上場準備を始めますと「●×取引」とか「〇▲等」といった用語が出てくるので、混乱しがちになります。

その中に「関連当事者」と「関連当事者等」という用語もありまして、IPO初心者は、間違いなく混乱すると思われます。

ここでは「関連当事者」と「関連当事者等」という用語説明をさせていただきます。

関連当事者とは

IPOを目指す会社が関連当事者取引、もしくは関連当事者等取引を行っている場合、上場審査対象になります。

これらの取引は、会社の利益の流出、会社の利益が操作されたりするおそれがあることから、それが上場企業として合理的なものでない限り、上場審査前に解消しなくてはなりません。

関連当事者とは、ある当事者が他の当事者を支配しているか、または、他の当事者の財務上及び業務上の意思決定に対して重要な影響力を有している場合の当事者等をいいます。

関連当事者とは、企業会計基準委員会が「関連当事者の開示に関する会計基準」で定めた定義です。

上場申請会社と関連当事者との間に取引があった場合、Ⅰの部等に記載する必要があります。

関連当事者の定義

会計上の定義になります。

「関連当事者の開示に関する会計基準」第5項3号における関連当事者
  1.  親会社
  2.  子会社
  3.  同一の親会社をもつ会社等(いわゆる兄弟会社)
  4.  その他の関係会社、その他の関係会社の親会社及び子会社
  5.  関連会社、関連会社の子会社
  6.  主要株主、主要株主の二親等内の親族
  7.  会社の役員、会社の役員の二親等内の親族
  8.  親会社の役員、親会社の役員の二親等内の親族
  9.  重要な子会社の役員、重要な子会社の役員の二親等内の親族
  10.  6~9の人が議決権の過半数を所有している会社やその会社等の子会社
  11.  従業員のための企業年金

開示対象となる関連当事者取引

関連当事者取引は、Ⅰの部に記載しなければいけない内容になります。

しかし、全ての関連当事者取引を開示しなければいけないというものではありません。

次のような関連当事者取引に限定、もしくは除外されます。

開示対象となる関連当事者との取引の範囲
  1. 会社と関連当事者との取引のうち、重要な取引を開示対象とする。連結財務諸表においては、連結会社と関連当事者との取引を開示対象とし、連結財務諸表を作成するにあたって相殺消去した取引は開示対象外とする。
  2.  無償取引や低廉な価格での取引については、独立第三者間取引であったと仮定した場合の金額を見積った上で、重要性の判断を行い、開示対象とするかどうかを決定する。
  3.  形式的・名目的に第三者を経由した取引で、実質上の相手先が関連当事者であることが明確な場合には、開示対象に含めるものとする。
  4.  関連当事者との取引のうち、以下の取引は、開示対象外とする。
    •  一般競争入札による取引並びに預金利息及び配当の受取りその他取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引
    • 役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払い

※あくまでも開示が除外されるだけであり、上場審査が除外されるということではありません。

関連当事者が法人の場合

「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」によると、以下のとおりになっています。

(1) 連結損益計算書項目に属する科目に係る関連当事者との取引
① 売上高、売上原価、販売費及び一般管理費
売上高又は売上原価と販売費及び一般管理費の合計額の 10%を超える取引
② 営業外収益、営業外費用
営業外収益又は営業外費用の合計額の 10%を超える損益に係る取引(その取引総額を開示し、取引総額と損益が相違する場合には損益を併せて開示する。)
③ 特別利益、特別損失
1,000 万円を超える損益に係る取引(その取引総額を開示し、取引総額と損益が相違する場合には損益を併せて開示する。)
ただし、②及び③の各項目に係る関連当事者との取引については、上記判断基準により開示対象となる場合であっても、その取引総額が、税金等調整前当期純損益又は最近 5 年間の平均の税金等調整前当期純損益(当該期間中に税金等調整前当期純利益と税金等調整前当期純損失がある場合には、原則として税金等調整前当期純利益が発生した年度の平均とする。)の 10%以下となる場合には、開示を要しないものとする。
(2) 連結貸借対照表項目に属する科目の残高及びその注記事項に係る関連当事者との取引並びに債務保証等及び担保提供又は受入れ
① その金額が総資産の 1%を超える取引
② 資金貸借取引、有形固定資産や有価証券の購入・売却取引等については、それぞれの残高が総資産の 1%以下であっても、取引の発生総額(資金貸付額等)が
総資産の 1%を超える取引(ただし、取引が反復的に行われている場合や、その発生総額の把握が困難である場合には、期中の平均残高が総資産の 1%を超える
取引を開示することもできる。)
③ 事業の譲受又は譲渡の場合には、譲受又は譲渡の対象となる資産や負債が個々に取引されるのではなく、一体として取引されると考えられることから、対象
となる資産又は負債の総額のいずれか大きい額が、総資産の 1%を超える取引

関連当事者が個人の場合

「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」によると、以下のとおりになっています。

  • 1,000 万円を超える取引
  • ただし、会社の役員(親会社及び重要な子会社の役員を含む。)若しくはその近親者が、他の法人の代表者を兼務しており(当該役員等が当該法人又は当該法人の親会社の議決権の過半数を自己の計算において所有している場合を除く。)、当該役員等がその法人の代表者として会社と取引を行うような場合には、法人間における商取引に該当すると考えられるため、関連当事者が個人グループの場合の取引としては扱わず、法人グループの場合の取引に属するものとして扱う。

IFRSの関連当事者

IFRSの関連当事者については、現在日本で採用している関連当事者とは範囲が異なります。IFRSは、会社経営に対し、実質的な影響の大きさで判断しています。
例えば、現在の日本基準では、議決権比率10%以上の株主は、すべて関連当事者に該当するようになっていますが、IFRSではそのような基準がなく、単なる投資ファンドであれば、除外される可能性が高くなります。
また、日本の基準では、2親等内の親族はすべて関連当事者に該当しますが、IFRSでは、何親等という基準が存在せず、実質的な影響度合いで判断することになります。

関連当事者等とは

上場審査では、関連当事者等との取引が審査対象になります。

つまり、

  • Ⅰの部への開示:関連当事者との取引
  • 上場審査の範囲:関連当事者等との取引

の違いがあります。

したがいまして、上場を目指す会社は、「関連当事者等」の範囲を把握する必要が出てきます。

関連当事者等とは関連当事者よりも、対象が広範になります。定義は次のようになります。

関連当事者等の定義

上場審査上の定義になります。

「新規上場ガイドブック」における関連当事者等

「関連当事者(財務諸表等規則第8条第17 項)」

+
「関連当事者の範囲に含まれないものの、申請会社の企業グループと人的、資本的な関連を強く有すると考えられる者」

関連当事者と特別利害関係者

関連当事者と類似する用語として特別利害関係者があります。

    特別利害関係者の方が、関連当事者よりも範囲が広くなります。

    特別利害関係者については、↓で説明しておりますので、ご参考ください。

    特別利害関係者【IPO用語】

    Ⅰの部における関連当事者と特別利害関係者の違いは次のとおりです。

    • 関連当事者:上場申請会社が関連当事者と取引があれば開示対象
    • 特別利害関係者:特別利害関係者等が株式等を移動した場合に開示対象

    関連当事者取引の事例

    IPOAtoZでは、Ⅰの部にある関連当事者取引の内容についてデータをまとめています。

    そのデータを活用すれば、どの会社がどのような関連当事者取引を行っていたのかがわかるようになっています。

    直前に解消した関連当事者取引、申請期に解消した関連当事者取引、中には解消しなかった取引はどういうものがあるのかなどがわかるようになっています。

    このデータを活用した記事があります。一例としてご参考ください。

    2019年IPO関連当事者取引事例ランキング

    関連当事者取引の事例分析

    関連当事者取引に関する上場審査の考えの参考事例【IPO事例-18】

    社外取締役の会社との関連当事者取引を解消せずにIPOをした事例【IPO事例】

    関連当事者取引管理規程(2022/7/7更新)

    法律上は、求められていませんが、関連当事者取引を実施しようとする場合、事前に取締役会で決議すべきです。

    そこで規程の事例を紹介させていただきます(某大手証券会社からOKが出ている規程をベースにしたひな型ですが、内容等を保証するものではありません。ご利用する際は、info@ipo-atoz.comまでご一報ください。やる気が出ます)。

    関連当事者取引管理規程事例

    第1章 総 則

    (目 的)

    第1条 この規程は、〇株式会社(以下、「当社」という。)と当社子会社(以下合わせて、「当社グループ」という。)の関連当事者及び当事者取引を適時・的確に把握すること並びに関連当事者取引が発生した場合の適切な取扱いを定めることを目的とする。ただし、当社子会社において個別に規程類を制定している場合は、各社の個別規程類が本規程に優先する。

    (基本方針)

    第2条 当社グループは、取引に合理的な理由があり、かつ必要不可欠であるものを除いて、原則として、関連当事者取引を行わないこととする。

    (定義)

    第3条 本規程における関連当事者とは、関連当事者の開示に関する会計基準第5項第3号に規定する次に掲げる者をいう。

    1. 親会社
    2. 子会社
    3. 当社(子会社においてはグループ各社)と同一の親会社をもつ会社(組合その他これらに準ずる事業体を含む。以下同じ。)
    4. 当社(子会社においてはグループ各社)が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社(以下、「その他の関係会社」という。)並びに当該その他の関係会社の親会社及び子会社
    5. 当社(子会社においてはグループ各社)の関連会社及び当該関連会社の子会社
    6. 当社(子会社においてはグループ各社)の主要株主及びその近親者(二親等内の親族をいう。以下同じ。)
    7. 当社(子会社においてはグループ各社)の役員及びその近親者
    8. 当社(子会社においてはグループ各社)の親会社の役員及びその近親者
    9. 当社(子会社においてはグループ各社)の重要な子会社の役員及びその近親者
    10. 上記6.~9.に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社
    11. 従業員のための企業年金(掛金の拠出以外の重要な取引を行う場合に限る。)

    第2章 取引管理

    (関連当事者リスト)
    第4条 本規程の所管部門は、毎事業年度ごとに前条に掲げた1.~11.に該当する者のリスト(以下、「関連当事者リスト」という。)を作成しなければならない。

    2 関連当事者リストは、当社グループの役員並びに主要株主に異動があった場合には、その都度当該異動に伴う修正を行うものとする。
    3 当社グループの役員は、関連当事者リストの作成又は修正することを目的とした調査依頼が本規程の所管部門からあった場合には、その指示に従わなければならない。
    4 当社グループの役員は、近親者の異動があった場合には、その旨を速やかに本規程の所管部門に報告しなければならない。
    5 当社グループの役員は、自ら及びその近親者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等及び当該会社等の子会社の異動があった場合には、その旨を速やかに本規程の所管部門に報告しなければならない。
    6 関連当事者リストに含まれる個人情報は、「個人情報管理規程」に従い、漏えいを防止し、適切に管理しなければならない。

    (関連当事者取引の事前把握)
    第5条 当社グループが新たに取引を行う場合、取引担当者は、取引開始前に取引相手が関連当事者に該当しないかどうかについて本規程の所管部門に照会しなければならない。当該取引は、物品の販売・仕入、役務の提供・受領、動産・不動産の貸借取引、資金貸借取引、債務保証・被保証、担保提供・受入、顧問契約等あらゆる取引を含み、有償・無償の別を問わない。

    (関連当事者取引の承認)
    第6条 前条の照会の結果、関連当事者と新たに取引を行う場合には、「職務権限規程」に従い、取締役会の承認を得なければならない。
    2 関連当事者が役員の近親者である場合、又は、役員及びその近親者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等及び当該会社等の子会社である場合には、当該役員は、前項の取締役会に参加することができない。
    3 第1項の取締役会においては、取引の合理性(事業上の必要性)と取引条件の妥当性について十分に検討しなければならない。また、議長は出席した独立役員及び監査役に対し、取引の合理性(事業上の必要性)と取引条件の妥当性について意見を求めなければならない。
    4 第1項の取締役会において関連当事者取引が承認された場合には、本規程の所管部門長は、有価証券報告書等の関連当事者取引への記載の要否の検討について職制を通じて担当者に指示しなければならない。
    5 取引開始後に取引条件を変更する場合には、本条の規定を準用する。

    (情報の管理)
    第7条 関連当事者リストには個人情報が含まれていることに鑑み、所管部門長は、リストへのアクセス権等を定め、外部に情報が漏えいしないよう必要な措置を取らなければならない。

    附 則

    (改廃)
    本規程の改廃は、取締役会の決議による。
    (所管部門)
    本規程の所管部門は、〇株式会社の管理部とする。
    (施行期日)
    本規程は、令和〇年〇月〇日より施行する。

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