経営者が「うちの会社は、IPO出来るのかなあ?」「IPOをするには、何をやらなきゃいけないのかなあ?」とぼんやり考えたとき、または、社長からいきなり「うちの会社、IPOを目指すことにしたから、IPO準備の実務をやってね💖」と言われたとき、まず何から始めますか?

ズバリコレです。

日本公認会計士協会が発行している「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」を読むことです。

こちらにあります。

タダ、シンプルという事が第一の理由ですが、それだけではありません。

IPO準備の最初のイベントが「監査法人によるショートレビュー」だからです。

ショートレビューについては、こちらで解説しています。

ショートレビュー【IPO用語】

このガイドブックとは、日本公認会計士協会が「IPOを目指す会社が、ショートレビューをやる前に行わなければいけない準備事項」について公式にリストアップしている資料になっています。

ここでは、「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」のポイントを取り上げます。

「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」の目的

監査難民という言葉があります。監査難民については、こちらで説明しています。

監査難民【IPO用語】

これはIPO業界にとっては問題であり、「監査法人は、無責任だぁ」とか「監査法人は、社会的使命を果たせぇ~」という人がいます。

監査難民が問題になっていることは、監査法人業界にとっても十分理解しておりまして、監査難民を減らすためのひとつの課題として、監査効率アップがあります。

監査の効率アップの方策は、いくつか存在しますが、その中のひとつとして、「ゴミ案件をやらない」「ゴミ案件は、サッサと片づける」ということが本音にあります。

「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」の4ページに次のような内容があります。

「いざ会計監査を受けようとするときに受入体制が整っていなければ、体制の整備のために想定外の時間が必要となり、予定していたIPOスケジュールを延期せざるを得なくなる場合があります。事前準備で監査受入体制の整備が図られていれば、そういった事態も避けることができます。(出所:株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブックより)」

この文章を逆読みすれば、「会計監査を受けようとするときまでに一定の受入体制が整っていない案件は、ゴミ案件」という事になります。

監査法人は、ショートレビューを原価レベルで行っています。

監査法人側から考えると、一定の受入体制が整っていないゴミ案件のショートレビューは”単なる時間の無駄”となってしまいます。

IPOを目指す会社は、監査法人からゴミ案件扱いされないようにしなければいけません。したがいまして、ショートレビューを受ける前までに一定の受入体制の整備が必要になります。

ショートレビューを受けるまでの受入体制とは

「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」をまとめますと、ショートレビューを受けるまでの受入体制のポイントとは、次のようになります。

ショートレビューを受けるまでの受入体制のポイント
  1. 監査を進めるための証憑・伝票が整理されている。
    • 伝票番号で会計処理とその証憑書類を紐付けておくという方法を採用することなどで、会計処理の妥当性が事後的に検証可能となるよう、証憑書類の整理をする(電子データも同様)。
    • 取引先から受領する納品書や、物品やサービスを顧客に引き渡した時点(又は検収された時点)を把握できる証憑を入手するなど、適切なデータが整備されている。
    • 口頭だけの取引があれば、解消改善し、取引先とは基本取引契約書などを交わし、取引内容の明確化をはかり、収益認識会計基準の対応が可能な状態になっている。
    • 営業部門が請求書を発行することが妥当であるかどうかや、請求書(控)で売上計上することが妥当かどうかの検討をしている。
  2. 正確な資産の計上額、つまり正確なバランスシートを作成するための土台がある。
    • 棚卸要領や棚卸実施マニュアルを作った上で、実地棚卸を行い、かつ正確な受払記録の作成している。棚卸当日は各現場における監督者が決められた方法を守っているかどうかをチェックし、管理部門や内部監査部門も立ち会う、といった形で実地棚卸の精度を保持している。
    • リース資産やソフトウェアなどの無形固定資産も含め、固定資産の取得、移動や廃棄が台帳に適切に反映されている固定資産管理台帳が存在する。
    • 内容不明の残高が存在しない。内容不明の残高が存在する場合、原因を整理する。
    • 各種引当金や、固定資産の減損、関係会社投融資や非上場株式などの時価のない金融商品の時価評価、繰延税金資産の回収可能性など、将来の見積りを考慮した会計処理について、その見積の算出方法についての検討プロセスを準備している。
  3. 金融商品取引法会計が出来る土台がある。
    • 現金主義から脱却している。
    • 精微な原価計算が出来るような体制づくりに着手している。
    • 連結決算の対象を確定するための資料を整理するとともに、関係会社管理規程などを整備し、連結決算が行うことが可能な体制を整備する。
  4. 一定のコンプライアンス体制を構築している。
    • 適正な労務管理を行っている。また未払残業代が存在しない。
    • 役職員の不正を防止するための、牽制が働く内部管理体制を整えている。
  5. 上場会社を目指す会社に相応しい組織づくりをする土台がある。
    • 役員や親会社等の関連当事者との取引の有無を全て洗い出す。
    • 会社の情報システムに関連するIT全社統制および、会社のIT全般統制である情報システムについての内部管理体制の整備と運用を行っている。

IPOを目指すにあたっては、色々なことに着手・改善しなければいけません。

その中で何から着手しなければいけないのかが、「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」を通じて、理解できます。