IPOを達成するためには、2つの審査をクリアする必要があります。
その一つ目の審査が主幹事証券会社が行う引受審査です。
ここでは、引受審査について説明させていただきます。
引受審査の目的
引受審査は、主幹事証券会社が会社の株式を引受する可否判断をおこなう目的で行います。
引受に関する用語解説は、こちらになります。
証券会社は、IPO株式の引受を決定すると、一定の社会的責任や経済的リスク等を背負います。
ダメな会社を引受してしまうと、投資家に損失を負わせ、バッシングの嵐を受けて顧客が離れるだけではなく、最悪のケースは裁判沙汰になる場合があります。
【みずほ証券の免責、判断見直しか 粉飾訴訟で最高裁】
上場廃止となった半導体製造装置メーカー「エフオーアイ」(破産)の粉飾決算で損失を受けたとして、株主らが上場時の主幹事だったみずほ証券に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)は6日、上告審の弁論期日を11月17日に指定した。賠償責任を否定した二審判決を見直す可能性がある。金融商品取引法は、虚偽記載のある書類を用いて株を募集した証券会社は賠償責任を負うと定めている。虚偽と知らなかった場合などは免責される規定もある。一審・東京地裁は、粉飾を示唆する投書がみずほ証券に届いていたことなどから「主幹事としての注意を尽くしていたとは認めがたい」として賠償責任を認定。二審・東京高裁は、同証券がエフ社の販売実績を調査していたことで注意義務を尽くした、と判断した。エフ社は2009年11月の東証マザーズ上場後に粉飾決算が発覚。売上高の97%が架空で、東証は10年6月に上場廃止とした。同社元社長らは金商法違反罪で実刑判決が確定している。
(出所:日本経済新聞 2020年10月6日より)
第二のエフオーアイを出さないために、主幹事証券会社は、IPOを目指す会社に対して慎重に引受審査を行います。
引受審査と上場審査の違い
もし第二のエフオーアイのような会社をIPOさせてしまった場合、そのたった1社のために主幹事証券会社としての引受業務は一気に死活問題へ発展します。
さらに主幹事証券会社は、引受審査をクリアすると「推薦書」を作成して、東証へ提出します。「推薦書」を提出するということは、その段階で一定の責任を主幹事証券会社は、背負うことになります。
上場審査で一蹴されるような案件を連発させた主幹事証券会社は、東証から「この証券会社は、引受審査で何を確認してるの?」として、引受審査の質に対し疑問を受けることになります。
そのような背景から、特に大手証券会社が主幹事証券会社の場合においては、上場審査よりもハードルが高いと言われており、4カ月程度を要する場合があります(ブログの中の人は、引受審査に半年かかったという会社を知っています)。
例えば、反社会的勢力の確認においては、東証が求める対象範囲より、主幹事証券会社が求める対象範囲の方が多いようです。
引受審査の規則
引受審査に関する規則については、日本証券業協会「有価証券の引受け等に関する規則」に定められています。
この中で主な規則は、次の2つになります。
引受会員は、引受審査業務を的確に遂行することができる人的構成を確保するとともに、独立した審査意見の形成を行うため、次に掲げるすべての要件を満たす組織体制を構築しなければならない。
- 引受審査部門を設置すること。
- 引受審査部門において引受審査業務を遂行する担当者は、引受推進業務及び引受業務に携わらないこと。
- 引受審査部門を担当する役員は、引受推進部門又は引受部門を担当しないこと。(後略)
(出所:日本証券業協会「有価証券の引受け等に関する規則」第5条より)
引受審査を担当する審査部門は、公開引受部門や営業部門などとは、一線を引いた独立した部署になり、部門間で対立することはよくある話です。
引受審査を行っている際は、引受審査担当者を悪魔のように思えてしまうことがありますが、上場審査に入れば、最高の味方に早変わりします。
引受会員は、新規公開において行う株券、優先出資証券、外国株信託受益証券又は不動産投資信託証券(金商法第2条第1項第 11 号に掲げる投資証券であるものに限る。以下この条及び次条において同じ。)の募集又は売出しに際して引受けを行う場合には、次の各号に掲げる有価証券の種類に応じて、少なくともそれぞれ各号に掲げる引受審査項目について厳正な審査を行わなければならない。
イ 公開適格性
ロ 企業経営の健全性及び独立性
ハ 事業継続体制
ニ コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の状況
ホ 財政状態及び経営成績
ヘ 業績の見通し
ト 調達する資金の使途(売出しの場合は当該売出しの目的)
チ 企業内容等の適正な開示
リ その他会員が必要と認める事項
~ 後略 ~
(出所:日本証券業協会「有価証券の引受け等に関する規則」第16条より要約)
審査項目は、上場審査とほぼ同じであるため、引受審査での質疑応答内容と上場審査での質疑応答内容が重複することは多々あります。
したがいまして、ブログの中の人は、引受審査が辛くなればなるほど上場審査は楽になると考えています。