2022年6月23日にIPOした株式会社坪田ラボのⅠの部にある「株主の状況」を見ると、過去のIPOには、おそらく存在しなかった資本政策が行われていたことがわかります。

それは、数多くの社外協力者へストックオプションを付与しているという事です。

その数は、17名にもなります。

一方、従業員は、たった4名しかストックオプションを保有していません。

付与された社外協力者の中には、取締役よりも多く付与された人もあり、合計すると発行済株式数と比較して、1.63%にもなります。

これまでのIPOからすれば、従業員の働きに対する感謝と期待を込めて、幅広く従業員へストックオプションを付与し、社外協力者へは付与しないという事例がほとんどでしたが、坪田ラボの場合は、その逆のように見受けます。

ここでは、上場準備会社が社外関係者へストックオプションを付与する場合の注意点等を取り上げさせていただきます。

社外関係者が税制適格ストックオプションの対象者になった

税制適格ストックオプションは、会社またはその子会社の取締役や使用人だけが適用範囲でしたが、2019年の税制改正において、「社外高度人材」という該当者に対する付与は、税制適格ストックオプションの適用対象者に加わりました。

「社外高度人材」とは、会社と人材と貢献度でアピールする必要があり、誰でもスグになる事は出来ません。

↓のような要件になります。

(出所:経済産業省 「ストックオプション税制に関する認定制度(社外高度人材活用新事業分野開拓計画」より)

なお、この税制についてまとめた経済産業省のサイトは、こちらになります。

社外関係者へのストックオプション付与状況

社外協力者へストックオプションを付与する事例は、いくつも存在します。

坪田ラボほど、多く付与している事例は存在しませんが、例えば、2月17日に上場したエッジテクノロジー株式会社は、少しづつ15名の社外協力者に付与しています。

少し古い記事になりますが、社外協力者へストックオプションを付与することに関して、日経新聞の記事がありましたので紹介します。

スタートアップ企業に対するストックオプション付与対象者調査結果
  • 回答企業の89%がストックオプションを導入している。
  • 付与対象者は、従業員83%、取締役72%、社外専門家27%、監査役23%である。

出所:「日本経済新聞2020年1月13日”株報酬、社外専門家に付与”」より引用

日経新聞の調査によれば、ストックオプションを導入した会社の内、1/4超の会社が社外専門家へ付与しているようであり、技術力向上や人脈形成に利用していると言われています。

なお、上場達成した会社においては、1/4を遥かに下回っています。

社外関係者へストックオプションを付与する際の留意点

上で取り上げた日経新聞の記事によれば、以下のような注意点が存在すると述べています。

社外関係者へストックオプション付与する場合の注意点
  1. 従業員が付与対象者になっていない場合、社内に不公平感が生まれる可能性がある。
  2. 専門家に付与しても期待した動きが得られない場合が想定される。
  3. 専門家を装う人物が知識の乏しいスタートアップに不当に権利を要求する事例も出ている。

    出所:「日本経済新聞2020年1月13日”株報酬、社外専門家に付与”」より引用

    以下では、日経新聞で述べられていた3つの注意点とは異なる注意点を取り上げます。

    投資家は、社外関係者へストックオプションを付与する事に対して否定的である

    世界的な議決権行使助言会社であるISSグラスルイスの両社は、ストックオプション(グラスルイスについては、株式報酬制度)の付与対象者に、社外の第三者が含まれることに対して反対を推奨しています。

    ↓になります。

    • ISS 2022年度版議決権行使助言基準は、こちらになります。
    • グラスルイス 2022年度版議決権行使助言基準は、こちらになります。

    議決権行使基準の中へ明確に第三者へのストックオプション付与に対し、反対する意見を示している大手資産運用会社は少なくありません。

    例えば、三菱UFJ国際投信や大和アセットマネジメント等は、明確に反対意見を出しています。

    1. 三菱UFJ国際投信「議決権行使の方針
    2. 大和アセットマネジメント「議決権の行使に関する方針

    東証と証券会社は、社外関係者へストックオプションを付与する事に対して否定的である

    東証ならびに証券会社は、投資家サイドの意見に立って審査する立場になります。

    つまり、東証ならびに証券会社の審査の考え方や方向性は、世界的な議決権行使助言会社であるISSグラスルイス、資産運用会社の考え方と方向性がほぼ一致し、背反することはほとんどありません。

    したがいまして、東証ならびに証券会社の審査は、社外の個人・法人へストックオプション(新株予約権)を付与する行為をネガティブに捉えておりまして、過去の上場達成会社で社外関係者へのストックオプション(新株予約権)の付与実績が少数になっている理由になります。

    投資家サイドがネガティブに考える理由は複数考えられますが、東証ならびに証券会社がネガティブに考える最も大きな理由は、社外の個人・法人への費用支払いをストックオプションで代用する行為と疑われることであると思われます。

    例えば、外注先へ金銭での費用支払いをストックオプションで代用すると、原価低減に繋がり、見かけの業績を良く見せることができますよね。

    これは本来、あるべき取引を歪めてしまう行為であり、無限定適正意見であったとしても、財務諸表の信頼性を損なう行為になります。

    今も、上場審査では、上場申請会社が社外の人材へストックオプションを付与した場合、「なぜこの人にストックオプションを付与したのか?」という質問があり、合理的な回答を出来ない限り、NOと判定されるはずであり、それは今後も変化しないと考えます。

    社外高度人材へのストックオプション付与に対しても、同様です。

    証券会社または東証から要請を受け、ストックオプションの放棄をした可能性が高い事例も存在します。↓になります。

    社外協力者へ直前期にストックオプションを付与したものの、申請期に放棄した事例【IPO事例-7】

    上場審査をクリアするために、ブログの中の人が考える条件は、次のようなことであると考えます。

    ストックオプションを付与する社外協力者の条件
    • 過去の貢献ではなく、上場後の貢献に期待できる人材への付与であること
    • 過去の取引において、適正な価格で取引をしていたと言えること

    なお、坪田ラボのⅠの部を読むと、直前々々期の従業員数はなんとたった1名でした。

    坪田ラボの技術・業績に貢献したのは、従業員よりも、社外協力者の方だったと推定できます。

    社外関係者へストックオプションを付与すると、金融商品取引法に気をつけなければならない

    会社、100%子会社、100%孫会社の取締役等(取締役、会計参与、監査役、執行役又は使用人)のみに、ストックオプションを付与する場合、どんな規模のストックオプションでも、有価証券届出書の提出は除外されます。

    しかし、社外専門家へ付与してしまうと、除外されなくなります。

    社外関係者を1名でも付与してしまうと、取締役・使用人等の人数と合算して50名以上に付与(正確に申し上げますと「付与」ではなく、「勧誘」)し、かつ発行価額の総額が1億円以上になれば、有価証券届出書を提出しなければいけなくなります。

    なお、1千万円超~1億円未満の場合は、有価証券通知書を提出することになります。

    6カ月以内で複数回にわたってストックオプションを付与する場合、通算規定にも注意が必要です。

    ↓をご参考ください。

    募集【IPO用語】

    もし有価証券届出書の提出を怠っていた場合、金融商品取引法違反と見なされます。

    その場合、最悪のケースとして、有価証券届出書の提出義務が発生する日から5年間、IPOを延期することになります。

    まとめ

    上場準備会社が社外関係者へストックオプションを付与する場合の注意点について、取り上げました。

    以上をまとめると、もし社外協力者へストックオプション(新株予約権)を付与しようとする場合、以下の事に留意して付与することをおススメします。

    ストックオプションを社外協力者へ付与したいと考える場合のチェックポイント
    • 有価証券届出書を提出しなくてよい規模のストックオプションを発行する
    • 上場審査や引受審査で書面での質問を受ける可能性が極めて高いため、その回答を準備した上で発行する(「なぜ、その社外専門家に割当てをしたか?」「その外部専門家へ割当をした事によって、会社が得られた具体的効果は?」「株式上場後、その社外専門家が会社へ、どのような貢献を期待できるのか?(一番大事!)」)
    • ストックオプションを付与する社外専門家に対し、上場審査や引受審査でストックオプションの消滅を要請される可能性がある前提で発行する

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