4月15日に経済産業省が「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」(以下「ガイダンス」といいます)をリリースしました。

こちらになります。

この資料には、ファイナンスに関して、上場達成した会社経営者やCFO、またVC関係者の経験からもとづく言葉が満載されています。

上場を目指す会社関係者の方々にとっては、一読必須のレポートだと思います。

しかし、ガイダンスは、70頁にも至ります。

そこで非常に忙しい方のために、15分以内で概要を把握できるよう、まとめてみました。

ファイナンスの反省点

ガイダンスには、経験者が自社のファイナンスに関する経験を通じて「あ~こうやっておけば、良かったなぁ」「もっと早くこれを知っていたらなぁ」「思っていたことと、違うわ」という反省や後悔から「こうするべき」という対応案が記載されています。

表1にまとめました。

表1 ファイナンスに関する課題・問題・失敗・誤解と対応案

課題・問題・失敗・誤解 対応案
投資家や証券会社とファイナンス面の知識や情報に非対称性が存在する
  • 事前にファイナンス面の対応および打ち手を押さえる
株主は、必ずしも自社の望ましいタイミングで出入りしてくれない
  • 初期から株主構成を注意深く検討し、後の事業成長への負の影響をなるべく減らす手立てを準備
投資家は、スタートアップの属する業界に関する全てを把握しているわけではない
  • 自社目線ではなく、投資家目線で知りたい情報を説明する。
  • 早いタイミングからエクイティストーリーを構築する。
高バリュエーションでの資金調達を実現できたものの、事業計画が達成できなくなったため、次ラウンド以降調達が難しくなった
  • エクイティストーリーは「事業の魅力」と「実現可能性」をバランスよく考慮したうえで構築する
「適正な価格付け」が、バリュエーションにおいて最も大切なポイントだった。高過ぎても、安過ぎても、ダメだ。
  • スタートアップの企業価値は、理論なしにバリュエーションされることはほぼないため、考え方を整理する
  • 株式譲渡の際にも、適切な株価算出根拠を持つ
IPO時の投資家の意向がわからなかった
  • 情報伝達や意思決定プロセスの透明性を主幹事証券会社と事前に約束する
経営者持分比率を考慮せず、外部資本(VC等)を多く受け入れすぎてしまった
  • IPO時やIPO後を見据え、VC等の持分比率を検討するとともに、VCとの間で信頼関係を構築する。
投資契約の知識がなかったため、不必要に不利な契約を結んでしまった
  • 事前に投資契約に関する知識を取得し、発行体にとって不必要に不利な条項をなるべく結ばない
ストックオプションの設計は、非常に複雑であり、失敗してしまった
  • 適切な専門家に相談しつつ設計する
どのようなCFOを採用すべきかわからない
  • 自社のカルチャーを尊重し、チームとして課題に向き合い解決することのできるCFOが重要である
IPO後の流動性を考えていなかったため、適切な市場価格形成が出来なかった
  • 個人投資家とヘッジファンドが流動性確保の観点では重要であると認識して、IR等によって対話する。
主幹事証券会社の選定する基準がわからない
  • 提示価格のみならず、↓のような多角的な観点で選定することが肝要
    • 投資家への販売力
    • 発行体の事業への理解
    • 成長ストーリーの描く力
    • サポート力(公開引受チーム)
エクイティストーリーとして伝えたかった項目の記載が目論見書にて漏れてしまった
  • ファイナンスチームと管理チームを分けない。チームが分かれている場合は、コミュニケーションを密に。

ファイナンスの成功例

ガイダンスには、経験者が自社のファイナンスに関する経験におきまして「こんな工夫をしたら上手くいった!」という成功例から「これを使ったら?」という提案が記載されています。

表2にまとめました。

表2 ファイナンスに関する成功例と期待効果

ノウハウ 期待効果
海外の類似企業を持ち出し、「米国の○○という企業の日本版です」等の説明した エクイティストーリーの説明に有用
対象とする日本市場は世界3位の経済大国であるというところから説明をスタートした エクイティストーリーの説明に有用
成長の余地が残っているような利益計画であると、アップサイドを評価されることがある エクイティストーリーの説明に有用
自社のエクイティストーリーの構築において、他社のスライドや、主要KPIの開示方法を整理し、それを応用していく。 エクイティストーリーの説明に有用
「CFOチーム」を形成する 多様な課題をチームとして解決
レイター期の段階では、事業会社中心に資金調達を実施する 出資元事業とのシナジー創出により、事業拡大に貢献する等、企業価値増大サポートを狙う
エクイティファイナンスに詳しい人材がいない場合、VCに入ってもらうメリットが大きい VCからの出資を通じて、OJTでエクイティファイナンスの知識習得
プレ・ヒアリングを積極的に活用した プレ・ヒアリングの実施は、投資家主導の価格決定に貢献するケースも存在する

ファイナンスの手法紹介

ガイダンスには、経験者が自社のファイナンスに関して「こんな手法があるよ」という紹介がされています。

表3にまとめました。

表3 ガイダンスで紹介されている手法

手法 概要 期待効果
コンバーティブル投資手段 転換価額の算定式のみが設定された新株予約権等により資金供給を行い、将来企業価値評価の正確性が高まったタイミングで株式転換を行う スタートアップは、新たな需要の獲得に向けた先行投資が必要となる一方、投資家は、投資判断時慎重にならざるを得ない状況にある。その課題解決を期待。
ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度 中小企業基盤整備機構がディープテックベンチャー等への民間の大型融資に対する債務保証を行う制度 未上場時の資金調達手段を幅広くする
インパクト投資 財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動 価格形成や安定株主確保の観点でメリット
クロスオーバー投資家 上場投資家の非上場ラウンドでの投資、また上場後も中長期で保有し続ける非上場株
投資家
価格形成や安定株主確保の観点でメリット
親引け制度 証券会社が株式を発行体の指定する販売先へ売り付ける制度 持続的な成長および適正な価格形成
グローバルオファリング 日本国内市場に加えて海外市場でも同時期に募集や売出しを実施して資金調達を行うこと 持続的な成長および適正な価格形成
インフォメーションミーティング 主にIPOの半年~3か月前に機関投資家に向けて自社のエクイティストーリー等を紹介すること 価格形成や安定株主確保の観点でメリット。特にディープテックの会社に有用。

まとめ

経済産業省がリリースした「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」について紹介させていただきました。

IPOは、業績が堅調で、内部管理体制が十分な会社であれば達成出来ると考えられていますが、ガイダンスを読んで改めて重要度が高くなったと考えたキーワードが「流動性」です。

今後、業績が堅調で、内部管理体制が十分な会社であったとしても、流動性の社内検討が不十分であれば、上場延期になるという可能性が出てくるかもしれません。