持株会には、いくつか種類があります。
- 従業員持株会
- 拡大従業員持株会
- 役員持株会
- 取引先持株会
取引先持株会とは、主に取引先との親睦関係の増進を目的として、会社の取引先が会員資格にある持株会です。
おそらく、この4種類の中で最も取引先持株会が設立数が少ないのではと思います。
IPOAtoZが確認した限りでは、上場時に取引先持株会を設立している会社は見当たりませんでしたが、上場後に設立を検討する会社は存在します。
上場会社の中では、特に老舗企業に導入している例が多く、中には筆頭株主が取引先持株会の会社もあります。また最近、上場会社の中では、市場区分の見直しに向け、取引先持株会の活動を活発化させようとしている動きもあります。
そこで、ここでは取引先持株会について説明させていただきます。
取引先持株会の仕組み
従業員持株会との主な違いは、次のようになります。
表 従業員持株会と取引先持株会の主な違い
従業員持株会 | 取引先持株会 | |
---|---|---|
設立数 | 1社の中に1組織のみ | 制限なし |
会員 |
|
|
奨励金 | 可 | 不可 |
議決権 | 特に制限なし | 議決権の総数の 25%以上を保有されている法人会員については、実施会社に対する議決権の行使が制限 |
大量保有報告書 | 提出の必要なし | 注意が必要になる※ |
拠出金 | 給与・賞与から天引き | 会員から振込、または集金代行業者による集金回収 |
※ 「取引先持株会のデメリット」で説明しています。
取引先持株会のメリット
取引先持株会は、取引先との親睦関係の増進を目的としています。
実施会社または会員にとっては、主に次のようなメリットが考えられます。
実施会社のメリット
- 株価の安定化・向上に対する寄与を期待できる
- 10%未満であれば、流通株式にカウントされ、上場維持の寄与に期待できる
- 取引関係の強化を期待できる
東証は、市場区分を変更しますが、その上場維持基準の中に「流通株式時価総額」というものが設けられることになりました。
取引先持株会の活性化は、「流通株式時価総額」のクリアに寄与する手段のひとつとして考えられています。
上場維持基準については、↓で簡単に説明しています。ご参考下さい。
取引先持株会会員のメリット
- 毎月、少額で投資ができる
- ドルコスト平均法を使った投資が出来る
- インサイダーを回避して、株式を安定して買付ができる
- 取引関係の強化を期待できる
取引先持株会のデメリット
取引先持株会のデメリットは、いくつか存在します。主なデメリットを紹介します。
投資コストが高い
取引先持株会は、従業員持株会のように奨励金制度を設けることが出来ません。
奨励金制度が無いということは、証券会社に対する持株会事務管理手数料や集金代行業者へ支払う手数料、銀行の振込手数料(以下、「各種手数料」といいます)を会員が負担することになります。
持株会を使わず、自社で自由に証券会社を選択し、株式を投資する場合、各種手数料を省いた上で投資することが可能です。
したがいまして、取引先持株会を使った株式投資は、通常の方法で株式投資するよりも、投資コストが高額になる可能性が高いということになります。
取引先持株会と大量保有報告書
取引先持株会を導入するにあたり、気を付けなければいけない点が大量保有報告書の提出です。
金融庁が発行した「株券等の大量保有報告に関するQ&A 」には↓のようなQ&Aがあります。なお、原文はこちらになります。
- 役員持株会又は従業員持株会に該当しない取引先持株会等において株券等の取得が行われる場合、誰が大量保有報告書等を提出する必要がありますか
- 当該取引先持株会等の法的性質により異なると考えられます。
当該取引先持株会等が組合又は社団等である場合には、株券等を所有し、又は法第 27 条の 23 第3項各号に規定する者に該当する業務執行組合員等を「保
有者」(金融商品取引法第 27 条の 23 第3項)として提出する必要があります(大量保有府令第1号様式記載上の注意(9)a)。
これに対し、当該取引先持株会等が組合又は社団等ではない場合、個々の持株会会員が株券等の「保有者」に該当すると考えられます。この場合、持株会
会員は、持株会を通じて保有する分と持株会以外で保有する分を合算した株券等保有割合に応じ、大量保有報告書等を提出する必要があると考えられます。
なお、取引先持株会等において保有する株券等については、大量保有府令第4条第 10 号(役員・従業員持株会の適用除外)によって保有から除かれることとはならないことに留意する必要があります。
つまり、取引先持株会が大量保有報告書の提出義務が発生すると、取引先持株会の理事長は大量保有報告書を行う義務が出てきます。
面倒です。
大量保有報告書については↓で簡単に説明しています。ご参考ください。
そこで、取引先持株会が大量保有報告書の提出義務が発生する直前に、会員は引出しを行う活動をすることがよくあります。
会員の倒産などにより、連絡が取れなくなるリスクがある
取引先持株会は、会員が取引先です。もちろん業績好調な取引先だけが会員ではありません。
いきなり連絡が取れなくなる場合もあります。
本来であれば、各会員が負担する各種手数料は、実施会社が負担することになるかもしれません。
取引先持株会とコーポレートガバナンスコード
取引先の株式を購入する行為は、「純投資目的以外の目的」で購入したということになります。
この行為は経営陣の保身に繋がるなど、昨今のあるべきコーポレートガバナンス像としては、相応しくない行為と捉えられています。
↓で簡単に説明しています。
取引先持株会と上場審査
上述したとおり、取引先持株会の存在は、コーポレートガバナンスの観点からすれば、ネガティブ材料になります。
また、非上場の段階から、なぜ取引先持株会を設立させ、取引先持株会が株式を購入させる必要があったのかという質問に対し、合理的な回答を求められる可能性が極めて高くなります。
一方、取引先持株会の存在は、上場維持をするための手段としても有効であると思われるため、取引先持株会の設立の検討は、上場前ではなく、上場後にすべきと思われます。
取引先持株会の会計処理
分類としては「その他有価証券」で、勘定科目としては「投資有価証券」で会計処理し、決算時に時価で評価替えすることが基本になります。
まとめ
現在、多くの証券会社で積立投資のサービスを行っており、また売買手数料が無料というネット証券が出現しているような状況にあるため、取引先持株会を入って株式投資をする魅力は薄れてきていると思われます。
取引先に対する投資は、取引先との親睦関係の増進を期待できますが、取引先持株会による投資でなくとも投資が可能なため、無理に入会しなくても親睦関係の増進は可能だと思います。
実施会社にとりましても、デメリットがあることに留意が必要になります。
上場会社の中では、市場区分の見直しに向け、取引先持株会を活発化させようとしている動きがありますが、全体的にはゆっくりとシュリンクしていくのではと思います。
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