上場を目指すとなると、取引先との取引内容について気をつけなければいけなくなります。

最も気をつけなければいけないのは反社会的勢力との取引であり、1撃アウトです。

その他には、「利益相反取引」や「関連当事者取引」「特別利害関係者取引」について注意が必要になります。

上場準備初心者にとっては、なんじゃこれ?と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

それぞれ「~取引」というよく似た用語でどんな違いがあるのか、よくわかりませんよね?

共通点は、自社との間で行われる取引であるという事です。

ここでは、これらの違いを中心に紹介させていただきます。

まず、「利益相反取引」「関連当事者」「特別利害関係者」の用語を説明している記事を↓に紹介させていただきます。

利益相反取引

「関連当事者」と「関連当事者等」の用語解説【IPO用語】

特別利害関係者【IPO用語】

法規則が異なる

3つの取引については、それぞれソースとなる法規則が異なります

  • 利益相反:会社法
  • 関連当事者:財務諸表等規則、企業内容等の開示に関する内閣府令
  • 特別利害関係者:企業内容等の開示に関する内閣府令

利益相反については、会社法356条で定められており、上場会社だけではなく、日本国内の全ての会社に関係がある用語になります。

一方、関連当事者と特別利害関係者は、財務諸表等規則や開示布令に関連する用語であり、会社法に関連する用語ではありません。

したがいまして、関連当事者と特別利害関係者は、上場会社をはじめとする有価証券報告書提出義務のある会社や有価証券届出書提出提出会社などの一部の会社に関係する用語になります。

表1 利益相反取引、関連当事者取引、特別利害関係者取引の違い①

違い
利益相反取引 全ての会社に関係する用語
関連当事者取引 一部の会社に関係する用語
特別利害関係者取引 一部の会社に関係する用語

法規則が異なると、責任の重さが異なります。

例えば、利益相反取引によって会社が損害を被った場合、取締役は会社に対して損害賠償責任を負うことが会社法で定められています。

しかし、関連当事者取引、特別利害関係者取引については、同様な法規則が存在しません。

取引対象者が異なる

3つの用語は、会社が行う取引の内容に関する用語ですが、取引する対象範囲が異なります。

なお、上場審査や引受審査での審査対象になるのは、「関連当事者」や「特別利害関係者」との取引も範囲に含まれることになりますので、「関連当事者等」「特別利害関係者等」も含めた比較を表2にまとめてみました。

表2 利益相反取引、関連当事者取引、特別利害関係者取引の違い②

取引対象者 利益相反 関連当事者 関連当事者等 特別利害関係者 特別利害関係者等
取締役
監査役や会計参与、執行役 ×
役員持株会 × × ×
親会社・子会社・関連会社 × × ×
役員の配偶者、二親等内の親族 × ×
主要株主 × × ×
人的、資本的な関連を強く有すると考えられる者 × × × ×
上位10番目以内の株主 × × × ×
人的関係会社・資本的関係会社 × × × ×

※ 表2の記載表現は、条文等に書かれている内容を優先しておりまして、実質的には誤解を生む可能性がある表現が多く存在することにご注意願います。例えば、監査役が利益相反取引に該当するケースがあったり、また実質的には親会社は特別利害関係者等の範囲に含まれるなどがあります。

※ 表2以外にも存在します。

ここで最も注意していただきたいのが利益相反取引の対象者です。

会社法第356条1項2号では、「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。」が利益相反であると定められています。

この条文の「自己」とは取締役自身のことを指し、「第三者」とは取締役以外の個人・法人等を指し、広範囲になります。

表2では、利益相反の箇所を取締役以外は全て「×」と記載しておりますが、「〇」と表記すべきなのかもしれません。

取引の定義が異なる

利益相反取引に該当する取引の定義は、関連当事者取引と特別利害関係者取引の取引の定義とは異なります。

会社法第356条1項2号に定められている「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。」が利益相反取引の定義です。

つまり、「取締役が自己又は第三者のためではなく、株式会社のために取引をしようとするとき。」は、利益相反取引ではありません。

表3に簡単にまとめました。

表3 利益相反取引、関連当事者取引、特別利害関係者取引の違い③

違い
利益相反取引 会社の損失やリスク等を増やすような取引に限定
関連当事者取引 あらゆる取引が該当
特別利害関係者取引 あらゆる取引が該当

決議が異なる

利益相反取引を行うためには、会社法で定められた手続きが存在する一方、関連当事者取引と特別利害関係者取引については、法令等で、取引を実行するための手続きが定められていません。

表4 利益相反取引、関連当事者取引、特別利害関係者取引の違い④

違い
利益相反取引 株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)での決議
関連当事者取引 会社の規程等の規則に則った決議
特別利害関係者取引 会社の規程等の規則に則った決議

上場準備作業において、利益相反取引に関する株主総会または取締役会の議事録の提出を求められます。

上場準備での位置づけが異なる

上場準備において、それぞれの取引に対する位置づけなどは異なります。

その違いについて、表5で簡単に説明させていただきます。

表5 利益相反取引、関連当事者取引、特別利害関係者取引の違い⑤

利益相反取引 関連当事者取引 特別利害関係者取引
上場審査 対象 対象 対象※
Ⅰの部への記載 不要 不要
上場までの解消 ほぼ100%解消要 内容次第で継続可 内容次第で継続可

※東証は、特別利害関係者取引が審査対象として公表していません。

取引の事例

以下では、それぞれの取引の属性の違いについて、いくつかの事例を紹介します。

事例1「会社が銀行借入をする際、取締役が個人保証を行う。なお取締役は当該個人保証に対して、無償で保証する」

会社が運転資金を銀行から融資を受けようとする際、銀行はオーナー社長に対し個人保証を求めることがよくあります。

その個人保証に対し、オーナー社長は会社に対し、保証料等を求めていないというケースは多々あります。

これも一つの取引になります。

このような取引は、次のようになります。

違い
利益相反取引 該当しない
関連当事者取引 該当する
特別利害関係者取引 該当する

この取引は、オーナー社長のために行う取引ではなく、オーナー社長が個人でリスクを一方的に背負った取引である事から、利益相反取引には該当しません。

しかし、取締役は、関連当事者かつ特別利害関係者であることから、関連当事者取引と特別利害関係者取引に該当します。

事例2「会社が銀行借入をする際、取締役が個人保証を行う。なお取締役は当該個人保証に対して、有償で保証する」

事例1は、無償での取引ですが、事例2は有償の取引になります。

このような事例の場合、次のようになります。

違い
利益相反取引 該当する
関連当事者取引 該当する
特別利害関係者取引 該当する

会社が取締役へ保証料を支払っていることから、利益相反取引に該当することになります。

また、取締役は、関連当事者かつ特別利害関係者であることから、関連当事者取引でもあり、特別利害関係者取引でもあります。

事例3「会社が取締役の友人の銀行借入に対して、無償で保証する」

例えば、オーナー社長の幼馴染が銀行借入をする際、会社が保証をし、その保証料が無償だったと想定します(あまりケースとして考えられない無理やりなケースですが。。。)

このような事例の場合、次のようになります。

違い
利益相反取引 該当する
関連当事者取引 該当しない
特別利害関係者取引 該当しない

会社が取締役の友人ために行う無償での保証のため、利益相反取引に該当することになります。

しかし、取締役の友人が関連当事者や特別利害関係者でもなかった場合、関連当事者取引と特別利害関係者取引に該当しなくなります。

なお関連当事者等取引には該当する可能性があると考えます。

まとめ

IPOを達成するまでに行われる審査では、このような取引の存在に関して審査を受けることになります。

また、IPOを達成するためには、ここで紹介した取引以外にも注意しなければいけない取引が存在します。

それは、オーナー社長などの個人的な趣味や嗜好によって行われる取引(例えば、美術品や社用車など)、また特定の役員等が個人的に利用する目的で購入する取引などになります。