「上場を目指す」と決めた会社社長の多くは、「最短での上場を目指す」と仰います。

予定通りのスケジュールで上場達成した会社もあれば、10年以上も経っても上場達成できない会社も存在します。

そんな事は、IPOに携わった人であれば、誰でも知っています。

IPO AtoZは、一味違います。

最短準備期間で上場達成できた会社とは、どのような会社なのかを調べてみることにしました。

法則や傾向を見つける事が出来れば、大発見です!

(結構、作成時間に時間をかけたブログ記事です。)

上場準備期間の調査方法

Ⅰの部等には「いつから上場準備を開始しました」という記載は、一切存在しません。

しかし「この会社は、いつ頃から上場準備を開始したのかなぁ?」を想像する手段は、いくつかあります。

特別損失の計上時期から推定する

1つめの方法がドカンと特別損失を計上したタイミングです。

監査法人による会計監査が始まり、制度会計を導入することによって「減損出せ!」と要請され、特別損失をドカンと計上というパターンは、IPO準備あるあるです。

2019年04月25日に上場したグッドスピードの上場前と上場後の業績推移は、↓の通りです。

N-5期 N-4期 N-3期 N-2期 N-1期
売上高(百万円) 10,247 12,980 15,993 20,253 22,751
経常利益(百万円) 197 224 133 93 149
当期純利益(百万円) 140 109 △209 76 91

N-3にドカンと特別損失を計上していますね。

グッドスピードは、このタイミング、つまりN-3期から制度会計を導入して、上場準備開始したと推察できます。

しかし、N-4期以前から監査法人による会計監査を開始していたものの、何等かの要因で監査法人による減損計上要請を無視していたという可能性がありますし、たまたまN-3期に特損が発生した可能性もあります。

さらに無論、全ての上場達成企業が制度会計を導入する際、目立つような特別損失を計上しているわけじゃありません。

ストックオプションを発行する時期から推定する

ストックオプションは、上場を目指す事を決め、一定レベルの実務が進捗してから発行するはずです。

少なくとも上場を目指すかどうかわからない状態の会社、または上場を決めた真っ先の業務として、従業員にストックオプションを付与するなんて想像できません。

2022年10月12日に上場したソシオネクストは、上場日の7年以上前の2015年4月22日に593人の従業員へストックオプションを付与しています。

上場時時価総額1,100億円超のソシオネクストでさえ、IPO準備期間が7年以上も要したという事が想像できます。

このようなユニコーン企業であれ、最短上場は難しいことがよくわかります。

2022年12月に上場したアルファパーチェスのⅠの部を見ると第5回新株予約権が上場する10年前の2012年4月に発行されています。
第5回新株予約権が10年前という事なので、上場準備期間が10年を優に超えることが推察されます。

本当にご苦労様でした。

ショートレビューするタイミングから推定する

上場準備の初期段階に監査法人によるショートレビューを受け、上場に向けた課題を抽出します。

もし直前々期にショートレビューを行っている場合、Ⅰの部にある「非監査業務に関する費用」という項目にショートレビューのために〇万円費用がかかりましたよ。という記載をする事になります。

したがいまして、最短の上場準備期間で上場達成した会社とは、Ⅰの部の項目「非監査業務に関する費用」におきまして、ショートレビューにかかった費用を記載している会社として想像出来そうです。
しかし、2度目のショートレビューという可能性があることを否定できません。

上場準備の期間が最短の会社一覧

このブログ記事では、上場準備期間が最短で上場達成した会社とは、直前々期の『非監査業務に関する費用』に以下のような記載が存在する会社と定義して調査してみることにしました。

  • 期首残高調査
  • ショートレビュー
  • 予備調査
  • 財務デューデリジェンス
  • 株式上場を前提とした課題抽出のための調査
  • 株式上場を前提とした監査受託のための調査

2019年1月から2022年12月までの4年間に東証へ上場達成した会社383社を調査しました。

次のような結果になりました。

2019年~2022年にIPOした会社の中で上場準備期間が最短と思われる会社一覧
  • 識学
  • カオナビ
  • gooddaysホールディングス
  • トビラシステムズ
  • ピアズ
  • ブシロード
  • アンビスホールディングス
  • ワシントンホテル
  • セルソース
  • ジェイック
  • ウィルズ
  • コーユーレンティア
  • フォースタートアップス
  • アディッシュ
  • rakumo
  • タスキ
  • スタメン
  • リベルタ
  • ココペリ
  • 東京通信
  • オンデック
  • ヒューマンクリエイションホールディングス
  • Enjin
  • デコルテ・ホールディングス
  • メディア総研
  • JDSC
  • サインド
  • クルーバー
  • エッジテクノロジー
  • ビーウィズ
  • ギックス
  • ノバック
  • セカンドサイトアナリティカ
  • M&A総合研究所
  • HOUSEI
  • Atlas Technologies
  • pluszero
  • POPER
  • ベースフード
  • Rebase
  • ニューラルポケット

以上の41社になりました。以下、この41社を「最短上場組」といいます。

383中での41社なので、東証へ上場達成した会社の内、10.7%が最短上場組という結果になりました。

上場準備期間が最短の会社を分析してみました

最短上場組は、どのような特徴があるのでしょうか?

あれこれ仮説を立て、調査分析してみることにしました。

公認会計士を管理部門トップに招聘すると上場準備期間を最短にできるのではないか

「最短上場を達成するため、公認会計士を招聘する!」と考える経営者が存在するのは、上場準備あるあるです。

ちなみに2020年と2021年の管理部門トップの経歴を調べたブログ記事は次のとおりです。

2021年上場達成企業のCFOの経歴を調べてみました

2020年のIPOでは20%、2021年のIPOでは13%が上場達成会社の管理部門トップが公認会計士でした。

最短上場を達成した会社は、このような数字を遥かに上回る結果だったのでは?と予測して調査を開始しました。

その結果は41社中、7社でした。

つまり17.0%でした。

この数字を見た限りでは「公認会計士を招聘したことが早期上場の効果を高めるとは言えない」という結論になりました。

上場準備期間を最短にするには、ファイナンス規模が大きいIPOの方が有利ではないか

主幹事証券会社にとりまして、ファイナンスの規模が大きいほど、収益が大きくなります。

ひょっとすると「管理部門がアカンけど、この会社を上場させるとウチの会社が儲かるねん」と主幹事証券の営業・フロント部門が審査を押し切り、会社として品質度外視する事例が多いと仮説を立てました。

表1に最短上場組と全銘柄でIPOファイナンス規模を比較しています。

表1 2019年~2022年のIPOファイナンス規模比較

全銘柄 最短上場組
平均 3,035百万円 1,914百万円
中央値 1,212百万円 1,235百万円

表1を見た限りでは、「ファイナンス規模が大きい会社が最短上場に有利であるとは言えない」ことがわかりました。

上場準備期間を最短にするには、業績と因果関係があるのではないか

最短上場を達成した会社は利益率が高いとか、売上規模が高い、増収率が高いというような因果関係があるのではと考えました。

そこで表2で最短上場組とIPO全銘柄で業績についての比較を簡単にしてみました。

表2 2019年~2022年の業績規模比較

全銘柄 最短上場組
直前期売上高平均 8,285百万円 4,945百万円
直前期営業利益平均 512百万円 423百万円
直前期増収率平均 13.0% 19.7%
直前期営業利益増益率平均 79.9% 64.9%

最短上場組は、全銘柄よりも売上、営業利益、増益率で下回っていました。

唯一、増収率だけが上回っていますが、弱い感じですね。

業績の水準や成長率が高い会社が最短上場出来るとは言えないようです。

上場準備期間を最短にするには、グロース市場でなければいけないのではないか

現在、プライム、スタンダード、グロースの3市場の内、グロース市場に対するガバナンス関連審査は甘いと言われています。

そこで最短上場をするためには、グロース市場でなければダメじゃないの?と仮説し、最短組が上場した市場を調べてみました。

表3のようになりました。

表3 2019年~2022年に最短上場を達成した会社の証券市場

証券市場 最短上場組
プライム市場(旧東証1部) 1
スタンダード市場(旧東証2部、旧ジャスダックスタンダード) 6
グロース市場(旧マザーズ市場) 34

プライム市場(旧東証1部)とは、ビーウィズ(9216)です。

私は、一見「凄い!」と思いましたが、ビーウィズは、元々上場会社のパソナグループの子会社です。

したがいまして、上場を目指す段階になって初めてガバナンス体制を1から構築しようとするのではなかったように思えます。

プライム市場へ最短で行くには、相当しんどい感じがします。

表3からすれば、最短で上場を目指すには、グロース市場が有利のように思えますが、そもそもIPOする市場の75%がグロース市場(旧マザーズ含む)のため、とびきり有利であるとも言い辛いです。しかし有利であることは間違いなさそうです。

上場準備期間を最短にできる業種があるはずだ

メーカーであれば原価計算制度構築に時間がかかる、多店舗型経営企業であれば人事労務が面倒といった特色があります。

最短上場がしやすい会社には、事業特性があるのではと考え、業種を調べてみました。

表4 2019年~2022年に最短上場を達成した会社の証券市場

業種 最短上場組 社数
化学 リベルタ 1
サービス業 識学、ピアズ、アンビスホールディングス等 18
その他製品 ブシロード 1
医薬品 セルソース 1
建設業 ノバック 1
小売業 クルーバー 1
情報・通信業 カオナビ、gooddaysホールディングス他 16
食料品 ベースフード 1
不動産業 タスキ 1

表4を見た限り、幅広い業種が最短準備期間で上場達成しています。

したがいまして「こんな業種であれば最短上場は出来ない」とは言えないようです。

最短上場が出来やすいのは、会計がシンプルな会社だけではないか

「上場準備期間を最短で達成した会社は、会計がシンプルでなきゃダメ」と勝手な仮説を立てました。

しかし、この会社はシンプルでこの会社は複雑というのを外から判別するのは困難です。

そこで、連結子会社、特に海外子会社があれば、会計面だけではなくガバナンス面でも、ややこしくなるだろうと考え、最短上場組の関係会社を調べてみました。

表5 2019年~2022年に最短上場を達成した会社の関係会社

関係会社 最短上場組 社数
子会社を保有しない会社 識学、カオナビ、トビラシステムズ等 26
子会社を保有している会社 gooddaysホールディングス、ワシントンホテル等 15
内、海外に子会社を保有する会社 ブシロード、ジェイック、アディッシュ等 7

海外に子会社があったとしても、最短で上場達成することは可能であることがわかりました。

中でもジェイックは、債務超過の子会社を海外を含む2社保有している会社です。

債務超過の子会社を保有している場合、審査は慎重になります。そのような中、最短上場組に入っています。

ベンチャーキャピタルが出資している会社は、上場準備期間が最短になりやすいはずだ(2023/4/27更新)

IPO AtoZのフォロワーの方から「ベンチャーキャピタルが出資している会社は、上場準備期間が最短になりやすいはずだ」という仮説を頂きました。

ブログの中の人は、「そうだろうなぁ。VCから出資を受けた時点からガバナンスに対する感覚が違ってくる。IPOを目指すことを具体的に決めれば、ドドドぉ~っと推し進める事が出来やすいのではないか。調べてみよう!」

もしVCから出資を受けている最短上場組が90%を超えるような場合、「VCから出資を受けている会社は、最短上場にアドバンテージがある!」と言えるかもしれません。

そこで、最短上場組の株主構成からVCからの出資を受けている会社は、どの程度なのか調べてみることにしました。

表6にまとめました。

表6 2019年~2022年に最短上場を達成した会社(41社)のVC出資状況

出資 最短上場組 社数
VCから出資を受けた会社 カオナビ、アディッシュ、東京通信等 20
VCから出資を受けていない会社 リベルタ、ヒューマンクリエイションホールディングス等 21

もう笑えますね。私はてっきり、せめて3/4を超えているだろうと勝手な予想をしていましたが、半分を切っているなんて。。。

最短上場組の中には、子会社上場がありますが、それを差っ引いても、全く仮説が通用しません。

「最短上場と株主構成には、全く因果関係がない」ことがわかりました。

上場準備期間を最短にしやすい主幹事証券会社があるはずだ(2023/4/27更新)

これもフォロワーの方から、お題を頂きました。

これは、とてもイイ仮説です!

2019年~2022年の4年間の上場企業の約10%が最短上場組です。

例えば、野村證券の主幹事証券でIPOした会社の内、30%が最短上場組だとすれば、平均水準を大幅に上回る水準であるという事になりますので、野村證券主幹事を土下座してでも、お願いしたくなるスタートアップ企業経営者が続出かもしれません。

早速、調査実行しました。

表7に最短上場組の主幹事証券会社をまとめました。なお、共同主幹事の場合は、トップの方だけに絞ってカウントしています。

表7 2019年~2022年に最短上場を達成した会社(41社)の主幹事証券会社

主幹事証券会社 上場企業数 最短上場組数 最短上場組割合
野村證券 76 8 10.5%
大和証券 60 6 10.0%
日興証券 84 11 13.0%
みずほ証券 75 8 10.6%
三菱UFJ証券 8 2 25.0%
SBI証券 49 3 6.1%
いちよし証券 12 1 8.3%
東海東京証券 10 1 10.0%
東洋証券 1 1 100%
岡三証券 6 0 0%
HS 2 0 0%

笑えますね。野村、大和、日興、みずほのトップ4証券会社は、ほぼ横一線です。特に野村、大和、みずほは「談合?」というレベル感です。

三菱UFJ証券は25%という結果からして、流石、少数精鋭のIPOだけに営業し、主幹事契約先を絞っている結果が出てきます。

SBI証券が多少低い感じがします。

なぜSBI証券が劣っているのかは、イメージできますが、それは大人の事情で文章にするのは止めさせていただきます。

結論としては「どこの主幹事証券を選定しても、たいして変わらない」事になりました!(三菱UFJ証券の主幹事契約締結は、このブログを読んでいる層のスタートアップ企業にとって、ハードル高いですよ)

まとめ

最短準備期間で上場達成できた会社とは、どのような会社なのかを調べてまいりました。

結果的に結論として「グロース市場を目指す場合、どんな会社でも、上場準備期間を最短で上場達成するチャンスがある」でした(何かの法則らしきものを見つけたかったのですが。。。ちょっと残念です。仮説が全滅です!反対に言えば、面白いですね。)

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