の時にストックオプションの権利行使を行うことによる株主増を防止し、IPO直前まで株主構成の維持を図る。

株式上場達成要件がないストックオプション

IPO前に役員(特にオーナー社長)の持株比率が低い会社、または既に潜在株比率(発行済株式に対するストックオプションの割合)が高い会社が、あえて株式上場達成要件を付けないストックオプションを発行するケースがあります。

IPO直前にストックオプションの権利行使することにより、固定株式の比率を上げて、上場後の経営や株価の安定化を目的としています。

税制適格ストックオプションだけではなく、税制非適格ストックオプションや有償ストックオプションなどの発行も考慮に入れるケースが多々あります。

業績達成要件

業績達成要件とは、「予め定めた業績を達成しなければ、ストックオプションの権利行使ができない」という要件のことをいいます。

例えば「営業利益が10億円達成しなければ権利行使できない」「当期純利益が赤字であれば権利行使できない」というような要件です。

上場会社が発行するストックオプション等の場合、業績達成要件を付す事例は、多くあります。

リックソフト株式会社がIPOの準備段階で発行したストックオプションは、次のような要件が付されています。

リックソフト株式会社の事例(出所:リックソフト株式会社Ⅰの部より)

本新株予約権者は、(イ)乃至(ハ)のいずれかの期間の損益計算書における経常利益が以下(a)乃至(b)に掲げる条件を満たしている場合、各新株予約権者に割り当てられた本新株予約権のうち、以下(a)乃至(b)に掲げる割合(以下、「行使可能割合」という。)の個数を限度として行使することができる。ただし、行使可能な本新株予約権の数に1個未満の端数が生じる場合には、これを切り捨てた数とし、国際財務報告基準の適用等により参照すべき項目の概念に重要な変更があった場合には、別途参照すべき指標を当社株主総会(当社が取締役会設置会社となった場合には取締役会)で定めるものとする。

(イ)平成28年7月1日~平成29年6月30日

(ロ)平成29年7月1日~平成30年6月30日

(ハ)平成30年7月1日~平成31年6月30日

(a)130百万円を超過した場合: 行使可能割合:75%

(b)150百万円を超過した場合: 行使可能割合:100%

毎年のように上場後に業績が低下する上場ゴール企業が出現します。

業績達成要件を付す理由は、上場ゴール企業にならないという意思が込められています。

ただし、監査役や監査等委員に対するストックオプションに、業績達成要件を付けるのは、ネガティブという意見があります。

こちらで説明していますので、ご参考ください。

ストックオプション割当対象者ランキング【ストックオプション導入実務④】

株価達成要件

株価達成要件とは、「株価が〇円以上でなければ、権利行使できない」または「株価が〇円以上でなければ、権利行使をする意味がない」というようなストックオプションになります。

例えば、次のような事例です。

【具体的な権利行使価格を設定しない税制適格ストックオプション事例】ギフティ【IPO事例】

ギフティのストックオプションは、権利行使価格を「株式公開時の公開価格」として設定しています。

つまり、ギフティのストックオプションの場合、株価が低迷し、「株式公開時の公開価格」を下回ってしまうようなことになると、紙屑に終わるようなストックオプションになっています。

株価達成要件は、業績達成要件と同様に、上場後の企業価値を意識し、上場ゴール企業になってしまわないことを目的としています。

勤務要件・退職要件

ほとんどのストックオプションは、権利行使時点で勤務していることが要件になっています。

しかし、中には、一定の期間要件を付けて、退職退任後も権利行使が出来るように制度設計している事例があります。

株式会社アミファの事例(出所:株式会社アミファのⅠの部より)

載新株予約権者は、権利行使時においても当社又は当社の関係会社の取締役、取締役監査等委員、執行役員、顧問若しくは従業員その他これに準じる地位であることを要するものとする。ただし、当社又は当社の関係会社の取締役又は取締役監査等委員を任期満了により退任した場合、あるいは従業員として定年で退職した場合については、退任後又は退職後も新株予約権の行使ができることとする。その他、任期満了又は定年以外の理由で退任又は退職した場合において、当社に対する特別な功労が認められるときは、当社取締役会決議を経て退任後又は退職後も行使ができることとする。

上場会社が発行するストックオプションの中には、退任後でなければ権利行使が出来ないというストックオプションがあります。

これは、ストックオプションを役員退職慰労金として利用しています。

行使可能数要件

IPOを達成した会社は、めでたい事ばかりではありません。役職員の中には、IPO直後にストックオプションの権利行使をして、サッサと会社を退職するという例があります。

そのリスクを防止するために、ストックオプションの権利行使を一気に出来ないように制限する制度設計を付すことができます。

フリー株式会社が採用した事例を次に紹介します。

フリー株式会社の事例(出所:フリー株式会社Ⅰの部より)

新株予約権者は、当社が東京証券取引所その他これに類する国内又は国外の証券取引所に上場する日まで権利行使することができないものとする。また、上場後2年間に新株予約権者が行使可能な新株予約権の数は、1年目は割当数の1/3まで、2年目は割当数の2/3までとする。この比率を乗ずることにより生じる1個未満の端数は切り捨てる。

権利可能数要件については、こちらでも紹介しています。ご参考ください。

【ストックオプションのデメリット】フレアス【IPO事例】

評価要件

業績達成要件を付けたとしても、売上責任を担うのは営業部門であり、コスト責任を担うのは生産部門というように、責任分担を明確にしている会社が多くあります。そのような会社の場合、業績達成要件や株価達成要件を一律に設定することが適切ではないという議論が出る場合があります。

その場合、それぞれの割当対象者の職務内容に応じた評価を要件としたストックオプションを割当てする事例があります。

相当前の話になりますが、カルロスゴーンが日産自動車の社長に就任したとき、全国の日産ディーラーへ新株予約権を付与しました。その新株予約権には、権利行使の条件に各ディーラーの目標販売台数が付けられていました。

その他

ブログの中の人の経験では、上で取り上げたような要件の他に次のような例がありました。

  1. 健康要件
    • 禁煙達成やBMIの目標達成等の役職員の健康目標を要件としたものです。喫煙率が高い会社や、健康に関するサービス(例えば、スポーツジム運営企業)を行っている会社にとっては、有効かもしれません。
  2. 教育要件
    • TOEICや宅建等の資格取得を要件としたものです。教育関係の企業や、資格取得が求められる会社にとっては、有効であると思います。

ストックオプションの権利行使条件には、会社の課題達成や問題解決に向けた要件を付すことが自由に出来ます。

事例として、存在するかどうか不明ですが、例えば次のような要件を付すことも可能です。

  1. 環境要件
    • CO2排出量、または廃棄物量で一定量の削減が達成した場合に権利行使が可能になるというものです。環境維持については、関心が日々増しています。
  2. 退職者低減要件
    • 例えば「10名以上の離職者が出た場合、権利行使出来なくなる」という要件を付して、離職率の低減を図るというものです。離職率が高い会社の場合は、有効かもしれません。
  3. 提案・特許件数要件
    • 例えば「10件以上の提案をしなければ、権利行使出来なくなる」という要件を付して、提案制度の活性化を図るというものです。常に新規事業や新商品を次々出さなければいけない会社の場合は、有効かもしれません。

IPOAtoZのサービス

IPOAtoZは、IPOを達成した会社の有価証券届出書からデータや事例を蓄積しています。

オンラインサロンでは、データや事例を駆使して、アレコレ議論することができます。

ぜひご参加下さい!