重複上場とは
日本国内には、東京証券取引所、名古屋証券取引所、福岡証券取引所、札幌証券取引所の4取引所があります。
証券取引所に関しましては、こちらで説明しています。ぜひご一読ください。
上場会社のほとんどは、東京証券取引所のみ単独上場をしている会社ですが、中には東京証券取引所だけではなく、地方取引所と重複して上場する会社があります。
例えば、キャノンとキリンホールディングス、三井物産、IHIは、すべての証券取引所に上場しています。
複数の証券取引所に上場することを「重複上場」といいます。
2019年3月19日に上場した株式会社コプロ・ホールディングス(以下、「コプロ」といいます)は、東京証券取引所マザーズと名古屋証券取引所セントレックスに重複上場をしました。
重複上場したIPO銘柄
コプロ・ホールディングスと同様にIPO時に重複上場を行った会社があります。
表 重複上場したIPO銘柄
名古屋 | 札幌 | 福岡 | |
---|---|---|---|
2020年 | 0 | 0 | 0 |
2019年 | 浜木綿、ワシントンホテル、東名、コプロ・ホールディングス、東海ソフト | 0 | 0 |
2018年 | 0 | 0 | 0 |
(出所:IPOAtoZ調べ)
名古屋証券取引所に重複上場した会社は、すべて本社が中部地区にある会社ばかりです。
中部地区、もしくは北海道、九州に本社があるIPOを目指す会社は、重複上場を検討することになると思われます。
重複上場のデメリット
重複上場には主に次のようなデメリットがあります。
重複上場のコスト
重複上場でもコストが必要になります。上場申請、上場維持に別途コストが必要になります。
表 主な上場コスト
名古屋証券取引所 | 札幌アンビシャス | 福岡Q-Board | |
---|---|---|---|
上場審査料 | 50万円(単独上場の場合は100万円) | 100万円 | 50万円 |
新規上場手数料 | 100万円+α | 150万円+α | 150万円 |
年間上場料 | 上場株式数に比例する算式で算定した額など | 60万円(上場後3年間は30万円) | 上場株式数に比例する算式で算定した額など |
(出所:IPOAtoZ調べ)
重複上場すると、百万円単位でのコストが必要になるため、費用対効果に対する検討が必要になると思われます。
株式の売買高
日本の証券会社の最大手である野村証券の最良執行方針には以下のような文言が存在します。
複数の金融商品取引所に上場(重複上場)している場合において、お客様から執行すべき金融商品取引所の指定がないときは、当該銘柄の一定期間における売買高等に基づき、最も流動性が高い市場として弊社が選定した金融商品取引所に取次ぎます。
つまり、野村証券で地方取引所を使って株式を売買しようとする場合は、地方取引所の指定が必要になります。さらにSBI証券の最良執行方針にはこのような文言があります。
上場している金融商品取引所市場が東京証券取引所(本則市場、マザーズ、JASDAQ)を含む複数箇所である場合(重複上場)には、東京証券取引所(本則市場、マザーズ、JASDAQ)に取次ぎます。
つまり、インターネット証券の最大手であるSBI証券では、重複上場会社の株式の売買は、東京証券取引所しか取り扱わないということです。一応、本ブログの中の人が、重複上場会社の代表格であるトヨタ自動車の株式をSBI証券で購入しようと試みましたが、名古屋証券取引所を利用するためのボタンが存在しませんでした。
このような背景から、昨今は、地方取引所に上場を維持するために必要となるコストに見合った株式の売買がされていないという理由から、重複上場を取りやめる会社が続出しており、東証への一極集中が続いています。
重複上場のメリット
それぞれの地域の投資家や企業経営者との交流イベントやコミュニケーションづくりを期待できます。
重複上場の株価
重複上場をすると、複数の株価が設定されてしまう可能性が出てきます。
そのようなことがあれば、”税務上で株式の価値を評価する際”に議論が発生することがあります。
「重複上場会社において、税務上で株式の価値を評価する際は、東京証券取引所の株価を使え」とは、税法で指定されていません。
「税務上で株式の価値を評価する際」として考えられる代表的な場面は、以下の2つです。
- 税制非適格ストックオプションや譲渡制限付株式報酬などの株式報酬に関する所得税を計算する時
- 相続が発生した時の相続税を計算する時
審査等において、重複上場のIPOに対し、一切否定等はされませんが、審査時だけではなく、上場後も重複上場会社だけが発生する実務があれこれ存在するのは間違いなさそうです。