上場を目指す段階において、安定株主の持株比率を高める目的として、社長等の役員に対して、第三者割当を実施するケースは珍しくありません。

しかし、上場直前期のような時期に第三者割当増資を行おうとすると、多額の資金を要するようなケースに発展することになることはよくあります。

多額な資金を要した自社株売買があった場合、IPO審査において「この株主は、どうやって株式購入資金を得たのか」と質問を受ける可能性が高くなります。

つまり、上場準備実務において、その質問に対して、説明準備をしておく必要があるということになります。

もし、架空増資と疑われるようなことがあれば、それでIPO審査はストップです。

そのような行為を1度でもしてしまうと、監査法人や主幹事証券会社から、即時”サヨウナラ”の宣告を受けます。

また、資金の出どころなどによっては、リスク情報への記載を求められます。

ここでは、多額資金を要した自社株売買におけるリスク事例を紹介させていただきます。

株式購入資金の流れで疑義が発生する例

株式購入資金の捻出方法に関して、上場を目指す会社でありがちな流れについて、ブログの中の人がこれまでに受けた事例を中心にお話させていただきます。

会社が第三者割当増資の割当対象者へ資金を融資する

ブログの中の人が証券会社勤務時代、担当していた会社から何度か次のような問い合わせがありました。

「役職員に第三者割当増資を考えていますが、株式購入資金を持っていません。そこで、会社が株式購入資金を貸し付けていいですか?」

という問い合わせです。

「はい。いいですよ」なんて決して言えません。

このような行為をしてしまうと、「架空増資」として疑義が発生してしまいますので、極めて不適切です。

この問い合わせをしてきた経営者は、悪気は無いと思いますが、もし株式投資資金を融資してしまうと、上場は難しくなると思います。

ブログの中の人は、この会社経営者は、全く悪気が無かったため、あまり問題視しませんでしたが、わざわざ迂回融資するような悪意のある架空増資は大問題となり、その場で主幹事契約はストップでした。

ちなみにブログの中の人が証券会社の公開引受部門で働いていた際、直属の課長が過去に担当していた建設関係企業が架空増資を行っており、その会社の社長が逮捕されました(ちなみにその会社は、世間を賑わした某偽装建築事件に関連した会社でした)。

会社が従業員持株会へ融資する

従業員持株会を、既存株主から自社株式の売却の打診を受けた際に、その受け皿として使おうと考える経営者が存在します。

しかし、従業員持株会の拠出金が不足している場合、会社から従業員持株会へ貸付することを考えることもあります。

従業員持株会へ融資すること自体、違法かどうかという議論が重要になるとともに、実務においても、従業員持株会が融資を受けた場合、従業員持株会の全会員に対して、融資額を配分して、拠出金と借入金をそれぞれ管理する必要性が出てきます。

さらに、このような事をしてしまうと、退会者が出た際、持株会は即時パンクしてしまう可能性が出てきます。

このような事を防ぐため、ダミーで会員を登録し、そのダミー会員へ会社が融資するということにして、そしてダミー会員に自社株式の持分が存在してしまうという策を講じる従業員持株会があります。このような運用は極めてヤバくなってしまうのではと思料します。

役員報酬を大幅に増額させる

ブログの中の人の担当会社の中に、役員の持株比率を上げることを目的とし、企業業績悪化を覚悟してまでも、役員報酬を増額させて、役員が自社株式を購入するという事例がありました。

また、報酬を増額させることで、銀行からの個人的な信用力を上げて、銀行から多額の融資を引っ張り込み、自社株式購入を行ったという事例もありました。

これらの行為自体は、決して違法とは言えないと考えますが、もし直前期に、役員の持株比率を上げることを目的として、役員報酬を増額させた場合、上場は1期延期になってしまうリスクがあります。

なぜなら、Ⅰの部には、役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の内容及び決定方法を記載しなければいけません。

役員の持株比率を上げるために役員報酬額を高めるような会社は、その項目に何も書けませんね。

また会社法でも役員報酬の決定方針を定めることになりました。↓で説明しています。

取締役等に関する規律の見直し【令和元年改正会社法②】

役員報酬を大幅に増額させてでも、役員が自社株式を購入しなければいけなくなった合理的理由をIPO審査で説明できる必要があります。

「安定株主の比率を上げるため」という理由は、合理的理由に全くならないと考えます。

株式購入資金の流れに関するリスク情報事例

今回、IPOAtoZで見つけたレアケースというのは、次のような事例です。

株式購入資金の流れに関する事例
  1. 社長が大株主Aから自社株式を購入しようとするものの株式購入資金が無い。
  2. 社長は、大株主Aから株式購入資金を借入する。
  3. 社長と大株主Aから自社株式の売買を行う。

この事例を端的に言えば、大株主から社長が「ツケ払い」で自社株式を購入したという事例です。

ちなみにこのツケ払いは、1度だけではなく、3度も行っています。

ブログの中の人は、「大改造!!劇的ビフォーアフター」の名物フレーズ「なんということでしょう!」が頭を過りました。

その株式購入資金は、IPO時点でも返済されていません。本当に優しい大株主です。

このような自社株売買は、決して違法とは言えないものの、IPO審査担当者は「社長が保有している株式は、本当に社長の株式であるって考えていいの?」と疑問に考えたはずです。

IPOAtoZが過去5年分のIPOを調べた限り、このようなケースはこの1社だけでした。

もし、私の担当会社でこのような事があったとすれば、間違いなく東証へ事前相談していたと思います。

IPOAtoZにお問い合わせください。

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