ブログの中の人は、東証一部上場企業やそのグループ企業などを数社勤務した経験があり、また証券会社勤務時期に多くの会社の予算を見た経験があります。
その中で多くの会社が「二重予算制度」を採用していました(中には、三重予算を作成している会社もありました)。
二重予算制度は、上場企業だけに止まらず、上場を目指す非上場会社の多くが採用しているようです。
しかし一方、上場準備の観点からすると、ネガティブな評価を受けることになります。
ここでは、二重予算制度を採用するにあたっての留意点について書かせていただきます。
二重予算の使い方例
二重予算制度は、”強気な目標予算”と”堅実な現実予算”の2つが一般的なようです。
それぞれの予算は、数字が異なるだけではなく、目的などが異なり、”強気な目標予算”は人事や組織の評価用として使い、”堅実な現実予算”は社外への開示用に使っている例が多くありました。
ブログの中の人の経験をまとめますと、二重予算制度を採用している会社は、表1のように利用している例が多い印象です。
表1 二重予算制度の使い方例
目標予算 | 現実予算 | |
---|---|---|
目的 | 人事評価
組織評価 |
開示
ノルマ |
会計 | 管理会計 | 財務会計 |
報告 | 経営会議等 | 取締役会 |
連携 | 特になし | 資金繰表 |
二重予算のデメリット
上場準備において二重予算制度を運用することが否定されるような規則等はありませんが、一般的にネガティブな評価を受けます。
その理由は、次のようになります。
二重予算の存在は、月次予算の差異分析の早期化を妨がないのか?
証券会社の公開引受部門や審査部門、また東証は上場準備会社の予算管理部門に対して、早期開示出来る体制整備を求めます。
早期開示のためには、財務諸表の作成と分析の早期化が必要になります。
そこで、二重予算の存在は、早期開示のための体制整備を妨げる存在として見做す場合が高くなります。
目標予算を作成や管理しなければ、現実予算管理をもっと早く、またはもっと充実した予算管理ができるのではという疑念が出てきます。
- 二重予算の存在は、東証が求める決算短信の早期提出の対応に支障を来す懸念がある
- 二重予算の存在によって、予算管理部門の業務量が増し、その他の重要な業務が後回しになってしまう懸念がある
二重予算の存在が、開示資料の信頼性低下に結び付くのではないか?
上場すれば、決算短信で業績予想を公表することになります。
その業績予想は、「重要事実」とリンクすることもあり、信頼性が重要な情報になります。
開示資料には、業績予想の数字を記載するだけではなく、業績を達成するための行動計画の概要や進捗状況等を記載する事になります。
しかし業績予想から乖離した他の予算を使って管理している会社の場合、これらの開示情報に対する信頼性が薄れてしまうことになります。
- 二重予算の存在によって、業績予想に関連する情報の信頼性が低下する懸念がある
- 「現実予算」(上場会社にとって重要視する方の予算)の分析水準が低くなる懸念がある
二重予算の存在が会計不正を招く原因にならないか
キツイ目標を掲げた計画が不正会計を招いたことや、人事や組織に問題が発生するなどの不祥事を起こす事例が過去にありました。二重予算を作成してしまう会社は、現実予算よりも目標予算の方を重要視する傾向があるためです。
大規模な不正会計の例をいえば、東芝です。東芝が2015年に発覚した不祥事が発生した原因は、目標予算(東芝では”チャレンジ”とよんでいた)の存在といわれています。
不正会計に手を染めた会社の中で、特に架空売上を行うような会社は、従前から過剰なノルマを課せられた背景がある割合が高く、最近では株式会社日本M&Aセンターの粉飾(プレスリリースはこちらになります)もそのような背景が一因にあると言われています。
- 二重予算の存在は、不正会計を招いてしまう土壌になる懸念がある
会社組織に問題が発生しないか
二重予算を作成してしまう会社は、現実予算よりも目標予算の方を重要視する傾向があります。
目標予算はあくまでも目標的な位置づけにすべきですが、それが実質的なノルマになってしまうと、従業員にとりましては過酷になります。
過酷なノルマを課す企業文化を持つ会社には、会社組織また役職員個人にとりまして、様々な問題を引き起こす懸念が存在します。
- 二重予算の存在は、役職員の自殺をはじめとするメンタルヘルス面で重大問題が出る懸念がある
- ノルマが過酷になり、過剰残業やパワハラ等、コンプライアンス面で問題が生じる懸念がある
- 予算の達成意識や責任感、管理の尺度があいまいになり、社員の士気が低下するのではないかという懸念がある
上場準備会社が二重予算制度を運用するために
主幹事証券会社や証券取引所との間で議論する予算は、現実予算の方になります。
現実予算は、財務会計ベースで策定して管理を行う必要があり、経営者としては、目標予算より、現実予算の方を重要視する必要があります。
そこで、二重予算を採用する場合、次のような提案をさせていただきます。
- 経営陣は、現実予算の方を重要視している事をアピールできるようにする。
- 取締役会では、現実予算について議論する。
- 二つの予算を1つのシートで管理せず、別々のシートで管理する。
- 目標予算が過剰なノルマになっていない事をアピールできるようにする。
ブログの中の人は、二重予算制度を採用している会社に対し、予実管理のボリュームや質が「目標予算<現実予算」で無ければいけないとアドバイスしていました。
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