東証へ上場するためには、また東証上場を維持するには、純資産の額について、以下のような規則が存在します。

新規上場基準(形式要件 上場維持基準
プレミア 連結純資産の額が 50 億円以上かつ、単体純資産の額が負でないこと(上場時見込み)

純資産の額が正であること

(ただし各種要件あり)

スタンダード 連結純資産の額が正であること(上場時見込み)
グロース

グロース市場のみ、債務超過の会社でも上場可能になっています。

一応説明させていただきますが、債務超過とは、企業が抱える負債(買掛金や借入金など)の総額が、資産(売掛金や普通預金など)の総額を上回っている財政状態のこと、つまり純資産が負になっている状態をいいます。

ここでは、上場達成企業の中で債務超過状態にあった会社がどのような対応をしたのかを事例を通じて紹介させていただきます。

直前々期まで債務超過であったIPO事例

直前々期まで債務超過であり、直前期にファイナンスまたは直前期の利益獲得により債務超過を脱却した会社は2019年~2022年のIPOの中で4社(ロコガイド、クリーマ、THECOO、monoAI technology)確認しています。

これら4社の当期利益、純資産、資本政策についての概要を次に示します。

ロコガイドの上場前の状況

直前々期(2018/3) 直前期(2019/3)
当期利益 -200百万円 156百万円
純資産合計 -30百万円 338百万円
主な資本政策 社長による無担保転換社債型新株予約権付社債の転換

クリーマの上場前の状況

直前々期(2019/2) 直前期(2020/2)
当期利益 -373百万円 -28百万円
純資産合計 -130百万円 39百万円
主な資本政策 有償第三者割当増資 有償第三者割当増資

THECOOの上場前の状況

直前々期(2019/12) 直前期(2020/12)
当期利益 -243百万円 -65百万円
純資産合計 -156百万円 480百万円
主な資本政策 有償第三者割当増資 有償第三者割当増資

monoAI technologyの上場前の状況

直前々期(2020/12) 直前期(2021/12)
当期利益 -580百万円 -181百万円
純資産合計 -458百万円 309百万円
主な資本政策 有償第三者割当増資 有償第三者割当増資

直前々期まで債務超過であったIPO事例の共通点

非常に雑ですが、上記4社の共通点は次の2点です。

  • 直前期に第三者割当増資を中心としたファイナンスを行っている
  • グロースまたはマザーズ上場企業である

もしブログの中の人が証券会社公開引受部門担当者であれば、直前期までに債務超過状態の解消を要請していると思います。

直前期まで債務超過であったIPO事例

IPOAtoZでは、2019年以降の東証での上場達成企業におきまして、直前期末まで債務超過であり、申請期・上場承認時までに債務超過が解消した事例は2社確認しています。

たった2社とはレアですが、過去に遡ると結構存在すると予想しています。

Appier Groupの上場前の資本合計の推移と対応策

Appier Groupは、IFRSを採用しているため、資本合計がマイナスになっている場合、債務超過として考えています。

直前々期以降の当期利益と資本合計、資本政策を↓で示します。

直前々期

(2018/12)

直前期

(2019/12)

上場承認時

(第3四半期)

当期利益 -1,949百万円 -2,349百万円 -1,393百万円
資本合計 -4,246百万円 -6,513百万円 7,904百万円
主な資本政策 有償株主割当
デッドエクイティスワップ

Appier Groupは上場後も赤字が継続する計画になっています。

上場前に資本増強し、債務超過状態を回避した後に上場承認を受け、IPOしています。

直前期末の流動負債が183億円あり、その内154億円が当時の親会社からの借入でした。

ジーネクストの上場前の純資産額の推移と対応策

直前々期以降の当期利益と資本合計、資本政策を↓で示します。

直前々期

(2019/3)

直前期

(2020/3)

上場承認時

(第3四半期)

当期利益 -110百万円 -184百万円 55百万円
純資産合計 -238百万円 -96百万円 225百万円
資本政策 有償第三者割当 有償第三者割当 有償第三者割当

ジーネクストは、直前々期、直前期、申請期に渡り、第三者割当増資を小まめに行い、申請期の黒字転換の確認後、上場承認を受け、IPOしています。

ジーネクストは、直前々期に銀行から借入をしていますが、その借入に対し、社長が自宅を担保提供しています。この自宅の担保提供に係る関連当事者取引ついては、上場後も外れていません。

直前期まで債務超過であったIPO事例の共通点

非常に雑ですが、上記2社の共通点は次の3点です。

  • 申請期に第三者割当増資を中心としたファイナンスを行っている
  • グロースまたはマザーズ上場企業である
  • 主幹事証券会社がSMBC日興証券である

ブログの中の人は、「大型の案件であれば、債務超過でも主幹事証券はGoを出すのかな」と考えましたが、ジーネクストは時価総額が50億円にも満たない規模のIPOです。

勝手な想像ですが、SMBC日興証券の社内基準として、「上場承認を受ける前までに債務超過の解消をしていること」が存在するのかもしれません。または一方、SMBC日興証券以外の証券会社の中には、申請期に債務超過状態での上場を認めないというガイドラインが存在する証券会社が存在するかもしれません。

もし債務超過の会社が主幹事証券会社を選択する場合、債務超過に関する考えを主幹事証券会社に確認をしておいたほうが良いですね。

債務超過状態で上場承認を受けた会社

繰り返しになりますが、グロース市場への上場は債務超過企業でも可能です。

プレミア市場、スタンダード市場でもIPO時のファイナンスによって債務超過を脱却できるのであれば、純資産に関する形式要件をクリア可能になります。

しかし、上場承認時に債務超過の状態であったIPO事例は、極めてレアでありまして、IPO AtoZが調べた限り、2018年以降のIPOでたった1例でした。

↓で紹介しています。

債務超過の会社が上場承認を受けたIPO事例【IPO事例-42】

この記事は、社名、さらにどのような業績でのIPOだったのかという紹介もしています。

「こういう状態だから、債務超過でも上場承認をもらったのね」という事がイメージが出来るような会社です。

具体的にお聞きになりたい方は、IPO AtoZサロンにご入会いただきますようお願いします。

なお、この記事に関する内容をChatGPTに聞いてみました。

ChatGPTによると2019年に上場した「MOTHER HOUSE Co., Ltd.」が債務超過で上場承認を受けたと回答されました(それがこの記事の一番上にある画像です)。

IPO AtoZが確認したところ、そのような会社が上場している形跡はありませんでした。これからIPOAtoZは、ChatGPTでも調べようと思います。

まとめ

2019年~2022年の4年間の東証IPOの内、直前々期以降、債務超過であった会社を紹介させていただきました。

債務超過状態での上場承認が非常にレアケースである理由はいくつかあると思いますが、主幹事証券会社がクライアントにアドバイザリー支援途中で倒産してもらっては困りますし、倒産に至らずにせよ、債務超過による信用力の低下によって、上場準備途中でありながら、銀行や取引先が態度を変化させる懸念を払拭したいと考えることが考えられます。

    債務超過に関しましては、別の観点でも記事が存在します。

    債務超過の子会社を持つ会社の上場達成事例

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