経営計画は、上場審査や引受審査において、最も質問量が多く、時間をかけて審査されます。

しかし、経営計画は、そもそも株式上場を目指す目指さないに関係なく、会社の運営にとって、極めて重要です。

経営計画のポイントをわかりやすく解説します

経営計画とは

経営計画は、図1のように、株式上場を目指す時だけではなく、融資を受けたい時、出資を受けたい時、大手有力企業と大きな取引をしたい時などに利用します。どのような場面でも、単なる数字を述べるだけではなく、その裏付けを説明する事によって、会社が作成した経営計画が合理的であると評価される必要があります。

図1 経営計画の利用目的

経営計画が合理的であると評価されるためには、単なる利益計画を作成するだけではなく、利益計画を策定するに至った詳細な計画を整備する必要があります。(図2・図3・表1をご参照)

図2 経営計画の構造例

経営計画は、経営理念や経営ビジョンから各部署の各計画に至るまで、一連に繋がっている必要があります。
事業計画策定のイメージ

図3 経営計画・予算の策定イメージ

表1 経営計画のフォーマットに関する主な要件例

経営計画全般
  • 予想利益計画だけではなく、予想B/S、予想C/Fも策定
  • 単体だけではなく、連結で策定
利益計画
  • 税引後当期純利益予想まで月次展開
  • 科目別の策定根拠資料整備
セグメント別・部門別計画
  • 売上総利益または売上利益までの計画策定

株式公開を目指すには、遅くとも毎月15日までに予実差異を分析して、取締役会で討議するという事になります。これは東証が上場会社に対し、決算短信を遅くとも決算期末後45日(45日目が休日である場合は、翌営業日)以内に開示を行うことが適当であると明言している事が大きく影響しています。決算短信には、業績予想や配当予想に関する数字やコメントを記載する必要があります。決算短信における業績予想の信頼性を高めるためにも、最新の実績値を参考にすべきであるという点から、毎月15日までに取締役会を開催し、そのなかで検討できるような体制が必要になります。

経営計画に関する上場審査の事例

東証の新規上場ガイドブックのなかに、上場審査における経営計画に関する確認例として、表2のような内容が書かれています。

表2 経営計画に関する上場審査例

業種業界 上場審査における確認内容例
料理専門店チェーン

【ビジネスモデルについて】

  1. 事業の特徴・同業他社との差別化要因(安定した食材仕入先の確保、厨房作業の効率化、 店舗デザイン等、食材・調理方法、展開地域等)
  2. 今後の事業展開・成長戦略(展開地域の拡大、新業態店舗の展開開始等)

【事業環境について】

  1. 市場規模・業界の状況(取扱食材の流通量等)
  2. 顧客数の動向

【東証が審査対象とする事項(「事業計画の合理性」に関する事項)

  1. 販売単価の推移及び予測(販売計画の内容)をご説明ください。 →目標とする販売単価(客単価)が明らかに合理性を欠く金額に設定されていないか。
  2. 店舗数の推移
  3. 今後の出店計画をご説明ください。 →出店計画が、会社の事業規模、人材の採用計画、出店による獲得収益、出店費用などと 比較して無理な計画となっていないか。将来的に利益が出ない仕組みとなっていないか。
  4. 食材・店舗スタッフの確保状況・採用計画をご説明ください。 →売上高増・店舗増に対応できるリソースを確保できるか。
  5. 利益計画(売上原価や販売管理費計画等)をご説明ください。→販売単価予測、出店計画、出店に係る予算、人材の採用計画等が合理的に反映された利益計画となっているか。
 

液晶検査装置の製造・販売業

【ビジネスモデルについて】

  1. 事業の特徴・同業他社との差別化要因(技術的な優位性、他社に先駆けた新製品開発等)
  2. 今後の事業展開・成長戦略(生産拠点の増強、営業拠点の新設、他メーカーへの拡販活動の積極化等)

【事業環境について】

  1. 市場規模・業界の状況(液晶需要予測、クリスタルサイクル、検査装置市場の動向等)
  2. 販売実績及び受注動向(顧客数の動向等)

【東証が審査対象とする事項(「事業計画の合理性」に関する事項)

  1. 販売単価の推移及び予測(販売計画の内容)をご説明ください。 →目標とする単価が明らかに合理性を欠く金額に設定されていないか。
  2. 現時点における生産能力の確保状況をご説明ください。 →現時点における生産拠点のキャパシティを踏まえ、無理な受注計画・製造計画となっていないか。
  3. 今後の設備投資・回収計画をご説明ください。→今後における設備拡張計画(設備投資や回収に関する計画)が、受注動向や製造計画を 適切に踏まえたものとなっているか。上場時の調達予定資金がどのように考慮されているか。
  4. 専門職員・工員、営業員等の確保状況・採用計画をご説明ください。→受注動向や製造計画に対応できるリソースを確保できるか。
  5. 利益計画(売上原価、販売管理費計画等)をご説明ください。
    →受注動向や製造計画、人材の採用計画等が合理的に反映された利益計画となっているか。
 

会員向けコンテンツの企画・製作・販売業

【ビジネスモデルについて】

  1. 事業の特徴・同業他社との差別化要因(質の高いコンテンツ制作能力、コンテンツの開発(発売)数、開発期間)
  2. 今後の事業展開・成長戦略(ターゲット層の拡大等)

【事業環境について】

  1. 市場規模・業界の状況(コンテンツ市場の推移等)
  2. 会員数の推移顧客数の動向等)

【東証が審査対象とする事項(「事業計画の合理性」に関する事項)

  1. 会員数の増加計画の合理性(販売計画の内容)をご説明ください。
  2. 今後の設備投資・回収計画をご説明ください。→コンテンツ開発計画と当該開発に必要となるサーバ等への投資額及びその回収予定。
  3. 人員確保の状況・採用計画をご説明ください。 →質の高いコンテンツを多数製作可能な人材の確保状況。
  4. 利益計画(売上原価、販売管理費計画)をご説明ください。 →コンテンツ開発計画やそのための人材の採用、サーバ等の購入代金等が合理的に反映さ れた利益計画となっているか。
創薬系バイオベンチャー

【東証が審査対象とする事項(「事業計画の合理性」に関する事項)

  1. 薬剤の販売計画の内容をご説明ください。→合理的な販売計画か、薬剤の市場性を適正に評価しているか(過度に多額に見ていないか)。
  2. アライアンス内容について詳細をご説明ください。 →バリューチェーンの完結・補完が実現される契約内容であるか否か、その他事業基盤に 関わる内容の確認(地域毎の権利関係、サブライセンシングの有無、開発中止時の取扱い等)。
  3. 利益計画をご説明ください。→アライアンスの内容や研究開発計画、人員計画等が合理的に反映された利益計画となっているか(上市・黒字化までの中長期のコスト計画やキャッシュフロー計画等を確認)

東京証券取引所新規上場ガイドブック(マザーズ編)より引用