IPO審査では、あまり経営会議の議事内容や運営状況は、あまりクローズアップされません。
経営会議の開催は、法律で定められていないため、各企業経営陣の裁量や伝統等によって運営方法が自由なので、証券会社や取引所などの外野が「あ~しろ、こ~しろ」と言う会議ではありません。
IPO審査ではあまりクローズアップされませんが、実務担当者にとりまして、1点だけ注意すべきポイントが出てきます。
ここでは、それについて説明させていただきます。
経営会議とは
ほとんどの会社で経営会議は「経営方針」「経営戦略」「各事業や主要案件の進捗」「大きなクレームや品質問題」など幅広く討議を行う会議体として実施され、取締役や執行役員などの経営幹部を中心として構成されています。
ほとんどの会社においては、取締役会の次に重要性や権威性を持つ会議として位置づけされています。
経営会議と取締役会との違い
アーリーステージの会社経営者から初歩的な質問として、経営会議と取締役会の違いについて問われることがあります。
主に次のような違いになります。
表 経営会議と取締役会の主な違い
経営会議 | 取締役会 | |
---|---|---|
設置 | 任意 | 会社法で開催が義務化(必須とされる決議事項も存在) |
議事録 | 任意 | 取締役会の日から10年間,本店に備え置くことが義務化 |
上場申請時 | 原則提出なし | 議事録の提出を要する |
このような違いがあるため、IPO審査では、取締役会はクローズアップされますが、経営会議はあまりクローズアップされません。
しかし社内では、経営会議の方が出席者が多く、議案内容がバラエティに富んでいるため、取締役会より経営会議の方が活性化している会社が少なくありません。
なお、経営会議の意義や運営は、主に次のような分類になるのではと思われます。
取締役会の事前会議としての経営会議
経営会議は、取締役会への付議事項を検討するための会議として位置づけしている会社が多いようです。
とてもわかりやすい事例が、株式会社コンフィデンスの事例です。
経営会議は、代表取締役社長の澤岻宣之を議長として、常勤取締役4名(澤岻宣之、吉川拓朗、永井晃司、竹下和広)、常勤監査役の谷地孝で構成され、原則毎月1回開催しております。
経営会議は、取締役会への附議事項の事前討議、取締役会から委嘱された事項についての審議・決議を行い、意思決定の迅速化と業務執行の効率化を図っております。
株式会社コンフィデンスの経営会議は、常勤役員だけで構成された会議であり、取締役会の事前討議として完全に位置づけされています。
次に取り上げる事例が株式会社アイドマ・ホールディングスです。
経営会議は、取締役会の決定した経営基本方針に基づき、経営に関する重要な事項を諮問することにより、代表取締役社長を補佐しております。経営会議は、常勤取締役、各部門の部長・室長、オブザーバーとして常勤監査役で構成しており、月に1回開催しております。取締役会への付議事項や業績の進捗状況などの重要事項についての審議、報告などを行っています。
株式会社アイドマ・ホールディングスの場合は、株式会社コンフィデンスと違って、構成メンバーが幅広くなっています。
ブログの中の人の印象では、株式会社アイドマ・ホールディングスのような運営、つまり経営会議を「原則月1回の開催」「役員をはじめとする要職者が構成メンバー」「取締役会への付議事項を決める」となって、運営されている例が最も多いのではと考えています。
取締役会の事前会議および事後会議としての経営会議
経営会議を月に複数回実施する会社も少なくありません。
次に2つの事例を紹介します。
経営会議は、代表取締役社長が議長を務め、社外取締役を除く取締役、執行役員、部長以上の役職者、内部監査室長で構成されております。毎月2回定期的に開催し、取締役会で決定した経営方針に基づき、業務に関する重要事項の協議、報告を行っております。
取締役、各部門長及び監査役によって構成される経営会議を設置し、原則として毎週1回開催しています。主に、各部からの業務遂行状況の情報共有や個別の経営課題に関する重要事項の協議などを行っています。
これらの会社は、経営会議を「取締役会の事前会議」および「取締役会の事後会議」として位置づけていると推察されます。
経営会議を取締役会の前だけではなく、後でも開催することにより、取締役会で決められた事を速やかに情報共有する会議として位置づけられていると推察し、非常に良い仕組みであると考えられます。
上場会社と非上場会社の経営会議の違い
経営会議の議題を幅広くすることにより、自由闊達な経営会議として機能させるということ自体は、否定されることではありません。
つまり、経営会議は、法律上でこうしなければいけないという定めは無いことから、社内規程や事務局、主催者の裁量で議案内容を自由に決めることが出来ます。これは上場会社であれ、非上場会社であれ、同様であり、議案内容に制限はありません。
しかし、上場会社になれば、1点だけ気をつけなければいけなくなる点があります。
それは経営会議で重要事実に該当するような議案内容も取り上げるかどうかです。
なお重要事実というのは、このような内容になります。こちらです。
またインサイダー取引規制の中で一番ひっかかりやすいバスケット条項については、こちらで説明しています。
非上場会社のときは、議案内容に制限が無かった経営会議の運営スタイルを上場後も引き続き行ってしまうと、インサイダー情報の漏洩リスクが高まる上、情報管理範囲が広範になってしまうことになります。
例えば上場前は、執行役員や部長クラスを含む幹部社員の全員が、会社の全ての情報を保有することに対して、問題等はありませんが、上場すれば一定の制限を求めなければいけなくなるように、経営会議の運営を変化・修正させることを検討することになるはずです。
Need to Knowの原則
上場すると「インサイダー情報は他者に漏らすな」とか「インサイダー情報を持っていれば、株式を売買するな」という教育を受けることになり、実行することになります。
また、それと同時に「Need to Knowの原則」というものを学ぶことになります。
「Need to Knowの原則」とは、インサイダー情報をはじめとする機密情報は、社内で知ってよい人の範囲と情報内容を限定させるという心得のようなことです。
「Need to Knowの原則」を経営会議の事務局が取り入れることが決定した場合、経営会議事務局へ寄せられた議案内容が重要事実に該当する可能性があるかどうかを事務局が事前に判断し、重要事実に該当する可能性がある議案については、経営会議の出席者を限定する、または、経営会議での議案をパスして、いきなり取締役会の議案にさせるというような仕組みの構築を検討することになります。