株式公開準備が順調に進んだ会社は、極めて稀です。

株式公開準備は上場申請直前々々期末から開始し、直前々期~直前期~申請期の3年間の準備期間で株式公開が出来る事が理想です。

しかし、そのスケジュールで株式公開できた会社は、極めて少数です。株式公開準備を開始してから、10年以上かかって、ようやく株式公開にたどり着けた会社は、少なくありません。その大きな理由のひとつとして、「内部管理体制強化が遅々として進まなかったため」があります。

これは「株式公開のため」という、その会社の過去の歴史になかった活動目的が背景として存在するためです。

そもそも、どの会社も内部管理体制の強化は、会社設立以来、継続的に行ってきているはずです。株式公開を意識するまでに至った会社は、既に一定規模の業績規模や従業員数を保有しているため、絶対に内部管理体制強化をこれまでにも日々進めてきたはずです。

内部管理体制の強化が進まない大きな理由例
これまでの内部管理体制強化の目的
  • 会社の業務・実務をスムーズに進めるために、内部管理体制を強化する
  • 社内で問題が発生し、同じ問題を発生させないために、内部管理体制を強化する
  • 業績向上(売上向上・コストダウン)に直結する内部管理体制強化をする

⇒ 内部管理体制強化の目的が社内で共感されやすいことが多く、必要最低限しか実施しないため、社内から協力が得やすい

株式公開準備を開始してからの内部管理体制強化
  • 問題を未然に防ぐ事を目的とした内部管理体制強化が多い(つまり、現時点では特に問題が発生していない所の改善を求められる)
  • 裁量が制限されたり、社員の業務を監視・制限する事が多くなり、仕事の自由度が減るような内部管理体制強化が多い
  • コストが増加し、業績向上に直結しないような内部管理体制強化が多い
  • 現段階では業務に不急な内部管理体制強化であるにもかかわらず、IPOという理由の元で急激な変更・修正を求められる

⇒ 内部管理体制強化の効果が不明確な事が多く、さらに会社の現状には不必要なことが多いため、社内からの協力が得にくい

株式公開のための内部管理体制強化活動は、「結果的に株式公開の達成が出来ず、無駄に終わってしまうのでは?」という心理的な不安の中で進めていく事になるため、社内で協力者が生まれにくいだけではなく、反対者が出るなどがあり、進捗しない事が多くあります(特に、会社のナンバー2が株式公開を反対するケースが多々あります)。また、そのような心理的な不安の中で必要となるコストは、経営者にとって負担感が大きく、短期的に業績を押し下げることになるため、株式公開準備責任者にとって、社内で逆風が吹きやすくなります。

ポイント

このような状態の中、以下のような施策が基本になります。

  1. IPOに向けた経営者の強い意思を全役職員に伝える
    • まず何よりも、経営者がIPOに向けて「強い意志」を持つことが必須です。
    • 「IPOとは何か?」「IPOを実現すると、役職員へどのようなメリットがあるか」「IPOに向けて、何をしなければいけないか」を全役職員に説明する事は必須です。
    • 役職員に対し、IPOの準備状況を定期的に報告する事も有効な手段です。
    • 役職員への説明会は、主幹事証券会社に協力を求める事が有効です。
  2. 従業員へ”IPOによる果実”を分配する
    • ストックオプションや従業員持株会の導入は、定番です。