2021年4月6日にジャスダックスタンダード市場へ上場した株式会社セルムは、”のれん”を多く計上しています。

ここでは、のれんとIPOについて、説明させていただきます。

のれんがB/Sに計上されている上場申請会社の方々にとりまして、参考になれば幸甚です。

のれんとは

企業等のM&Aにおいて売買価格を決定するにあたっては、売り手と買い手で相談しながら決定することになります。そのほとんどのケースでは、事業シナジー、企業ノウハウ、顧客基盤、保有知的財産権、ブランド力等を期待し、純資産額からプレミアムを付けた価格で決定します。

のれんは、そのプレミアムとほぼ同じ価格として捉えられています。

のれんは、「企業会計基準第 21 号企業結合に関する会計基準」の31項に定義されています。

のれんとは(企業会計基準第 21 号企業結合に関する会計基準31項より)

取得原価が、受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を上回る場合には、その超過額はのれんとして”第32項”に従い会計処理し、下回る場合には、その不足額は負ののれんとして”第 33 項”に従い会計処理する。

第32項(企業結合に関する会計基準第32項)
のれんは、資産に計上し、20 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。(※ なお、IFRSを採用している会社の場合は、償却が不要となります。)
ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができる。
第33項(企業結合に関する会計基準第33項)

(1) 取得企業は、すべての識別可能資産及び負債が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直す。
(2) (1)の見直しを行っても、なお取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理する。

ただし、負ののれんが生じると見込まれたときにおける取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回る額に重要性が乏しい場合には、次の処理を行わずに、当該下回る額を当期の利益として処理することができる。
のれんは、買収効果が高いと期待するM&Aを行うと高くなりやすくなります。しかし一方、その期待を裏切るようなM&Aになってしまった場合、のれんの存在は、企業経営にとって大きな重しになります。
のれんは「固定資産の減損に係る会計基準」の適用対象資産となり、ヤバいと評価されたのれんは、減損を求められるためです。
例えば、東芝は一時期、7兆円近いのれんがありましたが、減損せざるを得ない状態になり、会社存亡に関わる窮地に陥りました。

のれんに対するIPO審査

多額ののれんが計上されている上場申請企業は、リスクが高い会社であると評価されます。

B/Sに少しでも、のれんが計上されている会社が上場申請するにあたっては、ほぼ間違いなく、その内容について審査で問われる可能性が極めて高いと考えるべきです。なお、東証が発行している2020〜2021 新規上場ガイドブック(マザーズ編)には次のような内容が記載されています。

多額ののれんや借入金が計上されている場合について

Q: 事業及び企業の買収等により、多額ののれんや借入金が計上されている場合、審査上どのように判断されるのでしょうか。
A:多額ののれんが計上されているケースについては、上場後その一部もしくは全部を減損した場合、利益が著しく減少したり、のれんの額が純資産を超過している場合は債務超過に陥るなど、事業継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。そのため、例えば事業計画の合理性や減損テストの状況などについて確認を行い、総合的に判断することとなります。

(出所:2020〜2021 新規上場ガイドブック(マザーズ編)より)

IFASを適用する会社を除き、減損テストは業績悪化等、減損損失が発生する兆候が生じた場合に限定されますが、ブログの中の人の経験では、引受審査に入る直前に減損テストを行ったことがあります。

のれんに関するリスク情報記載事例

2021年4月6日にジャスダックスタンダード市場へ上場した株式会社セルムは、上場の直近のB/Sにおける資産合計は、42億円でありますが、その内20億円がのれんとなっています。

IPOにおける増資を考慮しても、もし20億円にもなるのれんに対して減損を求められると、株式会社セルムは大変な事態に陥ります。

セルムは、リスク情報において、次のように説明しています。

のれんの減損リスクのれんの減損リスク

当社グループは、「第1 企業の概況 (はじめに)」に記載したとおり、㈱セルムグループ・ホールディングスの株式をMBOにより取得しており、第4期連結会計年度末現在において、のれんを2,164,621千円計上しております。当該のれんについて将来の収益力を適切に反映しているものと判断しておりますが、のれんの対象となる事業の将来の収益性が低下した場合には、当該のれんについて減損損失を計上するため、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。しかしながら、仮に将来キャッシュ・フローの見積額が41.0%減少した場合、減損の認識が必要となり、減損損失が発生する可能性があります。(発生可能性:低/影響度:大/対応策:下記)

当社グループでは、のれんの減損に係るリスクを逓減するため、事業の収益力強化に努めております。前述の「(10)多額の借入金、金利の変動及び財務制限条項への抵触 ①収益性を重視した戦略立案と経営管理」及び「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)経営戦略等、経営重点テーマ」にて記載した通り、当社グループは、顧客企業とのパートナーシップの構築を軸としております。これにより、人事部門以外の他部門及びグループ会社への展開並びに新規顧客企業の開拓を進め、取引の拡大を進めております。今後も、顧客企業から得た信頼を基盤に、引き続き、売上高の拡大及び利益率の向上に努める方針です。その為、回収可能価額が事業価値の帳簿価額を十分に上回ることが想定され、減損の可能性は低いと考えております。

(出所:株式会社セルムⅠの部より)

多額ののれんが計上されている会社がIPOを達成した事例は、セルムだけではありません。

多額ののれんを計上している会社のリスク情報をいくつか紹介します。

のれん計上のリスクについて、しっかりと書かれている事例が株式会社きずなホールディングスです。きずなホールディングスののれんの額は、直前期末ベースでは資本合計額よりも多額になっている水準であることからも、丁寧な書きぶりになっています。

総資産に占めるのれんの割合が高いことについて

当社グループはIFRSに基づき連結財務諸表を作成しているため当該のれんの償却は不要となりますが、非流動資産にのれんとして第3期第2四半期連結会計期間末時点で3,625,667千円を計上しており、総資産に占める割合が21.3%となっております。

第2期連結会計年度末における回収可能価額は、のれんが含まれる資金生成単位又はそのグループの総資産から負債を除いた事業価値の帳簿価額を大幅に上回っていることから、減損テストに用いた主要な仮定が合理的な範囲内で変更されたとしても、当該資金生成単位又はそのグループの回収可能額が帳簿価額を下回る可能性は低いと考えております。仮に税引前割引率が7.6%上昇した場合又は将来キャッシュ・フローの見積額が51.4%減少した場合に減損損失が発生する可能性がありますが、今後5年間の成長率がゼロであった場合でも回収可能価額が事業価値の帳簿価額を十分に上回るため、減損の可能性は低いと考えております。

当社グループでは、のれんの減損に係るリスクを逓減するため、事業の収益力強化に努めており、主に以下の取り組みを実施しております。

① ドミナント展開による収益構造の最適化

前述の「(1)有利子負債について ①収益性を重視した戦略立案と経営管理」にて説明しました通り、当社グループの出店はドミナント展開を特徴としております。これにより、従業員の複数ホール勤務体制による人件費の最適化、施設稼働率の向上等、費用構造の最適化を目指しております。今後も、このドミナント展開を出店戦略の根本に据え、引き続き、売上の拡大及び利益率の向上に努める方針です。

② 集客手法の工夫による受注件数の増加

葬儀事業は、一般的に葬儀の施行時期が不確定であり、葬儀に係る意思決定が緊急性を要するものであることから、顧客は限られた選択肢の中から葬儀社を決定する傾向にあります。このため、葬儀事業は、葬儀社から顧客に対して、広告宣伝等の手段によっても直接的には需要を喚起できないという特徴を有しています。しかしながら、インターネット利用の増加とともに、顧客による葬儀の必要が生じた場合のウェブ検索が増加傾向にあり、また高齢人口の増加とともに、各種メディア等による宣伝効果もあって、生前から死亡後の葬儀等について自身ないし家族が調査・検討する「終活」が世間に認知され始めている等、当社グループを取り巻く事業環境は変化してきています。こうした変化を捉え、当社グループでは、一般的な葬儀社が行っているホール認知度向上や価格訴求を目的とした広告宣伝活動に加え、ホールにおける事前相談や会員制度に基づく継続的な情報提供、葬儀施行後のアンケートに基づくサービスの改善といった取り組みを実施し、葬儀の受注件数の増加に努めております。

 但し、これらの取り組みが十分ではなく、のれんの対象となる事業の収益力が低下し減損損失を計上するに至った場合には、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。詳細につきましては、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 15.非金融資産の減損」をご参照下さい。

(出所:株式会社きずなホールディングスⅠの部より)

のれん計上のリスクについて、あっさりとした記載事例がJMDCです。JMDCののれんは、非常に高額ですが割とあっさりとした書きぶりになっています。

投資に伴う減損リスクについて

当社グループの所有する固定資産は将来の収益を生み出すことを前提に資産として計上しております。しかしながら、事業環境や競争状況の変化等により期待する成果が得られない場合、減損損失が発生し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループは、企業買収に伴い発生した相当額ののれんを計上しております。当社グループは、当該のれんにつきまして、それぞれの事業価値及び事業統合による将来のシナジー効果が発揮された結果得られる将来の収益力を適切に反映したものと考えておりますが、事業環境や競合状況の変化等により期待する成果が得られない場合、減損損失が発生し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

(出所:株式会社JMDCⅠの部より)

のれんにつきまして、連結財務諸表にのれんの額を表示し、かつリスク情報にのれんに関して記載している会社は、2019年1月以降にIPOを達成した会社の内、8社(IPOAtoZ調べ)ありました。

のれんがバランスシートにある会社関係者の方々は、リスク情報に記載するかどうかを判断する上で、ぜひご参考ください。

のれん額(百万円) 純資産合計(百万円)
JMDC 5,863 6,117
カクヤスグループ 15 4,682
きずなホールディングス 3,625 3,268
STIフードホールディングス 158 1,959
アピリッツ 10 1,408
ヒューマンクリエイションホールディングス 436 637
i‐plug 108 141
Sharing Innovations 583 866

IPOAtoZのサービス

IPOAtoZでは、IPO準備に関するサポートを原則無料で行っています。

例えば、「うちの財務諸表は、こんな感じになっていますが、リスク情報に記載すべきでしょうか?」というご質問について回答させていただきます。

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