スモールIPO、つまり時価総額が小さな会社がIPOするのは否定的な意見が散見されています。

もし今、マジカルバナナで「スモールIPOと言えば」となると「IPOゴール」と答える人が一番多いかもしれません(「マジカルバナナ」とは、昔、テレビでやっていた連想ゲームです)。

東証におきましても、新規上場基準の引き上げが議論されていることは事実でして、スモールIPOを目指すスタートアップ企業にとっては、アゲインストの風が吹いています。

そこでスモールIPOは本当にダメなのかということを私なりに考えてみました。

あくまでも私個人の意見でありまして、保証等は一切いたしません。

スモールIPOに対する否定的な意見

スモールIPOに対する否定的な理由は、いくつかあります。

VCが株式を売り出すと、上場後の株式売買の需給バランスが悪くなる(ケース1)

スモールIPOについて議論しているYoutubeがいくつかあります。

その中で↓をご紹介させていただきます。

この動画でお話されていらっしゃる株式会社Coalisの上原様のご意見をまとめますと、「時価総額が低い会社のIPOの場合、上場後にVCが売り出す株式を買ってくれる機関投資家が現れないため、需給バランスが崩れやすく、値崩れを起こしてしまう。」と仰り、スモールIPOには否定的な考えをお持ちのようです。
とても理解できます。

数億円単位、または数兆円単位の資金を運用している機関投資家は、コンプライアンスの観点からも時価総額が低い会社へ投資することはありません。時価総額数十億円の銘柄の株式を機関投資家が大きな額で売ったり買ったりすると、証券取引等監視委員会から「この取引、絶対あやしい!」と全集中の呼吸でチェックされるはずです。

VCの比率が高い会社がIPOする場合、上場前に受け皿を用意しておかなければ、上場後、どんなによい業績を出したとしても、VCの売却によって株価が下がってしまうリスクが発生します。
時価総額が高い銘柄に対しては、受け皿になってくれる機関投資家が登場する可能性がありますが、時価総額が低い銘柄においては数多くの個人投資家頼みになり、厳しい戦いをしなければいけなくなります。

VCが出資していないスモールIPOも安心できない(ケース2)

一方、株式会社Coalisの上原様のご意見を聞き「ワシの会社は、100%オーナー会社や!株式も売らん!だからコイツの意見は関係ないで!」と考える人が現れるかもしれません。
しかし、時価総額が低い会社、かつオーナーの高い株式保有比率を維持しようとするような会社は、流動する株式が少なくなるリスク、つまり頻繁に株式の売買が行われないようになってしまうリスクが発生し、「板」が図1のようになってしまいやすくなります。

図1 株式流動性が低い会社の板事例(出所:SBI証券からのスクショ)

図1の板は、一番低い売値(1,519円)と一番高い買値(1,488円)の差が大きく開いてしまっています。このようになってしまうと、機関投資家どころではなく、頼みの個人投資家さえ、手を出し辛い銘柄に陥ってしまいます。売買注文が100株単位しかないので、機関投資家が参加していない事は明らかです。
もし、オーナーが株式を売却しようとすれば、大きく株価を下げてしまう危険性が高くなり、オーナーはますます株式を売却し辛くなります。

これは上原様が仰っていたケース1よりさらに深刻です。ケース1の場合は理屈上、VCが放出してしまえば終了、つまりVCファンドの満期が終了です。しかし、ケース2は半永久的に継続してしまいます。
ケース2の場合、個人投資家から忘れられた銘柄になってしまい、「そもそも上場企業である意味ってあるの?」という議論に発展することになり、個人デイトレーダーも相手にしてくれません。さらに上場維持基準にある流通株式時価総額の抵触という問題に発展しやすくなります。

ケース2の対策としては、持株会等をはじめとする”身内”による売買、または抜本的な資本政策の導入検討に頼らざるをえなくなります。

私が運営しているオンラインサロン「シンIPOAtoZ」のメンバーの中に某上場会社経営企画責任者(Aさん)がいらっしゃいます。Aさんの会社は、図1のような板になってしまっていました。オンラインサロンのプログラムで、Aさんの会社の現状からの脱却策について話し合い、資本政策をはじめとして、11の提案を行いました。

シンIPOAtoZは、メンバーが悩んでいることをプログラム内で話し合う事が可能です。メンバーには、弁護士や会計士、社労士等の専門家が大勢います。ぜひご参加ください!お待ちしております(サイトはこちらです)。

スモールIPOは上場後どうなっているのかを調査してみた

スモールIPOは、大きな規模のIPOと比べると、上場後の株価形成において不利になりやすいという理屈は、成り立ちそうです。

しかし、そのような理屈は当たっているのかを考えてみるのが、このブログです。

そこで私なりに「最近、上場した銘柄は、上場後どうなってるねん?」を調べてみました。

調査した概要は次のとおりです。

スモールIPOの時価総額調査概要
  • 調査会社:2019年~2023年にIPOした会社(調査時点で上場廃止した会社除く)481社
  • 上場時時価総額調査方法:庶民のIPO( https://ipokabu.net)
  • 2024年10月25日時価総額調査方法:yahoo!ファイナンス

以上をひとつひとつ手打ちし、グラフ化しますと、図2のようになりました。図2 2019年~2023年にIPOした会社の時価総額と2024年10月25日時価総額比較

図2のグラフをみても、わかりにくいと思いますので、表1のようにまとめてみました。

以下、上場時時価総額50億円未満のIPOをミニマムIPO、50億円~300億円未満をスモールIPO、300億円以上をラージIPOとします。

表1 2019年~2023年にIPOした会社の時価総額と2024年10月25日時価総額比較

時価総額比較 ミニマムIPO スモールIPO ラージIPO
50%未満 11(6.3%) 66(26.6%) 20(33.9%)
50%~100%未満 58(33.3%) 81(32.7%) 11(18.6%)
100%~200%未満 72(41.4%) 66(26.6%) 15(25.4%)
200%~500%未満 25(14.4%) 23(9.3%) 12(20.3%)
500%以上 8(4.6%) 12(4.8%) 1(1.7%)
174(100%) 248(100%) 59(100%)
平均 131.5% 116.6% 127.8%
中央値 96.6% 84.3% 97.2%

表の見方は、「2019年から2023年にIPOした会社(調査時点で上場廃止した会社除く)481社のうち、174社が上場時時価総額(発行価格ベース)が50億円未満のミニマムIPOであり、その中で11社の時価総額(2024年10月25日現在)で上場時時価総額の半分未満になっていた」という事になります。
平均と中央値とは、時価総額が上場時時価総額と比べた平均値がミニマムIPO174社の場合131.5%であり、その中央値が96.6%であったという見方になります。

ミニマムIPOとラージIPOを比較すると、時価総額が50%未満になってしまったミニマムIPOは6.3%にすぎませんが、ラージIPOは33.9%、つまり3社に1社を超えるラージIPOは、時価総額が半分未満になってしまっていました。

その中で特に面白かったのが、25%未満、つまり時価総額が1/4未満になってしまっているラージIPOは7社(プレミアアンチエイジング、ブリーチ、ダイレクトマーケティングミックス、モダリス、ノイルイミューン・バイオテック、ネットプロテクションズホールディングス、ヤプリ)ありましたが、ミニマムIPOはゼロでした。

したがいまして、上場後に時価総額が大きく下がりやすいのは、小さな時価総額で上場した会社より、大きな時価総額で上場した会社の方であるという結果になりました(私の予想とは完全に逆でした)。

以上の結果から、私の調査によると、「2019年から2023年にIPOした会社の場合、ミニマムIPOやスモールIPOがラージIPOよりも、上場後の株価が劣っているとは、決して言えない」となりそうです。

むしろ暴論かもしれませんが、IPO後に短期間で時価総額を半分以下になってしまった会社をIPOゴール企業として定義してみますと、「スモールIPOより、大きなサイズでIPOした会社の方が上場ゴール企業になりやすい」と言えるかもしれません。

また一方、500%以上になっている銘柄もミニマムIPOが4.6%であり、中には1,200%(TWOSTONE&Sons)になっている銘柄がある一方、ラージIPOは1社(1.7% アンビスホールディングス)のみでした。

結果的にIPO銘柄に投資するのであれば、ラージIPOよりも爆下げリスクが低く、爆アゲチャンスが高いミニマムIPOの方が魅力あるじゃんというロジックになります。

まとめ

以上、上場時時価総額が低いIPOは、上場後の株価形成に失敗しやすいのは本当なのか?について紹介させていただきました。

実は、私個人も「スモールIPOの上場後の株価は、総じてアカンやろ」と考えていました。しかし調べてみると、全く違うようでした。

やっぱりマーケットは、人の理屈通りにいかないから面白いんですね。改めて思いました。

昨今のIPO環境は、芳しくありません。

それは、東証グロース市場の低迷が大きな原因とも言われています。(ご参考:「国内IPO、7〜9月は3割減の16社 市況低迷で上場延期も」日経新聞 こちらになります。)

東証グロース市場の低迷は、いくつか原因があると思いますが、その中には、「過去の酷いIPO銘柄が東証グロースの指数の足を引っ張っているため」があると思います。

例えば、2023年3月にIPOしたモンスターラボは、たった上場後1年半程度で時価総額が1/5くらいになってしまっており、THECOOは上場2年後には時価総額が1/10になっています。

しかしグロース市場だけはなく、プライム市場にも酷いIPOがあります。2021年に当時の東証1部に直接上場したネットプロテクションズホールディングスです。ネットプロテクションホールディングスは、上場時時価総額が約1,400億円でありましたが、今は300億円になってしまっています。

IPOの環境を良くするためにも、東証グロースの指数の足を引っ張る酷いIPOゴール企業を退出させることが、肝要だと思います。
なお、スモールIPOについては、名古屋証券取引所を活用する記事を書いております。

ご一読頂ければ幸甚です。

スモールIPOは、名古屋証券取引所(名証)上場を選択肢をいれましょう

何度も申し上げますが、ブログの中の人がひとりでWebサイトからひとつひとつ手打ちした数字を元に述べておりまして、数字等に保証は出来ません。

私が運営しているオンラインサロン「シンIPOAtoZ」は、将来、プログラムでなぜこのような結果になったのかについて、話し合いたいなぁと考えています。IPOを目指す会社経営者やIPO支援者にとって、きっと有益なプログラムになると信じています。

最後までお読みいただきありがとうございました。