非上場会社の決算は通常、税務会計のみで経理処理が行われます。IPO準備をするためには、財務会計への対応をしなければいけなくなります。
その会計には、それぞれ存在目的が異なるため、ズレが生じます。そのズレが経常的にあればあるほど、年々積みあがっていくことになります。
IPOを目指す会社は、そのズレをゼロに解消する必要があり、そのときに出てくる用語が「過年度遡及」になります。
過年度遡及とは
過去の財務諸表における誤謬などが発見された場合に、決算期を遡って、会計処理することです。
財務諸表に関して、以下のようなことを直面した場合、まるで過去から問題なかったかのように”しれ~っと”過去から変更することを言います。
最重要資料は、企業会計基準委員会企業会計基準第 24号の会計基準になります。
最重要資料 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」
過年度遡及を求められるのは、次の3つのケースです。
- 会計方針を変更した場合
- 表示方法を変更した場合
- 過去の誤謬の訂正を行う場合
上場後に過年度遡及をする代表的なケースが粉飾決算です。
会計方針の変更
過年度遡及を求められるケースの一つとして、「会計方針の変更」があります。
ここでいう「会計方針」とは「財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続」をいいます。
つまりIPOを目指す会社が、IPO準備前に採用していた会計処理は、「税務会計」ということになります。
「会計方針の変更」とは、「従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更すること」をいいます。
すなわち税務会計のみで会計処理をしていた会社が財務会計を採用しようとすると、過年度遡及を受ける可能性が高いということになります。
また例えば、会計方針として売上計上をしていた内容を営業外収益として変更する場合などにも当てはまります。
表示方法の変更
過年度遡及を求められるケースの一つとして、「表示方法の変更」があります。
ここでいう「表示方法」とは、「財務諸表の作成にあたって採用した表示の方法(注記による開示も含む。)をいい、財務諸表の科目分類、科目配列及び報告様式が含まれる。 」をいいます。
そして「表示方法の変更」とは、「従来採用していた一般に公正妥当と認められた表示方法から他の一般に公正妥当と認められた表示方法に変更すること」をいいます。
いろいろありますが、よくある議論になるケースとして、雑損や雑益、その他として取り扱っている会計処理です。それらの勘定科目が大きな会社は、その表示方法の妥当性について議論になります。
過去の誤謬の訂正を行う場合
誤謬(ごびゅう)とは、次のようなことです。
原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りをいう。
1.財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り
2.事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
3.会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り
過去の誤謬が大きく重要であり、会社法の過年度の計算書類も修正を行う必要であると監査法人から指摘されれば、会社法の過年度の計算書類を確定する必要があります。
そのようなケースに陥った場合、監査だけの問題ではなく、株主総会等の承認等の手続を全て行う必要があるため、極めて大変です。最も大変なのは、過年度の分配可能額にも影響が生じるため、株主へ支払い済みの配当金をどうするのかという重い議論に発展します。
IPOを目指す会社にとっての過年度遡及
あくまでもブログの中の人のイメージになりますが、IPOを達成した会社の内、過年度遡及を行った経験を持つ会社数は、50%を優に超えると推察します。
特に社歴がある会社は、過年度遡及を行った経験率が高いと思います。
過年度遡及に関する記事は、こちらにもございます。ぜひご一読ください。