政策保有株式は、特に海外を中心とする機関投資家からウケが悪く、コーポレートガバナンス・コードにおいても、以下のような一文があります。

この政策保有株式には「特定投資株式」と「みなし保有株式」と呼ばれる株式がありまして、それらに該当する株式を一定以上保有している場合、Ⅰの部等に記載が必要になります。

そこで、ここでは「特定投資株式」と「みなし保有株式」について紹介します。

「特定投資株式」とは

まず特定投資株式について説明します。

「特定投資株式」と「純投資目的」の定義

「特定投資株式」という用語については、金融庁の法令解釈(こちらになります)で説明されています。

「特定投資株式」の定義

純投資目的以外の目的で保有する投資有価証券に該当する株式のうち国内外の金融商品取引所に上場されている銘柄

特定投資株式には、いわゆる「持合い株式」が含まれています。

そこで「純投資目的」とは何かという事も理解する必要性が出てきます。

「純投資目的」の定義

専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合

(出所:日本取引所グループ金融商品取引法研究会資料より引用 こちらになります)

「特定投資株式」を保有している会社がIPOした事例

特定投資株式を保有して上場した会社の事例をいくつか紹介します。

表1 特定投資株式を保有している会社事例

会社 保有銘柄 保有目的 定量的な保有効果 株式数が増加した理由 当社株式保有の有無
JRC 日工、日伝 事業における取引先として取引の円滑化 取引先持株会
クオルテック J.フロントリテイリング 安定的かつ継続的な取引関係の維持 取引先持株会
ブリーチ Waqoo 取引関係強化
オービーシステム 日立製作所 主要なパートナー企業として取引関係維持・強化 取引先持株会
日本システムバンク フクビ化学工業、千葉銀行、滋賀銀行等 取引関係の維持・強化 一部取引先持株会 無・有
南海化学 三和油化工業、ソーダニッカ、三菱UFJフィナンシャル・グループ等 取引関係を維持・強化、安定的な銀行取引 一部銘柄買付 無・有

以上の事例を見ると、特定投資株式を保有することがIPOの弊害になっていないように見受けます。

また表1で「当社株式保有の有無」で日本システムバンクと南海化学は「有」があります。両社は、株式持合いをしています。つまり株式持合いがIPOの弊害になっていないように見受けます。

ほとんどが取引関係の維持・強化を保有目的としていますが、のむら産業ではオリエンタルランド株式を従業員の福利厚生目的に保有しています。

「取引先持株会」とは

「みなし保有株式」とは

「みなし保有株式」の定義

「みなし保有株式」という用語についても、「特定投資株式」と同様、金融庁の法令解釈(こちらになります)で説明されています。

「みなし保有株式」の定義

所有権は有しないものの議決権行使権限又はその指図権限を留保している上場株式銘柄

ブログの中の人は、こんな株式って存在するのかどうか、よくわかりません。

詳しく条文を読むと、

「信託契約その他の契約又は法律上の規定に基づき株主として議決権を行使する権限又は議決権の行使を指図する権限を有する株式(提出会社が信託財産として保有する株式及び非上場株式を除く)」となっています。

今のIPO界では「信託」という事を聞いただけで、拒否反応が出そうです。

具体的なサービスで言えば、退職給付信託(りそな銀行が退職給付信託について紹介したサイトは、こちらになります)が該当します。

非上場の会社が退職給付信託を契約するのは、難しいようです。

「みなし保有株式」を保有している会社がIPOした事例

EDINETで文字検索したところ、みつけることができませんでした。

上場会社を見ると、銀行をはじめとする金融系の企業が退職給付信託以外で「みなし保有株式」を保有している事例が見られます。

「特定投資株式」と「みなし保有株式」の開示要件

特定投資株式を保有していても、なんでもかんでもⅠの部に記載する必要はなく、一定以上の場合に必要になります。

「特定投資株式」と「みなし保有株式」の開示対象銘柄

ちょっと面倒なのですが、次のようなステップになります。

    • 1貸借対照表計上額が提出会社の資本金額の1%を超える「特定投資株式」と「みなし保有株式」を開示する
      60銘柄以上であれば、全部開示して終了
    • 2①が60銘柄未満の場合、資本金額の1%以下の「特定投資株式」と「みなし保有株式」も開示する事になる
      貸借対照表計上額の大きいランキング上位60銘柄(60銘柄も保有してなければそれでOK)を作成し、その中で「みなし保有株式」の数を数える
    • 3「みなし保有株式」の数を数えた結果、10銘柄を超えたかどうかで対応が変わる
      ②において、「みなし保有株式」の数を数えた結果、10銘柄を超えたかどうかで対応が変わっています。表2のとおりになります。

      表2 「特定投資株式」と「みなし保有株式」が60銘柄未満の場合の開示対象銘柄

      「みなし保有株式」の数 開示対象銘柄
      10銘柄以下の場合 上位MAX60銘柄を開示
      10銘柄超の場合 「特定投資株式」が50銘柄以上の場合 「みなし保有株式」上位10銘柄と「特定投資株式」上位50銘柄を開示
      「特定投資株式」が50銘柄未満の場合 「特定投資株式」全銘柄を開示、「みなし保有株式」上位(60-「特定投資株式開示銘柄数」)を開示

      開示するのは、あくまでも最近事業年度、つまりほとんどは申請期の状態で記載することになります。

      「特定投資株式」と「みなし保有株式」の開示対象情報

      「特定投資株式」と「みなし保有株式」を保有し、開示することになった場合、表3のような情報を開示することになります。

      表3 「特定投資株式」と「みなし保有株式」の開示対象情報

      開示項目 概要
      銘柄
      株式数 みなし保有株式の場合には、議決権行使権限の対象となる株式数
      貸借対照表計上額 みなし保有株式の場合には、議決権行使権限の対象となる株式数に、事業年度末日の時価を乗じた額
      保有目的
      • みなし保有株式の場合には、当該株式につき議決権行使権限その他提出会社が有する権限の内容
      • 保有目的が提出会社と当該株式の発行者との間の営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合には、当該事項の概要
      保有効果
      • 提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容及びセグメント情報と関連付けた定量的な保有効果
      • 定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨及び保有の合理性を検証した方法
      株式数が増加した理由 最近事業年度における株式数がその前事業年度における株式数より増加した銘柄に限る
      持合い状況 当該株式の発行者による提出会社の株式の保有の有無

      まとめ

      「特定投資株式」と「みなし保有株式」を紹介させていただきました。
      IPO前にスタートアップ企業が「みなし保有株式」を保有する機会はあまり無いと思いますので、下記は「特定投資株式」だけで話させて頂きます。
      「特定投資株式」を保有している場合、「定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨及び保有の合理性を検証した方法」の説明が必要になります。しかしその説明は、非常に難しいと思われ、ほとんどの会社では、次のような記載になっています。

      株式会社JRCの事例

      「定量的な保有効果の記載」が困難であるため、記載しておりません。なお、企業価値向上のための中長期的な視点に立ち、個別銘柄ごとに取締役会にて必要に応じて保有の意義を評価・検証しております。

      このように記載する場合、原則、直前期には取締役会において議論する必要性が出てくる事に留意する必要があります。
      またどんな特定投資株式でも保有してもIPO可能なのかどうかは不明であり、↓ではIPO前に売却している例が存在します。

      IPO前の政策保有株式の売却事例【IPO事例】