2022年2月25日に最高裁で金融商品取引法(以下、「金商法」といいます)におけるインサイダー情報伝達に関する決定がありました。
この決定は、金商法167条1項6号にある「その者の職務に関し知ったとき」に関する決定です。
主文等は、こちらにあります。
(私を含む)一般人は、裁判所が発行する判決理由を読む気が起こらないと思います。そこで、私がやさしい文書でまとめましたので紹介させていただきます。
この最高裁の決定は、上場を目指す会社関係者だけではなく、上場会社の関係者の方々にとりましても参考になるのではと考えています。
「その者の職務に関し知ったとき」とは
インサイダー取引規制については、金商法166条第1項第5項が、同項2号、2号の2または4号により、会社関係者となる法人の役員等が、重要事実を「その者の職務に関し知ったとき」に取引規制の対象となると定められています。
この裁判では、金商法167条における「その者の職務に関し知ったとき」が争点になっていましたが、金商法166条における「その者の職務に関し知ったとき」も同じ解釈をして良いことは間違いないと思われます。
「その者の職務に関し知ったとき」に関連する裁判は、過去にも何度か行われておりまして、争点はいつも「このケースが『その者の職務に関し知ったとき』といえるのか」になっています。解釈が難しいですね。
インサイダー取引の経緯
裁判になっていたインサイダー取引の経緯は、次のとおりです。
被告人は、A証券会社で働く証券マンです。
被告人の同僚(B氏)は、C社が上場子会社の公開買付けの実施に向けた支援業務の提供を受けることを内容とするファイナンシャルアドバイザリー契約(以下「同アドバイザリー」といいます)をC社と締結して、その業務を担当していました。
被告人は、B氏が同アドバイザリーに従事している事を知っていました。しかしC社の案件を「Infinity」という案件コードが使われていたため、被告人を始め、「Infinity案件」に関与しない社員に、「Infinity」がどこの会社なのかをわからないように管理していました。
しかしB氏は、不注意に電話口で「C社」と口に出してしまい、それを被告人が聞いてしまいました。
そこで被告人は、後に公開買付対象候補となり得るD社を割り出して、「D社の株式を買ったら、ムチャクチャ儲かるでぇ!」と考えました。そして被告人は、知人のE氏に知らせて、E氏はD社株式を53,268,100円分買い付けたという内容のようです。
ちなみに、C社は非上場会社です。
裁判の争点
被告人はB氏から、あくまでもC社の社名を聞いたに過ぎず、D社の社名を聞いたのではありません。
証券マンの被告人は、その職務経験から、「Infinity案件は、C社に関する案件や!そうやったらD社の株を買えば儲かるわ!」と推定して、インサイダー取引に繋がりました。
そこで被告人側から、自らの知識や経験等からD社を推定した事が「その者の職務に関し知ったとき」として解釈することは、処罰範囲が不明確であり,金商法の解釈を誤った法令違反があると主張して、最高裁までに至る争点になっていました。
決定の内容と理由
被告人の敗北に終わりました。
C社は、非上場会社でありましたが、有価証券報告書提出会社であり、関係会社の中で上場子会社はD社のみでした。
最高裁は、C社に関するアドバイザリーが、D社株式に繋がることをピンポイントで認識できたことが大きな決定理由になったようです。
まとめ
この最高裁判決によって、「非公開の重要事実を発端とした連想から、『この会社の株を買ったら儲かるわ!』などを考えて、株式等を売買することは、違法と見なされる可能性が高くなる」ことがわかりました。
インサイダー取引は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金が科せられ、またはこれらが併科され、一生が台無しになってしまうため、絶対に止めましょう!
インサイダー取引に関しては、↓についても参考事例を紹介しておりますので、ご参照ください。
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