IPOAtoZに対して、次のような質問がありました。

「上場を目指す会社の非常勤役員の兼任数は、最大5社であると専門家から言われました。本当なのでしょうか?」

上場を目指す会社の非常勤役員は、1社だけの役員報酬で生活できるほどの報酬を得ておらず、自営業をはじめ、兼業して生活しています。

中には、仕事上のお付き合いで実質的に登記上だけの役員になっているケースや、ほぼ無償で役員を引き受けているケースもあります。

そこでIPOAtoZでは、上場達成企業の役員の兼任状況について調べてみました。

社外役員の兼任に関する関連法令

上場を目指す場合、社外取締役や社外監査役(以下では、「社外役員」といいます)を選定する必要があります。

その社外役員の人選をする際に気を付けなければいけない点のひとつとして、他社の兼任状況があります。

なお、社外役員を含め、役員は法律上、他社の役員等を兼任することは禁じられていません。

しかし、社外役員の兼任に関しまして、以下に紹介する法令が関係しています。

会社法第356条

取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

~(後略)~

会社法356条1項は、取締役が会社と競業するような取引を行なう場合、会社による事前の承認が必要であると定めています。これを一般的には、「競業避止義務」といいまして、会社による事前の承認がない限り、会社と競業するような取引を行うことは許されません。

このような競業避止義務が課される理由は、取締役が、会社の業務執行に関して大きな権限を有し、企業機密にも通じているためです。

役員の地位を利用すれば会社を犠牲にして、他社へ社内の情報を提供するなどの行為を防ぐという点が主にあります。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(いわゆる独占禁止法)第13条

会社の役員又は従業員(継続して会社の業務に従事する者であつて、役員以外の者をいう。以下この条において同じ。)は、他の会社の役員の地位を兼ねることにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該役員の地位を兼ねてはならない。

(2) 会社は、不公正な取引方法により、自己と国内において競争関係にある他の会社に対し、自己の役員がその会社の役員若しくは従業員の地位を兼ね、又は自己の従業員がその会社の役員の地位を兼ねることを認めるべきことを強制してはならない。

例えば、A役員が、ソニーとトヨタの役員を兼務していたとします。そしてソニーが自動車製造販売業に参入しようと検討を始めたとします。

独占禁止法第13条とは、A役員が自己の立場を考慮して、ソニーの自動車製造販売業への参入を止めようとしてはいけないということになります。

また独占禁止法第13条の意味と共通した条文が会社法に存在します。

会社法第355条

取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

会社法第355条は、いわゆる取締役の忠実義務とよばれています。

社外役員の兼任とコーポレートガバナンス

コーポレート・ガバナンス・コードやコーポレートガバナンス白書においては、社外役員の兼任に関して、以下のような記載がされておりまして、IPOの審査等においては、兼任数が多い社外役員がいた場合、間違いなく質問が出てきます。

コーポレート・ガバナンス・コード補充原則4-11②

社外取締役・社外監査役をはじめ、取締役・監査役は、その役割・責務を適切に果たすために必要となる時間・労力を取締役・監査役の業務に振り向けるべきである。こうした観点から、例えば、取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼任する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべきであり、上場会社は、その兼任状況を毎年開示すべきである。

このコーポレートガバナンスコードに定められている「合理的な範囲」がよく議論になってきます。

コーポレート・ガバナンス白書2019

兼任状況についての記載において「合理的(合理的範囲等)」に言及している会社は 24.4%(640社)であった。兼任数の上限や目安について、具体的な数値を開示している会社 は2.8%(73社)あり、その内訳は「3社(当該企業を含む)」とした会社が12社、「4社」が43社、「5社」が15社、「6社」が5社であった。また、兼任については、他社から役員就任の要請があった時点で取締役会に通知を行う旨や、事前に取締役会での承認を必要とする旨を記載してい る会社もみられた。「出席率75%以上を確保する」ことを明示している会社もあった。

(出所:「コーポレート・ガバナンス白書2019」東京証券取引所より引用)

社外役員の兼任と上場審査

「2020〜2021 新規上場ガイドブック(マザーズ編)」の中には、役員の兼任について、次のような内容が存在します

以下は、こちらから引用させていただいています。

役員の兼職についての東証の考え方①

申請会社の役員が他の会社等の役職員等と兼職関係にある場合については、まず、取締役会への出席状況などから、当該役員がその求められる監督機能を十分発揮しているかどうかを確認するとともに、常勤役員については、その業務の執行の機動性が損なわれていないかどうかを確認します。 当該兼職先と申請会社が取引関係を有するような場合にあっては、その取引に対する適切な牽制を働かせることのできるガバナンス体制が構築できているか、取引条件の決定の手続きの状況などを踏まえ、申請会社が不利益を被るような決定となっていないか等を審査において確認し、適切な体制、運用が確認できれば、当該兼任について、認められるものと判断することもあります。

(出所「2020〜2021 新規上場ガイドブック(マザーズ編)」より引用)

他社と兼職している役員は、取締役会への出席状況が良好であることが必須要件になっています。

取締役会へ欠席が頻繁にある取締役は、変更しなければいけません。

「取締役の他社との兼任関係などが、会社の意思決定や業務遂行を阻害するものとなっていませんか。」とありますが、取締役の兼任関係が会社の意思決定や業務遂行を阻害する場合とは、具体的にどのような状況をいうのでしょうか。
取締役会については、必要に応じて機動的に開催できることが必要です。例えば、取締役がグループ外の他の会社の取締役を兼任していることにより、必要な時に取締役会を開催することが困難であるような場合(時間的制約など)は、会社の迅速な意思決定を阻害している状況であると考えられます。
また、業務執行役員がグループ外の他の会社の業務執行役員を兼任している場合においては、円滑な業務執行を阻害する可能性があると考えられます。
(出所「2020〜2021 新規上場ガイドブック(マザーズ編)」より引用)
兼職数が多い役員が存在する場合、↑の内容に疑義が発生することになりますので、注意が必要になります。
また、業務を執行する役員がその他の会社を兼務することは、ハードルがあります。
しかし、社長が関係会社以外の会社を兼務している事例が存在します。記事が↓にありますのでご参考ください。

社長が関係会社以外の他社役員を兼任する事例【IPO事例】

申請会社の役職員が大学の教授等を兼任している場合、どのような点に留意する必要があるでしょうか。
申請会社の役職員が大学の教授等を兼任している場合、まず、当該役職員の大学での活動が、申請会社役職員としての業務の障害となっていないことを合理的に説明していただく必要があると考えられます。
また、大学においては教授等の兼任について事前の手続きを求めているケースがあることから、当該手続きを適正に行っていることが求められます。その他、大学の教授等として、所属している大学の規則等を遵守していることが必要となります。
さらに、いわゆる利益相反に関する問題への体制が申請会社及び当該大学において適切に構築されていることが必要となります。例えば申請会社の役職員を兼任している教授等が所属している研究室と申請会社が共同研究を行っている場合、当該教授等の発明の帰属や共同研究費の金額及び負担割合の妥当性等について、特定の者の利益を優先するような行為を防止する体制が構築されていることが必要となります。
なお、通常の企業と同様、特別利害関係者・人的関係会社・資本的関係会社・大株主等との関係における利益相反に関する問題についても留意していただく必要があります
(出所「2020〜2021 新規上場ガイドブック(マザーズ編)」より引用)

兼職先から許可を得ているかどうか、さらに利益相反の有無等について調査されることになります。

兼任数が多い社外役員が存在する場合の実務的な留意点

以上のように、社外役員の兼任に関する法律や東証の考えを考慮すると、上場会社では以下のような実務的な留意点が存在します。

取締役会のスケジュール調整

上場を目指すとなると、定時取締役会は毎月15日までに開催する必要があります。

上場会社や上場を目指す会社が開催する定時取締役会は、おおよそ毎月10日から15日までの間に集中して開催されることになります。

したがいまして、上場会社や上場を目指す会社の社外役員を兼任する人は毎月10日から15日の間、スケジュールがタイトになるため、取締役会の運営は、多くの兼任先を抱える社外役員のスケジュール調整から始めることになります。

また上場を目指すとなると、社外役員は定時取締役会へ出席すればOKということではありません。

臨時取締役会、株主総会、また各種委員会への出席、稟議決裁にも参加が必要になります。

特に株主総会の開催日が一人の社外役員の個人的なスケジュールによって、右往左往させられるのは、避けたいですね。

一方、兼任数が多い役員が存在しても、兼任先が業界団体理事、自営業、顧問、株主上場とは無縁の会社、学校関係であれば、スケジュール調整が比較的スムーズにいくと思われます。

役員規程へ反映させる

役員規程の中に次のような条文を定めている会社が多く存在します。

  • 新たに兼職する場合、取締役会へ事前報告すること
  • 兼職できる件数の上限を定める

特に事前報告は、競合になる可能性がある会社と兼職することを回避するためにも、重要なことであると思われます。

社外役員の兼任数データ

IPOAtoZでは、2019年以降に上場達成した会社の社外役員の兼任数に関するデータを収集しております。

IPOを目指す会社の方からは、お問い合わせ頂ければ、無料でそのデータを提供させていただきます。

このデータは、次のような内容です。

①:上場時に6社以上を兼任する役員名と兼任件数

②:①の役員の上場申請翌期における兼任件数

このデータを見れば、IPOの審査等において、社外役員の兼任に対して、どのような事前対応をすれば良いのかという参考になると思います。

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