
昨今、社外取締役の重要性がますます要求されています。
ブログの中の人が前職の証券会社で担当していた担当先の社外取締役の中には、「社外取締役の役割、または会社の問題点を把握できておらず、明らかに能力が低い社外取締役」、「兼職が多いために取締役会への出席率が低く、経営への関心が低い社外取締役」など、”低能低質な社外取締役”が存在しました。
そのような低能低質な社外取締役が存在した場合、主幹事証券会社の公開引受部門担当者は退任を促すことになります。
一方、私は、このブログを書く傍ら、IPOを目指す某社(以下、「A社」といいます)の社外取締役でもありまして、私自身が「低能」や「低質」などのレッテルを貼られないように努力しなければいけないと考えております。
きっと社外取締役に就任している方の中にも、私と同じ考えを持つ方もいらっしゃると思います。
おそらく社外取締役に就任することになれば、きっと「どういう事をやれば良いのか?」を本やセミナーで学習することになると思いますが、どの本やセミナーも”法律論”や”あるべき論”に止まり、実際に何をやり、どういう事に悩んだのかという事が書かれた本が見当たりませんでした。
そこで「社外取締役業務」というシリーズで、私が社外取締役として、取締役会や経営会議などに出席して、どのような発言をしたのか、どのようなやり取りがあったのかを、外部発信可能な範囲で記録に残そうと考えました。
IPOを目指す会社の社外取締役に就任された方々の参考になれば、幸甚です。
また、私の活動内容について、ご意見やご感想を頂ければ、大変ありがたく存じます。
私が社外取締役に就任している会社とは
私が社外取締役に就任した会社(A社)の内容を箇条書きでまとめますと、次のようになります。
- 「オーナー社長の会社」
- 「商品やサービスの差別化が困難な業種業態であり、全国に競合が多数存在」
- 「多店舗経営企業」
- 「直近の当期純利益は、1億超の黒字。しかし財務状況は良いといえない」
- 「人員不足に悩んでいる」
- 「上場を目指しており、社員に公言している」
- 「コロナの影響は、結果的にあまりなかった」
A社のようなタイプの会社が上場を目指すのは、珍しくありません。
上場を達成することにより、金融機関や取引先などから信用力を上げようとする試みは、自然な流れだと思います。
なお、取締役会の出席メンバーは、次のようになっています。
- オーナー社長
- CFO
- 実務・業界に詳しい常務取締役
- 弁護士の社外取締役(私と同じ日に選任されました)
- 大手企業出身の常勤監査役
- 会計士の非常勤監査役
- 変な社外取締役(私)
1日目の活動:社外取締役の役割と心得を伝える
私の出社1日目の活動は、取締役会で社外取締役の役割と心得を伝えることに決めました。
なお、会社法施行規則第74条第4項第3号には、株主総会の選任する際の株主総会参考書類の中に「期待される役割の概要」を記載することになっています。
私は、その範囲内で社外取締役としての役割を少し具体的に述べ、また社外取締役としての心得を貫くという宣言をし、もし私が社外取締役としてのその役割を忘れ、またその心得から外れた行動を行えば、指摘または処分するように要請をしました。
社外取締役の役割
A社の特徴から、社外取締役の役割というのは、表1のようになると分析しました。
表1 A社の社外取締役としての役割
会社の特徴 | 社外取締役の役割 |
---|---|
「オーナー社長の会社」 | オーナー社長の暴走を防止する |
「商品やサービスの差別化が困難な業種業態であり、多くの競合が存在」 | 商品・サービスの差別化に結び付く事業参入を後押しする |
「多店舗経営企業」 | 内部監査と協力し、法令遵守や牽制機能面での充実度を評価・監督をする |
「業績は黒字基調にあるが、強固な財務体質を持っていない」 | P/Lだけではなく、B/S、C/Fを意識した経営の監督をする |
「人員不足に悩んでいる」 | 労務管理については、法令遵守面だけではなく、人材定着率や教育体制についても関心を持つ |
「上場を目指しており、社員に公言している」 | 上場達成に必要なガバナンス体制作りに協力するとともに、IPOに関する情報発信する |
ちなみに私は、一定レベルの会計知識と法務知識を保有しているつもりですが、役員の中に弁護士と会計士が存在することにより、そちらの方にはあえて深く突っ込まないことにしました。
上場するためには、会社の仕組みだけではなく、企業文化として、プライベートカンパニーを脱却することが第三者から評価される必要があります。
運よく、A社のオーナー社長は、役職員の意見を積極的に受け入れるタイプであり、他人の意見を聞かないというような強情タイプでは無さそうであり、役職員に対し、気配りをする姿勢が伺えます。
取締役会の前に開催される経営会議へ出席したところ、社員が社長の前で活発に意見を言い合う企業文化があり、特に内部監査室の若い女性室長が部長クラスに対して細かいことをガミガミ言っていたところに関心しました。
将来、色々な形で障害が出るであろうと思われますが、企業文化としては上場を目指す会社として手ごたえを持っています。
社外取締役の心得
6月22日の日経新聞に「迷走 みずほ問題 監督できぬ取締役会」という記事がありました。こちらです。
この記事の内容を一言で片づけると「みずほの取締役会ってポンコツちゃうか?」というものです。
(みずほ証券の公開引受部門や審査部門から、ガバナンス体制について、あれこれ言われた場合、「おたくの会社のガバナンスは、どうなんですか?」と皮肉を言ってやりましょう!)
みずほの取締役会の構成員は、いつの間にか、基本的な心得を忘れてしまった感じがしますね。
社外取締役としての心得については、経済産業省が発行した「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」に記載されている内容は次のようになっています。
こちらになります。
第 1 章 社外取締役の 5 つの心得
第 2 章 社外取締役としての具体的な行動の在り方
第 3 章 会社側が構築すべきサポート体制・環境
私は、この「第1章 社外取締役の 5 つの心得」の要約をまとめ、それを取締役会事務局へ提出し、読み上げました。
内容は次のとおりです(実際には、↓の5つの心得を読み上げる以外に、もっと多く言っております)。
- 《心得1》
「社外取締役の最も重要な役割は、経営の監督である。その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うこと、および社長・CEO の交代を主導することも含まれる。」
- 《心得2》
「社外取締役は、社内のしがらみにとらわれない立場で、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考えることを心掛ける。 」
- 《心得3》
「社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛ける。」
- 《心得4》
「社外取締役は、社長・CEO を含む経営陣と、適度な緊張感・ 距離感を保ちつつ、コミュニケーションを図り、信頼関係を築くことを心掛ける。 」
- 《心得5》
「会社と経営陣・支配株主等との利益相反を監督することは、 社外取締役の重要な責務。 」
なお、経済産業省が発行した「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」に近い行動指針を日本取締役協会が「独立社外取締役の行動ガイドラインレポート」を出しています。↓で簡単に紹介しています。ご参考ください。
1日目の反省点
取締役会の議案が多かったため、時間が取れなかった。
私の意図をしっかり伝えることができたかどうか不安です。