IPOに関連する人であれば、ウォッチしなければいけない情報のひとつに東証の市場区分見直しがあります。
現在の4つの市場区分(東証第1部」、「東証第2部」、「JASDAQ」、「マザーズ」)から、3つの市場区分(「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」)に変更することになるということであり、そのスケジュールなどは、こちらで説明しています。
東証は、この市場区分の見直しにおいて、2020年7月に第1次制度改正を公表し、2020年12月に第2次制度改正を公表しています。
ここでは、2020年12月に発表された第2次制度改正について、若干深掘りをして紹介させていただきます。
新市場区分の上場基準
流通株式の定義が変更される
市場区分の見直しを把握する上で、重要となるキーワードが「流通株式」になります。
流通株式の定義が、どのように変わるのかは、こちらで説明しております。ご参考下さい。
第2次制度改正のポイントは、次のようになります。
- 国内の普通銀行、保険会社及び事業法人等(金融機関及び金融商品取引業者以外の法人)が所有する株式は、所有目的が「純投資」である場合を除いて、「流通株式」から除外されるが、その判断基準は、大量保有報告書又はその変更報告書に記載された「保有目的」で判断される可能性が高い。なお、大量保有報告書の提出義務者に該当しない株主の所有分については、保有の意図を把握できる手段がないため、「流通性の乏しい株式」になる。
- 上場会社の「流通株式」は、「株券等の分布状況表(事業年度の終了後2ヶ月以内に提出を要する資料)」に基づいて把握される。「株券等の分布状況表」の様式は変更される公算が高い。
形式要件があれこれ変わる
プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の形式要件をまとめると次のようになります。
表1 プライム市場の形式要件
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準(改善期間) | 当分の間の経過措置(改善期間) |
---|---|---|---|
株主数 | 800人以上 | 800人以上(1年) | 800人以上(1年) |
流通株式数 | 20,000単位以上 | 20,000単位以上(1年) | 10,000単位以上(1年) |
流通株式時価総額 | 100億円以上 | 100億円以上(1年) | 10億円以上(1年) |
流通株式比率 | 35%以上 | 35%以上(原則1年) | 5%以上(なし) |
売買代金 | – | 1日平均0.2億円以上(1年) | 月平均40単位以上(6か月) |
時価総額 | 250億円以上 | – | – |
P/L | 最近2年間の利益合計額が25億円以上、 または 最近1年間の売上高100億円以上かつ 時価総額1,000億円以上 |
– | – |
B/S | 50億円以上 | 債務超過ではないこと(原則1年) | 債務超過ではないこと(原則1年) |
表2 スタンダード市場の形式要件
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準(改善期間) | 当分の間の経過措置(改善期間) |
---|---|---|---|
株主数 | 400人以上 | 400人以上(1年) | 150人以上(1年) |
流通株式数 | 2,000単位以上 | 2,000単位以上(1年) | 500単位以上(1年) |
流通株式時価総額 | 10億円以上 | 10億円以上(1年) | 2.5億円以上(1年) |
流通株式比率 | 25%以上 | 25%以上(原則1年) | 5%以上(なし) |
売買高 | – | 月平均10単位以上(6か月) | 月平均10単位以上(6か月) |
P/L | 最近1年間の利益が1億円以上 | – | – |
B/S | 純資産が正 | 債務超過ではないこと(原則1年) | 債務超過ではないこと(原則1年) |
表3 グロース市場の形式要件
項目 | 新規上場基準 | 上場維持基準(改善期間) | 当分の間の経過措置(改善期間) |
---|---|---|---|
株主数 | 150人以上 | 150人以上(1年) | 150人以上(1年) |
流通株式数 | 1,000単位以上 | 1,000単位以上(1年) | 500単位以上(1年) |
流通株式時価総額 | 5億円以上 | 5億円以上(1年) | 2.5億円以上(1年) |
流通株式比率 | 25%以上 | 25%以上(原則1年) | 5%以上(なし) |
売買高 | – | 月平均10単位以上(6か月) | 月平均10単位以上(6か月) |
時価総額 | – | (上場10年経過した会社に適用)40億円以上(1年) | (上場10年経過した会社に適用)5億円以上(1年) |
B/S | 純資産が正 | (上場3年経過した会社に適用)債務超過ではないこと(原則1年) | (上場3年経過した会社に適用)債務超過ではないこと(原則1年) |
公募 | 500単位以上 | – | – |
第2次制度改正のポイントとしては、次のような点があります。
- 表1~表3の「時価総額」とは、事業年度の末日以前三カ月間の平均時価総額が採用される
- 上場会社が、上場維持基準のいずれかの項目に抵触した場合、「上場維持基準の適合に向けた計画」の策定と開示が求められる(同時に「債務超過の解消に向けた計画」と「流通株式等の改善に向けた計画」は廃止される
IPOへの影響
既に新市場区分において適用される新規上場に係る形式要件や上場審査事項については、第1次制度改正において、新市場区分を想定した見直しがされておりまして、既に実施されています。
なお、形式要件については、表1~表3のとおりになっています。
第2次制度改正のポイントとしては、次のような点があります。
- 新規上場申請書類の中で主幹事証券会社が作成する「推薦書」「確認書」「公開指導及び引受審査の過程で留意した事項及び重点的に確認した事項を記載した書面」が廃止され、「上場適格性調査に関する報告書」に代わる。
- テクニカル上場が勘弁な手続きでテクニカル上場による新規上場が可能になる。
- 現行制度に基づく新規上場申請後、上場審査のスケジュールに延長が生じて、新市場区分への移行日以降の上場になった場合、新市場区分を指定した申請があったと見做され、審査を継続できる。
市場区分の変更
ここでの「市場区分の変更」とは、スタンダード市場もしくはグロース市場に上場している会社がプライム市場へ市場変更をして上場することを言います。
現在も「一部指定」や「市場変更」が行われていますが、第1次改正において見直しが行われておりまして、新市場区分を想定した見直しが既に実施されています。
第2次制度改正のポイントとしては、次のような点があります。
- 市場区分変更を行う中で主幹事証券会社が作成する「推薦書」「確認書」「公開指導及び引受審査の過程で留意した事項及び重点的に確認した事項を記載した書面」が廃止され、「上場適格性調査に関する報告書」に代わる。
- 異なる市場区分に属する複数の上場会社が合併等の組織再編して上場する場合、組織再編による上場区分が実質的な存続会社ではない上場会社が属していた市場区分を選択したときは、3年以内に当該市場区分に係る形式要件及び上場審査基準に準じた審査に適合しなければいけない。
上場維持と適時開示
上場維持基準については、表1~表3にまとめています。
その他に第2次制度改正のポイントとしては、次のような点があります。
- 表1~表3の「時価総額」とは、事業年度の末日以前三カ月間の平均時価総額が採用される
- マザーズ上場会社に適用されている「上場株券等に対する投資に関する説明会の開催義務」、JASDAQグロース上場会社に適用されている「中期経営計画の策定義務」等は廃止され、「事業計画及び成長可能性に関する事項」およびその進捗状況の開示に一本化される。
- コーポレートガバナンスコードにおける対象となる原則の内容が、スタンダード市場とプライム市場では異なることになる。
- 「コーポレートガバナンス・コードを実施するか、実施しない場合の理由の説明(有価証券上場規程第436条の3)」は、今後改正される。
移行プロセス
移行までのスケジュールは、次のようになっています。
表4 新市場移行スケジュール
日程 | 内容 |
---|---|
2020/12/25 | パブリックコメントに対する意見募集開始 |
2021/2/26 | パブリックコメントに対する意見募集終了 |
2021春 | パブリックコメントへの意見に対する見解公表 |
2021/9/1~12/30 | 上場会社がどの市場を選択するのかを東証へ申請 |
2022/1月中 | 上場会社がどの市場に所属するのかを公表 |
2022/4/4 | 新市場区分に完全移行 |
2021年12月30日までに上場会社は、どの市場に選択するのかを東証へ申請します。
各上場会社は、それぞれがどの市場に上場しているか、またどの市場を選択するのかによって、審査の可否が分かれます。
審査の可否について、表5にまとめています。
表5 上場審査の実施対象
プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 | |
---|---|---|---|
東証第1部上場企業 | 審査不要 | 審査不要 | 審査対象 |
東証第2部上場企業 | 審査対象 | 審査不要 | 審査対象 |
マザーズ上場企業 | 審査対象 | 審査対象 | 審査不要 |
JASDAQスタンダード上場企業 | 審査対象 | 審査不要 | 審査対象 |
JASDAQグロース上場企業 | 審査対象 | 審査対象 | 審査不要 |
その他に第2次制度改正のポイントとしては、次のような点があります。
- 選択しようとする市場区分の上場維持基準を満たしていない上場会社は、市場区分の選択申請の際、「上場維持基準の適合に関する計画書」を添付することができる(添付している場合としていない場合では、経過措置の適用が異なる)。
- 審査が必要な市場を選択した場合、新規上場と同様の書類の作成・提出を要することになる(審査件数が急増し、混み合うことが予想されます。審査対象となる市場を選択する場合、期限ギリギリに申請するのではなく、早めに申請しましょう!)。
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