上場前から粉飾を行っていたグレイステクノロジーは、上場廃止になります。

この粉飾は、役員に付与されたストックオプションを行使して取得した株式を市場で売却し、その売却資金を、取引先から入金された売上代金に見せかけて偽装入金するという手口の粉飾が行われていました。

矢部謙介様のコラム「決算書から粉飾は見抜けるのか? 上場廃止グレイステクノロジーの『不可解な動き』」によれば、「従業員1人当たり売上高の推移が不自然だ」と指摘しています。こちらになります。

従業員1人当たり売上高の推移が不自然と言いましても、それだけで第三者がグレイステクノロジーの粉飾を疑う事や結論付けは、なかなか困難だとと思います。監査法人担当者にとりましては、完全に”ババを掴んでしまった案件”であり、粉飾を見破ることが非常に難しかった案件だったと思われます。

ブログの中の人は、某証券会社の公開引受部門に所属した経験があり、数多くの上場準備に携わってきました。

その中には、粉飾決算をしていた可能性が極めて高い会社が数社存在しました。

そのような体験を踏まえ、「このような考えや取り組みが重要かも?」と自分自身に思ってきました。

この記事を読まれた方にとりまして、当たり前と感じ、お役に立つかどうかわかりませんが、覚えている範囲で私の体験談を記事にさせていただきます。

某不動産会社の粉飾

それは急激に売上が成長していた表参道の不動産会社(A社)でした。

このA社の取引先のトップ10の中に取引額(確か)10億円程度になる大口取引先(B社)がありました。その他の大口取引先は、比較的聞くような名前ばかりでしたが、B社だけ聞いた事が無い会社でした。ホームページを探しましたが、存在しません。

こんな大規模の取引を聞いた事が無いような会社がするの?というシンプルな疑問がわきました。そこで、B社にアポなしで上司を連れて訪問しました。

代々木駅前の雑居ビルの2階でした。暗く狭い階段でした。

B社の看板は、テプラ―で社名が貼っているだけ。郵便ポストにはチラシが溜まっている。平日昼間なのに、人の気配なし。夕方まで喫茶店で待っていたが、電気つかない。絶対に怪しい(上司は、「キタ━━(゚∀゚)━━!!」とメチャ喜んでいました)。

会計知識ほぼゼロの私でも、B社に調査ターゲットを絞りこめば、怪しい取引が存在するかどうかわかります。

循環取引の疑いが強い取引を見つける時間は、あまりかかりませんでした。

この取引内容について、1年近くも前から監査業務を行っている監査法人担当者に説明すると「関係者にヒアリングしたのですが。。。」と答えるだけであり、全く認識していませんでした。

上司は帰り道で「関係者が『ペーパーカンパニーを作って循環やってます』なんて言わないだろ!」と笑っていました。

もし監査法人担当者が代々木に行っていれば、きっと証券会社の出番は無かったと思います。後日、A社は、倒産したようです。

A社の担当を通じて、私が学んだ事は、↓です。

  • 現場往査が大事

某IT企業の粉飾

その会社は五反田のIT企業(C社)でした。

私は、C社の上場準備責任者(CFO・公認会計士)とお互いを”ちゃん付け”で呼び合うなどの仲になり、社長に対する愚痴を含めて本音を話してくれるような関係を築いていました。

突然、そのCFOは退職することになりました。

私は、CFOの送別会の席に呼ばれました。C社のCFO、総務部長(記憶が曖昧です)と経理課長(記憶が曖昧です)、私の4人でした。有楽町のビアガーデンでした。

送別会の席が盛り上がった頃、CFOは急に神妙になり、私に言いました。

「実は、うちの会社、粉飾やってますよ」

そして、その手口の概要を教えてくれました。

完全な内部告発です。他の2人が私の眼を見て頷いた事を昨日の事のように覚えています。

「なぜゲロしようと思ったの?」と聴けば、「社長からの完全な指示だけど、最後は社長が逃げて、俺たちに罪を被せると思ってきたから」

「なぜ俺に?」と聴けば、「一番信頼出来そう」

「監査法人は知ってる?」と聴けば、「ごまかせている」

CFOは、大手監査法人での監査経歴があります。監査パターンを熟知していた事で監査の先回りをして、ごまかしが通用していると言っていました。

一方、私は、訪問の都度、長期滞留債権の事ばかりピンポイントで質問していたため、私がC社の粉飾を疑っていたと勘ぐっていたそうです(実は私は、粉飾を全く疑っていませんでした)。

翌日、監査法人担当者に連絡しました。

そして翌週、内部通報で得た情報以外の理由で主幹事契約解除を申し出ました。

私は、送別会の席にいた総務部長と経理課長に新たな職を紹介しました。

なおC社は、今も存続しています。まだ上場していません。

私は、粉飾を内部通報で情報を得た事はC社以外もあります。

C社の担当を通じて、私が学んだ事は、↓です。

  • 上場準備責任者との信頼関係が大事(このCFOは、IPOAtoZのTwitterフォロワーになっています)

某産業機器メーカーの粉飾

成長著しい産業機器メーカー(D社)でした。売上成長が大きな会社でしたが、売掛金の伸びが目立つため、非常にリスキーな案件でした。

複数年に渡る長期滞留債権が存在していましたが、ビジネスモデルから、その滞留債権に対して、正当性を訴えるような会社でした(これ以上、詳しく言えません)。

監査法人担当者もリスキーな滞留債権がある事は、十分認識していましたが、粉飾している証拠となる決定打を探す事が出来ないため、無限定適正意見を出す方向にありました。

私は、証券会社勤務前に、D社の顧客候補になる会社で働いていました。その会社の人的ネットワークを使って、会社名を伏せて、D社のビジネスモデルについてヒアリングしてみました。

「絶対にない」という回答でした。

D社製品群の活用方法から照らし合わせてみた場合、さらに市場環境の状況や法則等から照らし合わせてみた場合、D社のビジネスモデルはあり得ないという回答です。

ヒアリングの結果、D社は、「品質レベルが著しく低い製品を販売している会社」または「粉飾をしている会社」のどちらかであるという結論に至りました。

どちらの結論が正しいにせよ、この会社から提出される全ての資料に対し、信頼性を感じられなくなり、主幹事契約解除に向けた理由付けの作業を開始しました(証券会社の公開引受部門は、粉飾を暴く役割を求められておらず、また私個人も多数の案件を抱えていたため、細部まで詰める事をしませんでした)。

主幹事契約解除後、暫く経った後、その会社は架空売上が明るみになり、破産しました(私は公開引受部門の部長から、銀座で鉄板焼きをご馳走になりました)。

D社の担当を通じて、私が学んだ事は、↓です。

  • 市場環境からのアプローチが大事

まとめ

ブログの中の人が某証券会社の公開引受部門に所属した時、担当会社で粉飾をしていた会社があったときの体験記を紹介させていただきました。

これ以上、詳しく書いてしまうと、カンが良い人は会社名がわかってしまうかも知れないため、雑な紹介になってしまいました。

このブログ記事にとり上げた3社の体験は、粉飾をしていた可能性が100%の会社ばかりであり、100%ではないものの、粉飾している可能性が非常に高い会社も数社担当した経験があります。

それらの経験に通じて言えることは、私が↑で取り上げた会社を含め、もし今、担当していれば、粉飾している事を見破ることは愚か、疑うことも出来なかったと思われます。

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