IPOディスカウントをすることによって、発行価格を安くして需要を高める期待があります。
IPOディスカウントとは
IPO時の発行価格はフェアバリューより、間違いなく安い株価に設定されます。フェアバリューと発行価格の差のことを「IPOディスカウント」とよばれています。
これは投資家から求められるものであり、IPOディスカウントが大きい株であればあるほど割安になり人気が出ます。しかしIPOディスカウントが大きい株は、ファイナンスの規模の低下に繋がってしまうため、発行会社にとっては悩みの種です。
IPOディスカウントの相場
IPOディスカウントは、20%~40%程度が相場と言われていますが、公表されていないためデータ等は出ていません。事業内容や規模等によっては、もっと大きい会社も存在するかもしれません。
「30%??40%??高すぎるんちゃうか!!!」とIPOを目指す会社経営者の多くは、疑問を抱くと思います。IPOディスカウントが高ければ高くなるほど、発行価格が下がります。
IPOディスカウントの高さを納得するためには、上で取り上げた「IPO投資の主なリスク」を理解すると納得しやすくなります。
ここでは、なぜそんなにIPOディスカウントがこんなに高い相場になるのかということを少しでもわかっていただけるように説明させていただきます。
IPOディスカウントとPOディスカウント
IPOディスカウントの妥当性をイメージするためには、POディスカウントと比較することがよいと思われます。
POディスカウントについては、こちらで紹介していますので、ご参考ください。
投資家から「IPOディスカウント」を求められる理由は、主にIPOをする会社へ投資するには、既に上場している会社と比較すると主に以下のようなリスクがあるためといわれています。
- 期間リスク
- 申し込みから上場までの間に株式市況が悪化するリスクがある
- 流動性リスク
- 市場で株式の取引実績がないため、流動性の水準が不明である
- 開示リスク
- 上場会社として、適時開示をした実績がないため、開示体制の充実度が不明である
- 参考とすべき適正な株価水準の情報が少ないため、投資判断材料に乏しい
表1は、IPO投資とPO投資のリスクを比較した表です。
表1 IPO投資とPO投資のリスク比較
リスク | IPO投資 | PO投資 |
---|---|---|
期間リスク | 大きい | 大きい |
流動性リスク | 大きい | 小さい |
開示リスク | 大きい | 小さい |
期間投資に関しては、PO投資がIPO投資と同様に存在します。
しかし流動性リスクと開示リスクは、IPO投資の方が大きいのは間違いありません。
したがいまして、PO投資より、IPO投資の方がリスクが高くなります。
IPO投資のリスク > PO投資のリスク
リスクが大きい投資は、割安でなければ投資家は見向きしません。すなわちIPOディスカウントは、POディスカウントよりも高くなります。
IPOディスカウント > POディスカウント
POディスカウント率は、プレスリリースで公開されています。一般的には3%~6%程度が普通であり、10%近くになるような事も稀にあります。事例を表2で示します。
表2 POディスカウント事例
会社(PO実施日) | PO実施日 | ディスカウント率 |
---|---|---|
アサヒグループホールディングス | 2020/9/14 | 3.00% |
ソフトバンク | 2020/9/23 | 3.02% |
フルヤ金属 | 2020/10/13 | 4.01% |
ライフネット生命 | 2020/7/21 | 4.02% |
OSGコーポレーション | 2020/10/12 | 4.03% |
ケイティケイ | 2020/3/10 | 4.11% |
モーニングスター | 2020/10/19 | 4.15% |
EduLab | 2020/10/19 | 6.00% |
一家ダイニングプロジェクト | 2020/3/2 | 6.03% |
SHIFT | 2020/11/9 | 9.00% |
POディスカウントは、表1のリスクの内、「期間リスク」だけを盛り込んだディスカウント率と言えます。
つまりIPOディスカウントの水準を見積するうえで、その中にある「期間リスク」だけで3%~10%程度存在すると理解できます。なお上の表でわかるようにPOディスカウント率が低い会社は、高配当企業または大企業が中心になることに理解が必要です。
流動性リスクについて
流動性リスクとは、売買が少ないために取引が成立せず、株式を売りたいときに売れない可能性があるということです。流動性が低い会社への投資を投資家は嫌います。少量の株式を売却しようとするだけで、市況や業績等とは関係なく、大きく株価が下がるリスクがあるからです。
表3 2020年10月の平均売買高ワースト10
見出し1 | 銘柄 | 平均売買代金(千円) |
---|---|---|
Ⅰ | 植松商会 | 59 |
2 | 京極運輸商事 | 64 |
3 | 大田花き | 142 |
4 | ヤマト・インダストリー | 172 |
5 | セーラー広告 | 176 |
6 | 太平製作所 | 217 |
7 | 東葛HLDG | 229 |
8 | ながの東急百貨店 | 235 |
9 | 中央経済社HLDG | 277 |
10 | オーベクス | 277 |
IPOをした会社は、無論、それまでに株式の流動性がほとんどゼロなので、IPOを達成した会社の株式が将来、どの程度の流動性を持つのかさっぱりわかりません。これは投資家にとって大きなリスクになります。
発行価格を評価する際、類似する会社の株価を一定レベル参考にできますが、流動性については、IPO前の会社が上場会社と比較することは相当無理があります。
したがいまして、IPOディスカウントの水準を見積するうえで、その中にある「流動性リスク」は相当大きい割合になることを理解していただければと思います。
開示リスク
3つのリスクの中で、「開示リスク」が最も高いリスクであると考えます。
表4にIPO投資とPO投資での開示リスクの違いについて比較します。
表4 IPO投資とPO投資での開示リスクの違い
IPO投資 | PO投資 | |
---|---|---|
業績予想 | 未開示の状況下で投資判断 | 既に開示されている |
過去の予実差異 | 存在しない状況下で投資判断 | 既に開示されている |
企業成長等の理解 | 財務諸表が過去2期間しか監査されていないため、長期的な企業の成長実績を十分に把握できない | 過去、上場以降の財務諸表を参考にして、長期的に判断可能 |
事業内容等に対する第三者評価 | ソフトバンクや郵政など、超大型IPOを除き、事業内容について、第三者からの評価資料はほぼ存在しないケースがほとんど | 会社四季報や日経会社情報、証券会社アナリスト評価など、第三者からの評価資料を入手できる |
IPO株式への投資勧誘は、上場会社への投資勧誘と比較して、会社事業に関する情報量が乏しい状況で一般投資家に対して行わなければいけないという絶対条件があります。
まとめ
IPOディスカウント=
「期間リスク分のディスカウント」+「流動性リスク分のディスカウント」+「開示リスク分のディスカウント」として仮定して、説明させていただきましたが、どの分類も算定不能です。
しかし、IPOを目前に控えた会社関係者の皆様が主幹事証券会社や投資家から突き付けられたIPOディスカウントの高さ(つまり、発行価格の低さ)にショックを受けないことが出来れば幸甚です。
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IPOディスカウントの水準については、発行価格と上場後の株価との差異分析、また類似会社との比較をすることがひとつの参考材料になると思われますが、あまりにも信頼性が低いため、ここでは割愛させていただきます。