IPOAtoZをご覧の方から、「金融機関から、財産保全会社を作りませんか?という提案を受けましたが、

ベンチャー企業が上場準備をしていくにつれ、オーナー社長に対して金融機関から「財産保全会社を作りませんか?」「資産管理会社を作りませんか?」という提案を受けることになります。

ここでは財産保全会社(資産管理会社)について説明します。

財産保全会社・資産管理会社とは

会社のオーナーが上場予定会社(A社といいます)以外の会社(B社といいます)を創設し、オーナーが自ら保有するA社株式をB社へ譲渡します。

このB社の事を資産管理会社、または財産保全会社といいます。

2019年に東証へIPOを達成した会社82社(Tokyo Pro Market除く)の内、37社が資産管理会社が株主にありました。

資産管理会社のメリット

資産管理会社のメリットは、主に次の3つがあります。

相続税対策

相続時の税務メリットとは、財産保全会社が自社株式を取得した場合、その取得時の時価から、相続発生時の時価を差し引いた含み益に対して、一定額を控除(本ブログ作成時は、37%)をして、評価の減額が認められます。

例えば、取得時の株価が100万円、上場後の株価が1000万円になったとすると、100万円から1000万円までの値上がり部分の900万円について37%減額出来ます。

10,000,000円-9,000,000円×37%=6,670,000円

という評価額で相続税評価をすることができるようになります。

相続税の評価額を抑えることが出来れば、相続税額を抑えることができるというメリットを発揮します。

自社株式の分散防止

投資家は、株主構成が不安定な会社への投資を嫌います。

株主構成が不安定な会社は、大株主が一気な株式を売却するおそれが高くなり、株価の低下懸念が増すためです。

社長個人に自社株式が集中している会社よりも、資産管理会社に株式が集中している会社の方が、株主構成に安定感が増すという点が期待できます。

少なくとも、オーナー社長に万が一のことがあったとしても、自社株をオーナー一族から一気に手放すことを防止できるようになるため、外部の投資家にとっては、投資への安心感に繋がり、上場後の株価にプラスへ働くことが期待できます。

税制適格ストックオプションの割当対象者の拡大

IPO準備段階で税制適格ストックオプションを発行する会社は多々あります。

税制適格ストックオプションについては、こちらで説明しています。ご参考ください。

税制適格ストックオプション【IPO用語】

付与決議日において、大口株主(非公開会社においては、発行済株式総数の3分の1超を有する者)と当該大口株主の特別関係者(親族や配偶者など)は、税制適格ストックオプションの適用対象者ではありません。

大口株主が、保有する株式を財産保全会社へ売却して、保有する株式数が発行済株式総数の3分の1以下になれば、大口株主から除外され、自身だけではなく、自身の特別関係者も税制適格ストックオプションの適用対象者になります。

こちらで事例を説明しています。ぜひご参考ください。

オーナー親族の従業員に税制適格ストックオプションを付与する際の対応事例【IPO事例-6】

資産管理会社のデメリット

会社にとって、重要な役割を持つオーナー社長の親族が存在する場合、財産保全会社を設立するのは、極めて合理的な手段であると考えられます。

しかし、以下のような留意点・デメリットがあります。

資産管理会社の留意点・デメリット
  • 財産保全会社が支配株主等に該当する場合、東証の上場規程に則った開示(支配株主等に関する事項の開示)が必要になる
  • オーナー社長が財産保全会社へ株式を譲渡する際、課税義務が発生する
  • 財産保全会社の株式には、換金性がないため、資金繰りに注意が必要になる