上場会社は、普通株式のみを発行している会社ばかりです。

しかし種類株を発行する会社が上場したり、上場した会社が種類株を発行したり、さらには種類株そのものが上場するレアケースもあります。

ここでは、種類株式に関する事例を中心に紹介させていただきます。

種類株式とは

種類株式とは、株主としての権利が普通株式を保有する株主とは異なる権利を持つことになる株式のことをいいます。

特にベンチャーキャピタルの出資時に種類株式を発行しているケースが多くなってきています。

例えば↓のような株式になります。

種類株式の種類
  • 配当が優先または劣後する株式
  • 残余財産分配が優先または劣後する株式
  • 他の種類株式への転換権を保有する株式
  • 1単元あたりの議決権が普通株式よりも多い、または少ない株式
  • 株主総会議案へ拒否権を持つ株式など

種類株式を発行する大きな理由としては、会社側にとっては”経営権の安定確保をしつつ活動資金を得たい”というニーズがあり、ベンチャーキャピタル側にとっては”資金を出すからには経営陣の暴走防止を主目的とした経営関与をしたい”をはじめとするニーズもあります。

つまり会社側とベンチャーキャピタル側の間には相反するニーズが存在します。種類株式は、この相反するニーズを調整する役割を持っています。

種類株式について説明したサイトは、山のようにありますので、割愛させていただきます。

種類株式と上場審査

上場前に普通株式以外に種類株式を発行している会社の場合、3つのパターンが考えられます。

上場前に種類株式を廃止し、その代わりに普通株式を交付する場合

ほとんどの会社の場合、このケースに該当します。

上場審査に入る直前、または上場の承認を受ける直前に種類株式を普通株式に転換し、上場します。

上場審査では、種類株式を発行した経緯の説明を受ける可能性がありますが、経緯を説明出来れば、上場審査に支障を来たす事は無いと思われます。

種類株式を発行したまま、普通株式を上場させる場合

後で紹介しますが、種類株式を発行し、その種類株式を普通株式に転換せずに上場を達成したIPOが存在します。

しかし東証は、そのようなケースについて次のように述べています。

申請会社が申請対象となる普通株以外に種類株を発行している場合、種類株の内容によっては普通株主の権利内容やその行使を著しく制約することも考えうることから、当該種類株の内容と普通株主の権利に及ぼすことが想定される影響及びその開示状況について慎重に審査を行うこととなります。

(出所:東京証券取引所 新規上場ガイドブックより)

普通株式の株主にとって悪影響をもたらすような種類株については、上場審査のハードルが相当高くなるようです。

種類株式を上場させる場合

議決権の少ない株式及び無議決権株式の上場は、認められています。一方、議決権の多い株式の上場は認められていません。

議決権の少ない株式及び無議決権株式の上場は、以下のような条件があります。

  1. 必要性の説明が出来ること
  2. 取締役等の地位を保全すること又は買収防衛策とすることを目的でないこと
  3. スキームや目的等をしっかりと開示していること
  4. 議決権の少ない株式及び無議決権株式の株主と普通株式の株主との間で対立した場合に保護の方策がとられていることなど

これらの説明につきましては、新規上場ガイドブックに丁寧に記載されています。

なお、東証は、議決権の少ない株式等の上場を検討されている場合、主幹事証券会社を通じた事前相談を求めています。

したがいまして、種類株式の上場可否判断につきましては、おおよそ上場審査前に決着がつくと思われますが、東証は標準審査期間に加えて1か月以上の審査期間の確保が必要になると述べています。

上場直前に種類株式を廃止した事例

上場前に種類株式を発行していた会社は、ほとんどこの部類に入ります。

Sansanの種類株式

2019年6月19日に上場したSansan株式会社の目論見書を拝見すると以下のようなことがわかります。

  1. 普通株式以外に4種の種類株式を発行していた。
  2. 2019年1月30日開催の臨時株主総会ですべての種類株式を廃止し、普通株式へ転換した。

Sansanの場合は、上場承認日の5カ月前に種類株式を廃止しました。その時期は、証券会社で引受審査を行っている最中もしくは直前であることが推察できます。

種類株式を発行している会社のほとんどは、Sansanと同様なタイミングで行われ、遅くとも上場審査入りするまでには、全て普通株式へ転換しており、種類株式がゼロという状態になっています。これは、東証が上場会社に対し株主平等の原則を重視しているため、それに応えるために行う手続きになっています。

ソシオネクストの種類株式

2022年10月12日に上場したソシオネクストは、上場承認日(2022/9/6)の1週間前(2022/8/31)に臨時株主総会と取締役会を開催し、上場承認日に種類株式を廃止しています。

このようなギリギリのスケジュールで種類株式の廃止に向けたアクションをするIPO事例は、多く存在しませんが、東証は、種類株式の廃止を決議ベースで信頼してくれる、つまり少なくとも東証は、種類株式の存在の有無について、履歴事項全部証明書を確認せずに上場承認してくれることがわかります。

種類株式を発行したままで上場達成した事例

上場前に種類株式を発行した会社のほとんどは、上場前に種類株式を廃止していますが、レアケースとして、種類株式を廃止せずに上場達成した会社があります。その事例を2社紹介します。

サイバーダインの種類株式

2014年3月に東証マザーズへ上場したCYBERDINE株式会社は、種類株式を発行したまま上場を達成しました。

身体が不自由な人、または倉庫や工事現場等で重量物を運ぶ人のために身体機能を補助する目的とした”パワードスーツ”を開発生産販売をする会社です。

表 CYBERDYNEが発行している株式の概要

普通株式(上場株式) 種類株式(非上場株式)
単元株式 100株 10株
議決権 100株につき1個 10株につき1個
譲渡制限 なし あり
取得請求権 なし あり
取得条項 なし あり
CYBERDYNEが発行している種類株式のほとんどは、同社の社長が保有しています。
CYBERDYNEの製品は、軍事転用が出来る可能性があり、それを心配する経営者が企業買収の可能性を低減させるために、種類株式を発行しています。
確かにパワードスーツは、昨今軍事利用されているようです。

買収防衛策として種類株式を発行している会社のIPOは、相当ハードルがあると思われます。

しかし、CYBERDYNEのような企業理念に直結した目的が存在する場合、そのハードルはクリアできるという前例になりました。

セカンドサイトアナリティカの種類株式

2022年4月4日に上場したセカンドサイトアナリティカ株式会社は、種類株式を発行したまま上場を達成しました。

セカンドサイトアナリティカが発行した種類株式は、CYBERDYNEの種類株式とは大きく異なり、無議決権株式なので、買収防衛策としての種類株式ではありません。

セカンドサイトアナリティカの上場時の筆頭株主は、新生銀行になっています。

新生銀行は、セカンドサイトアナリティカとの資本・業務提携により新生銀行グループの金融業の高度化を図りたいという意思を持っているようです。

しかし一方、銀行法では、例外を除き、原則、銀行が5%超の議決権を保有出来ないことが定められています。

そこで、セカンドサイトアナリティカは、新生銀行が銀行法に抵触しないよう、また新生銀行の意思を尊重するため、種類株式を維持したままで上場を達成したようです。

したがいまして、セカンドサイトアナリティカの事例は、法規則や企業価値向上のためを理由として、種類株式の発行を維持したいと考える会社にとりまして、参考事例となりました。

上場後に種類株式を発行した事例

普通株式の上場後に種類株式を発行した事例も存在します。

伊藤園の種類株式

「おーいお茶」で有名な伊藤園は、すでに上場している2007年9月に無議決権種類株式を上場させました。

伊藤園の場合は、サイバーダインとは違い、種類株式と普通株式の両方が上場しています。つまりすべての株式を上場させています。

伊藤園が無議決権株式を上場させた理由は、議決権よりも配当を重要視する個人投資家の意見に応えるためであると言われています。

表 伊藤園の優先株式と普通株式の違い

優先株式(上場株式) 普通株式(上場株式)
議決権 なし あり
配当 優先配当
普通配当額×125%(注2)
未払い分は累積
普通配当

累積しない

普通株式への転換権 なし

伊藤園の種類株式発行については、優先配当と議決権の価値を比較するという形で、色々な所で議論が湧きましたが、議決権の方が魅力が高いという決着になっています。

トヨタ自動車の種類株式

トヨタ自動車は、2015年に種類株式を発行し、一般投資家に広く募集しました。

この株式の特徴は、次のとおりです。

  • 譲渡制限を持つ非上場株式である
  • 年4回、金銭対価の取得請求権が行使可能であり、発行価格での換金機会がある(つまり、株価下落リスクが少ない)
  • 現在の普通株式の配当利回りより低い配当率であるが、各期の配当率は、5事業年度目まで、0.5%ずつステップアップする

トヨタ自動車なので、短期での倒産リスクはゼロに等しく、発行価格での換金機会があるという種類株式であるため、大きな人気を呼びました。

ブログの中の人は当時証券マンだったこともあり、この株式を購入出来ずに、「買いたいなぁ」と指をくわえていました。

詳しくは、こちらになります。

まとめ

種類株式について述べさせていただきました。

ブログの中の人は、証券会社勤務時代、CYBERDYNEの上場前に携わった経験がありますが、CYBERDYNEの種類株式に対し、東証は極めてネガティブでした。

CYBERDYNEの上場に関わる人は、相当頑張ったと思います。

上で紹介した上場会社以外にも種類株式について有名なのは、INPEXです。

これは、いわゆる黄金株を発行しています。これは参考事例として全く使えないと思いましたので、割愛させていただきました。

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