資本政策は、失敗すると後戻りできません。

非上場会社のときの資金調達手段は、銀行借入、経営者の自己資金による貸付・出資、ベンチャーキャピタルや取引先による出資・借入程度に限られます。しかし上場会社になれば、資金調達手段が大きく拡がります。

資本政策とは、会社が必要な資金調達を実現するための施策をいいます。株式上場を目指す会社は、「資金調達」と「株主構成」のバランスを考慮しながら、適正な資本規模や発行株式数などを算出します。直前期になれば、具体的な資本政策の検討が必要になります。

まず資本政策を立案するための基本的な材料を整理する事からスタートします。

資本政策を立案するための基本的材料
  1. 中長期事業計画
    • 中長期事業計画は、IPOの適切な時期や発行価格などに大きな影響を及ぼす。
    • 事業内容や業績推移は、目標とする市場を選択する大きな要因になる上、各市場の形式基準を認識する必要がある。
  2. 中長期設備投資計画
    • 資本政策は、中長期設備投資計画を中心とする資金需要から生まれる資金調達計画に使う側面が大きく存在する。
  3. 経営者の資金繰りや資金負担力
    • 非上場会社において、資金需要が発生した際、経営者による追加出資や個人補償を伴う銀行借入により資金調達する事がほとんどになる。それがどの程度の金額か、またどの時期まで継続できるかなどが、資本政策へ大きな影響を与える。
  4. 既存株主や銀行との関係や動向
    • 各既存株主の中に「株式の売却期限がある」「会社と株主の間で株式に関する契約が存在する」などがあれば、資本政策へ影響を与える場合がある。
    • 銀行などからの融資に関して、コミットメントラインなど何等かの契約があれば、資本政策へ影響を与える場合がある。
  5. 経営者について
    • 株式公開後の経営者の持株比率・経営権確保(例:株式公開した後も50%超を確保したいなど)
    • 創業者利潤の規模(例:1億円以上は欲しい。住宅ローンをゼロにしたい。借金を返済したいなど)
    • その他(相続など)
  6. 従業員・役員について
    • 従業員の生活向上(例:ストックオプションを付与したい。従業員持株会を導入したいなど)
    • 従業員・役員の経営への関与(例:従業員や役員に株式を保有させたいなど)

      上のような材料を準備し、主に主幹事証券会社との間で検討する事になります。

      社内では資本政策の立案にあたって、以下のような内容について、基本的な方針を定めて、優先順位を社内で決定する必要があります。

      資本政策立案において、決めなければいけない方針
      • 上場の目標時期
      • 目標とする証券市場
      • 上場前後の株主構成
      • 目標とする資金調達額(複数回に渡って資金調達するのであれば、それぞれ、いつ頃に、いくら調達したいか)
      • 目標とする創業者利益など

      ポイントマンションの購入を考える際、「『駅近』『東京都千代田区』『新築の高層階』『角部屋の3LDK』『予算4千万円』・・・」という高い希望を全て叶えるのは不可能です。マンションを購入検討する際には、予算や家族構成、会社の場所、ライフスタイルなど、それぞれの事項について優先順位を決めて購入する事になります。「今後、資産価値が上がります」「人気が高くて、早期完売します」「高い家賃で貸せます」と言い続けるマンションの営業マンの言いなりになってしまうと、酷い目にあうリスクが高くなってしまいます。

      資本政策も同じです。「株式公開後も高い経営権を維持したい」「多額のキャピタルゲイン(創業者利益)を得たい」「多額の資金調達をしたい」「早期に上場したい」の全てを同時に叶えるのは、無理ゲーです。「資金調達額」が第一の優先順位であれば、外部株主を受け入れる必要があるため、経営権は低下します。「高い経営権の維持」が第一の優先順位であれば、多額のキャピタルゲインや資金調達は困難になります。

      資本政策を立案する上での最重要ポイントは、「何が妥協でき、何が妥協できないか」という優先順位をしっかりと社内で検討し、決断する事です。これを怠って、外部の意見やアドバイスに流されてしまうと、後で失敗したと感じる事になります。

      資本政策に関して、社内で学習すべき項目
      • 会社法や金融商品取引法、東証の規則、税法による規制や制約事項
      • ファイナンスの手法
      • 従業員持株会やストックオプションなど