2019年7月31日に東証マザーズへ上場した株式会社ツクルバの申請期の業績発表を参考事例にして、IPOを目指す会社に求められる予算統制についてまとめました。

IPOを目指す会社に求められる予算の乖離

有価証券上場規程施行規則の407条には、業績の予想値について定められており、IPOを目指す会社が作成する予算の乖離に対する基準とされています。

有価証券上場規程施行規則の407条の要約

当初の業績予想に対して

  • 売上高に対して10%以上の変動(プラスorマイナス)
  • 営業損益、経常損益、当期純損益に対して30%以上の変動(プラスorマイナス)

のいずれかが生じる見込みとなった場合、速やかに修正をしなければならない(以下では「修正基準」といいます)

直前々期と直前期に連続して、修正基準に抵触するような業績になった場合は、上場延期になる可能性が極めて高くなり、さらに申請期においては上場審査時に修正基準を超えるような業績になるような業績不安に陥った場合は、上場審査がストップになる可能性が極めて高くなります。

もし上場直後に業績予想値から下方修正するようなことになれば、証券市場から極めて厳しい評価をうけることになります。その事例を次で承継しています。

【上場1か月後に大幅下方修正】トゥエンティーフォーセブン【IPO失敗事例】

ツクルバのIPO

2019年7月31日に東証マザーズへ上場した株式会社ツクルバは、上場してから1か月ほど経った9月6日に以下のようなプレスリリースを出しています。

株式会社ツクルバの2019年9月6日のプレスリリース概要
  • 業績予想数値が、大幅に変更することとなった。
  • 7月31日に発表した業績予想に比べ、営業利益が2.7倍、経常利益が4.5倍、当期純利益が11.2倍になる見込みである。

ツクルバの場合は、上方修正した割合が極めて高いため、一見するとツクルバの予算作成能力について疑念が生じてきます。

しかしツクルバが7月31日に発表した業績予想は、売上約15億円、営業利益5百万円強、経常利益1百万円強、当期純利益90万円弱です。したがいましてツクルバは、当期純利益が27万円程度で業績修正発表が必要な業績水準の会社ということになるため、ツクルバの年度予算作成能力に疑念を持つというのは言いすぎた表現になりそうです。

予算統制のポイント

毎年のように、上場直後に下方修正をするような会社が後を絶たないこともあり、主幹事証券会社と東証は、年度予算作成プロセスの確認を念入りにし、年度予算に対する信頼性が低い会社は、審査をパス出来ないどころか、審査に挑むことも出来なくなります。

大幅上方修正は、大幅下方修正に比べるとマシな評価をされますが、予算作成の信頼性という点で欠けることは共通しており、そのインパクトによっては審査等で問題視されます。

予算統制に関する重要ポイントは、会社の規模によって異なる点があります。

業績の規模が大きい会社
  • 直前々期以降、業績が年度予算を下回って修正基準を抵触した場合、コロナショックなど特殊要因を除き、上場目標時期の延期可能性が極めて高くなります。
  • 業績が修正基準を抵触しない水準で年度予算を下回った場合でも、直前々期と直前期を連続して下回ると上場目標時期の延期可能性が高くなります。
  • 年度予算(特に直前期と申請期)から上回って修正基準を抵触した場合、その要因が予算策定時に盛り込めなかった特殊要因や大型受注等でなければ、引受審査に挑むことができなくなる可能性が出てきます(特にコストカットが主要因であった場合、ネガティブです)。
業績の規模(特に利益面)が小さな会社
  • 数名の社員の採用や数件の受注等によって、簡単に修正基準を抵触してしまう下地があるため、受注販売状況やコスト管理に関する情報共有体制や、予算修正に対して速やかな対応が出来る組織体制が求められます。
  • 修正基準を抵触していないにもかかわらず、業績が直前々期と直前期を連続して年度予算を下回った場合、主幹事証券会社から上場延期を求められる可能性が高くなります。