納品日に売上計上するという当たり前の売上処理が変わります!
「収益認識に関する会計基準」とは、企業会計基準委員会が売上の計上方法を定めたものであり、全ての上場会社が遵守する必要があります。
2021年4月1日以降に開始する事業年度より、新たな「収益認識に関する会計基準」(以下では「新基準」といいます)の適用が必要になります。
企業会計基準委員会は新基準の公表時に「これまで企業会計基準委員会が発表した会計基準の中で最も影響が大きいものになる」と表明するほどであり、企業へのインパクトが極めて大きなものになります。
新基準によって、どのように変わるかを簡単にイメージしますと
単価1万円のモノの製造販売している会社が、顧客からモノを1個購入するとの意思を受ける。そこで顧客が指定された日、モノを顧客の家に運び、設置して納品する。なおモノは、納品から1年間のメンテナンスサービスがある。
- 現行 :納品日に1万円の売上計上
- 新基準:納品日に8千円の売上計上し、残りの2千円を納品日から1年間にかけて按分して売上計上
このように変わる理由を簡単に言いますと、「顧客へ提供する役務は、納品するモノだけではないよね。メンテナンスサービスなど他にも役務とトータルして1万円でしょ。だから売上1万円というのは、各役務の価値に応じて計上すべきだ。」という事のようです。主旨は理解できますが、実務担当者にとっては極めて頭の痛い話です。
新基準には、次のように「収益を認識するための5つのステップ」があります。
- 顧客との契約内容を調べて、種類や性質などを見分ける。
- 各契約内容において、どんな事をしなければいけないか(履行義務)を識別する(例えば、「モノの運搬」「モノの納品」「モノの設置」「1年間の無償保証」など)。
- 契約内容による売上高を算定する(上の一例であれば、「1万円」)。
- 契約における履行義務に取引価格を配分する(上の一例であれば、「モノの運搬・設置・納品」=8千円、「1年間のメンテナンスサービス」=2千円)。
- 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する(上の一例であれば、「モノの運搬・納品・設置」は納品日に完了したため、納品日に8千円を売上として計上。「1年間の無償保証」 は納品日に履行義務を果たしていないため、納品日に2千円の売上計上は出来ない)
通常の会計基準の変更は、経理部門の対応だけで済みますが、この会計基準の変更は全社対応を要します!
総務法務部門を巻き込んで契約内容の全般的な確認や見直し、システム部門を巻き込んでITを使った売上計上の管理体制構築、営業部門を巻き込んで営業業務フロー全体の見直し、品質保証部門を巻き込んだ進捗管理などに波及する可能性があります。さらに、仕入先や外注先等に上場会社があれば、購買部門にも影響が出る可能性もあります。
新基準は、財務会計だけではなく、管理会計にも影響を及ぼし、例えば現在コストセンターとなっている品質保証部門をプロフィットセンターへ変更するような経営管理になる会社が続出するものと推察します。
2021年4月1日以降に開始する事業年度が直前期、または申請期になる会社は、監査法人と主幹事証券会社の担当者と相談し、直前々期の財務諸表から新基準を遵守する必要がないかどうかを確認しましょう。