従業員持株会を発足した後、従業員持株会を何とかして、活性化させたいという経営者は意外にあります。

それは主に次のような場合です。

従業員持株会を活性化させるメリット

● 非上場会社

  • 既存株主の売却意向に対する受け皿づくり

● 上場会社

  • 株式の需要を高める

IPO前に従業員持株会を活性化させたいと考えるケースとして、ダントツなのが、上で挙げたように既存株主から株式の売却意向が出た場合への備えです。

また、IPO前に従業員持株会を活性化させて親引けを行うと、IPO時の株価形成に良い効果を期待できるといったメリットもあります。

さらにIPO後も良好な株価形成の支援者となるメリットもあります。

つまり持株会の活性化は、上場前の資本政策に、そして上場後の株価維持に結び付くことが期待できるというわけです。

従業員持株会を活性化させるには、「①新規会員を増やすための方策」と「②既存会員の拠出金を増やすための方策」を実行することになります。

国内大手の物流会社ヤ〇〇運輸株式会社を傘下に持つヤ〇〇ホールディングス(以下では「クロネコ社」といいます)は、2019年末、株価が低迷しました。株価向上対策の一環として、従業員持株会の活性化を積極的に行いました。

その対策は、上場会社が取り得る従業員持株会活性化策のフルセットでしたので、その事例を中心に紹介させていただきます。

なお従業員持株会については、こちらで紹介しています。

従業員持株会【IPO用語】

新規会員を増やすための方策例

持株会を活性化させるためには、まず新規会員を増やす方策を考えることから始めます。

その方策は、次のようになります。

プロモーション活動を実施する

まず何と言っても、これが基本です。

クロネコ社は、新規会員を増やすためにキャンペーンを行いました。

クロネコ社は、社員向けセミナー、社内イントラ、パンフレット配布でプロモーション活動を行いました。

パンフレットには、①キャンペーンの内容②従業員持株会のメリット等の基本情報③入会手続きが記されています。

クロネコ社ではありませんが、社内イントラには、従業員持株会について、動画で説明している会社もあります。

特別奨励金を与える

新規会員を増やすため、奨励金を増額することは定番の方策です。

クロネコ社の場合は、キャンペーン期間中に入会した会員に対して特別奨励金という形で一律1,000円を支給しました。

特別奨励金は、従業員持株会のキャンペーンで採用する事例は結構多くあるようです。

「たった1,000円だけ?」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、意外に重要な取り組みです。

従業員持株会の奨励金については、東証が毎年調査し、その結果を公表しています。

こちらになります。

奨励金の平均は、例年5%~10%の範囲にあり、上場会社の中には100%という会社があります。

会員の範囲を拡大する

従業員持株会の会員の範囲は、「実施会社及び実施会社の子会社の従業員」に定められています。

この会員の範囲については、それぞれの従業員持株会によって異なります。

正社員しか認めない従業員持株会があったり、パートアルバイトも会員に認める従業員持株会もあります。さらに1年以上働いた人だけなどの条件をつける従業員持株会も存在します。

従業員持株会を活性化させるには、契約社員やパートアルバイト、子会社の従業員など、これまでの会員の範囲から追加することが一考です。

しかし、パートアルバイトの離職率が高い会社の場合は、あまりおススメできません。

既存会員の拠出金を増やす方策例

新規会員と同じような取り組みを行うことが基本です。

クロネコ社の場合は、既存会員に対しても、拠出金を増額した会員に対して、臨時拠出金を支給しました。

その上、次のような取り組みを実行しました。

長期継続する会員に対して奨励金率をアップさせる

クロネコ社の従業員持株会の奨励金の支給金額は、拠出金に対し10%です。

しかしクロネコ社の場合は、従業員持株会を5年継続した会員に対しては13%、10年継続した会員に対しては15%に増額することに決定しました。

これは、既存会員にとっても、非常に魅力的な制度であり、クロネコ社では多くの従業員が拠出金を増額した模様です。

しかしクロネコ社のように、全会員の奨励金が一律でないような奨励金の制度を設ける場合、そのフローをしっかりと証券会社と打ち合わせしなければいけません。

例えばクロネコ社の場合、どの会員が奨励金をいつ変更されるのかを調査するのは、クロネコ社側なのか証券会社側なのか。その情報伝達手段はどうするのか。という内容です。

どの証券会社も、おそらく持株会会員の継続年数に合わせて、自動で奨励金を変更するというようなシステムを保有していないと推察します。したがいまして、奨励金の変更は、証券会社の事務担当者が手作業で行うことになります。その作業の指示をどうするのかというフローをまとめる必要性が出てきます。

拠出口数の上限を緩和する

拠出口数の上限を定めている従業員持株会は、ほとんどのようです。

口数の上限を緩和、もしくは撤廃することにより、さらに拠出口数を増やしてもらうということは十分考えられる方策です。

なお、1回あたりの拠出金額は、100万円未満にする必要があると法律で定められています。

融資制度を設ける

クロネコ社では、従業員持株会で積立した株式を担保として年利1%で融資を受ける福利厚生制度を設けています。

この融資制度は、正社員以外も使え、最短10日程度で振込できるそうです。

持株会への拠出金を増額すると、手持ちの金が目減りするという不安を持つ人は、結構な人数がいます。

このような人に対して、融資制度の存在は、安心感が増すと思われます。

しかしこの制度を設ける場合、念のため、事前に弁護士へ確認をしてからにしましょう。自社株式への投資を条件に自社が融資する行為は、違法と見なされる可能性があるためです。

まとめ

従業員持株会の活性化策案について、述べさせていただきました。

これらの方策以外にも「従業員持株会ESOP」というものを導入する例もあります。

上場会社の中には、株価向上策の一環として捉えている会社は意外と多く存在しておりまして、市場再編前後に従業員持株会活性化を実行する会社が続出するのではと、ブログの中の人は考えています。