
IPOを達成するためには、反社会的勢力排除のための体制を整備し、対策を実施する必要があります。
ここではIPOを目指す会社が必要になる反社会的勢力排除のための体制について説明させていただきます。
反社会的勢力の定義
反社会的勢力の定義については、こち
らの記事でまとめています。
反社会的勢力の定義は、曖昧になりやすくなっています。
証券会社や東証は、事業の性質上、この定義よりも広く捉えています。IPOを目指す会社も同様に反社会的勢力の定義を広く捉えるべきと考えます。
例えば、覚醒剤取締役法や銃刀法違反で逮捕された人が社長や大株主に存在するような会社は、現在、覚醒剤やけん銃等を所持していなくとも、東証や証券会社は厳しい判断をする可能性が高いと考えます。
反社会的勢力の対策として企業は、どのようなことをするのか
IPOを達成すると「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」という報告書の提出が必要になります。
その中に「2.反社会的勢力排除に向けた基本的な考え方及びその整備状況」という項目がありまして、その内容をキチンと書けるようにならなければいけません。
その項目の記載内容は、コーポレートガバナンス報告書の記載要領で示されています。
- 基本的な考え方及びその整備状況についてまとめて記載することが可能です。
- 当該内容に変更があればその都度修正してください。
- 基本的な考え方及びその整備状況をコーポレート・ガバナンス報告書に記載するために、取締役会決議をすることは必須ではなく、現在の考え方や整備されている状況を記載することで差し支えありません。ただし、政府指針(平成19年6月19日付「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)においては、「反社会的勢力による被害の防止は、業務の適正を確保するために必要な法令等遵守・リスク管理事項として、内部統制システムに明確に位置付けることが必要である。」と記載されているため、会社法上の内部統制システムに位置付けて取締役会決議を行うかどうかは、それを考慮した上で判断を行ってください。
- 反社会的勢力による経営活動への関与の防止や当該勢力による被害を防止するための上場会社の基本的な考え方(基本方針)を記載してください。
反社会的勢力による経営活動への関与の防止や当該勢力による被害を防止する観点から、組織全体で対応することを目的とした倫理規定、行動規範、社内規則等の整備状況及び社内体制の整備状況について記載してください。
- 社内体制の整備状況については、例えば、以下に掲げる反社会的勢力による不当要求に備えた平素からの対応状況について記載することが考えられます。
- 対応統括部署及び不当要求防止責任者の設置状況
- 外部の専門機関との連携状況
- 反社会的勢力に関する情報の収集・管理状況
- 対応マニュアルの整備状況
- 研修活動の実施状況
- 平成19年6月公表の犯罪対策閣僚会議「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を参考に記載することが考えられます。
この記載要項の中にある犯罪対策閣僚会議「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」について、次に重要ポイントをまとめます。
- 企業は、反社会的勢力との関係遮断を、内部統制システムの法令等遵守・リスク管理事項として明記するとともに、社内規則等の服務規程の中にも規定することが重要と考えられる。
- 反社会的勢力から不当な要求等を受けた際、反社会的勢力対応部署の要請を受けて、不祥事案を担当する部署が速やかに事実関係を調査する。仮に、反社会的勢力の指摘が虚偽であると判明した場合には、その旨を理由として不当要求を拒絶する。また、仮に真実であると判明した場合でも、不当要求自体は拒絶し、不祥事案の問題については、別途、当該事実関係の適切な開示や再発防止策の徹底等により対応する。
- 反社会的勢力による被害を防止するためには、反社会的勢力であると完全に判明した段階のみならず、反社会的勢力であるとの疑いを生じた段階においても、関係遮断を図ることが大切である。
- 企業が社内の標準として使用する契約書や取引約款に暴力団排除条項を盛り込むことが望ましい。
- 暴力団排除条項と組み合わせることにより、有効な反社会的勢力の排除方策として不実の告知に着目した契約解除という考え方がある。
- 反社会的勢力に企業の株式を取得されないように対策を講ずる必要がある。
- 警察署の暴力担当課の担当者や、暴力追放運動推進センターの担当者と、暴排協議会等を通じて、平素から意思疎通を行い、反社会的勢力による不当要求が行われた有事の際に、躊躇することなく、連絡や相談ができるような人間関係を構築することが重要である。
- 企業が、反社会的勢力の不当要求に対して毅然と対処し、その被害を防止するためには、各企業において、自ら業務上取得した、あるいは他の事業者や暴力追放運動推進センター等から提供を受けた反社会的勢力の情報をデータベース化し、反社会的勢力による被害防止のために利用することが、極めて重要かつ必要である
監査役は、日本監査役協会が公表している「反社会的勢力との関係遮断体制のチェックリスト」を参考にして、チェックリストを作成し、監査にとりかかることをおすすめします(監査役にとって、このサイトにあるチェックリストは全般的に参考にできると思います)。
反社会的勢力の調べ方
IPOを目指す会社がすべからく、反社会的勢力の対策で最も頭を悩ませるのが、「反社会的勢力をどうやって調べるのか」です。
証券会社や東証、また大手電機メーカーH社等の超大手企業は、「反社チェックシステム」という新聞雑誌記事や専門組織等から得た情報をデータベース化したシステムを保有しています。
しかし、これからIPOを目指す会社がそのような大規模なシステムを独自構築することは困難です。
そこで世間ではどのようにして反社会的勢力を調べているのでしょうか。
全国暴力追放運動推進センターの「平成30年度 企業を対象とした反社会的勢力との関係遮断に関するアンケート」を見れば、次のような調査方法で調査していることがわかります
- 加盟している業界団体等から情報提供を受ける
- 無料のインターネット検索を利用する
- 警察から情報提供を受ける
- 民間の調査会社を利用する
- 暴力追放運動推進センターから情報提供を受ける
- 自社のデータベースを利用する
- 有料のインターネット検索(新聞記事検索)を利用する
(出所:全国暴力追放運動推進センターの「平成30年度 企業を対象とした反社会的勢力との関係遮断に関するアンケート」より抜粋)
「平成30年度 企業を対象とした反社会的勢力との関係遮断に関するアンケート」によれば、「加盟している業界団体等から情報提供を受ける」が最も大きな割合を占めています。
反社会的勢力の調査を行っていない会社は、まず業界団体に問い合わせてみましょう!
反社会的勢力を調べる範囲
「反社会的勢力と関係を遮断し、取引をしないようにしましょう」という理念はわかりますが、業種業界によっては、全ての顧客や取引先に対して反社会的勢力のチェックをすることが現実的ではない場合が多々存在します。
例えば、上場会社であるマクドナルドやビックカメラ、ニトリ等は、来店者をいちいち調査していません。JR東海や小田急電鉄、阪急電車などの上場企業の鉄道は、乗車客や定期券購入者をいちいち調査していません。反社会的勢力の中には、トヨタやホンダの自動車を乗っている人がいるはずです。
そこで、IPOを目指す会社にとって、どのような個人や団体、法人に対する調査が最低限必要になるのでしょうか?
まず東証へ上場申請する際、「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書 (別添 個人法人リスト)」を提出することになります。その個人法人リストに挙げる法人個人は次のようになります。
- 重要な子会社
- 連結財務諸表への影響が概ね20%以上(直前事業年度の総資産、純資産、売上高、営業利益、経常利益、税金等調整前当期純利益、親会社株主に帰属する当期純利益のいずれかの項目)の子会社
- 役員
- 役員
- 役員が最近5年間に経歴(職歴)として関わった全ての会社・団体等
- 役員に準ずる者
- 執行役員、相談役、顧問等
- 役員に準ずる者が最近5年間に経歴(職歴)として関わった全ての会社・団体等
- 重要な子会社の役員
- 重要な子会社の役員
- 重要な子会社の役員が最近5年間に経歴(職歴)として関わった全ての会社・団体等
- 大株主上位50名
- 新株予約権の行使等により発行される可能性のある株式も含めた大株主上位50名
- 申請会社グループの主要仕入先
- 直前事業年度の連結ベースで上位10社
- 申請会社グループの主要販売先
- 直前事業年度の連結ベースで上位10社
また、主幹事証券会社は、独自基準で、引受審査に入る前に反社会的勢力の確認を行います。
上に挙げた個人法人より、広い範囲になる可能性が高いです。
主幹事証券会社との契約締結前に「どのような個人会社が反社会的勢力の確認対象になるのか?」を質問しましょう。