居酒屋が成長するためには、新店舗を積極的に開発することが最重要になるため、成長を目指す居酒屋は資金需要が常にあります。資金のためだけではなく、ブランド力を向上を目的として、IPOを目指す居酒屋の経営者は少なくありません。

しかし居酒屋は、参入障壁が低い一方、独立志向が強い従業員が多いという環境があるため、賃金が低く、退職率が高い業界です。

居酒屋の従業員は、賃金が低い割にハードワークです。深夜労働、テンションが高くてうるさい店内、酔っぱらいからの理不尽な苦情、ゲロ掃除・・・。

居酒屋の従業員は、このような労働環境から過労死をはじめとする事件が生じています。

居酒屋がIPOを目指す場合、重要視される内容の順番は、1に労務、2に労務、3、4が無くて、5に労務というくらい労務がダントツで重要になるといって過言ではありません。

NATTY SWANKYの目論見書

2019年3月28日にマザーズへ上場した株式会社NATTY SWANKY(以下では「NATTY」といいます)は、「ダンダダン酒場」という餃子を中心としたメニューを展開する居酒屋チェーンです。NATTYの目論見書の【従業員の状況】では以下のようになっています。

【従業員の状況】(出所:株式会社NATTY SWANKYの目論見書より引用)
従業員数(名) 118(188)
平均年齢(歳) 29.0
平均勤続年数(年) 1.7
平均年間給与(千円) 33,561
  • 従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数は、年間平均雇用人数(1日8時間換算)を( )内に外数で記載しております。
  • 平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。
  • 最近1年間において従業員(臨時雇用者を除く)が26名増加しております。主な理由は、新規出店等の事業拡大によるものであります。

さらに、NATTYは、直前期に特別損失として、盗難損失を1,373千円計上しています。

国税庁企画課が毎年実施している「民間給与実態統計調査」の平成30年の結果によると、平均給与は440万円であるからも、NATTYの給与水準は高くないと評価され、かつ新規出店による新規雇用者が多いということを差し引いても、平均勤続年数が1.7年ということは勤続年数が低いと評価せざるをえなくなります。

外食業の労務管理

労務管理をキチンとすることは、どの業界でも同じですが、外食業に対する労務管理のチェックポイントを紹介させていただきます。

外食業に必要な労務管理
  1. 労務管理を店舗まかせにしていないかどうか
    • タイムカードの打刻の適正性について、内部監査がチェックしているか。
    • 労務管理の適正について、店長だけではなく、パート等を含めた従業員に対しても教育啓蒙をしているか。
    • 直前期に全店舗で実査しているかなど。
  2. 店長が名ばかり管理職となっていないか
    • アルバイトやパートの採用や部下の人事考課、権限・裁量があるか。
    • 遅刻・早退等で不利益な取扱いがなされないか。
    • 賃金について、一般従業員よりも優遇されているかなど。
  3. 18歳未満の年少者を雇用している場合
    • お酒を注いだりする業務をしていないか。
    • 年齢証明書の備付など、年少者を雇用したときの労働基準法遵守をしているかなど。
  4. 外国人を雇用している場合
    • 在留資格などの届出をしているなど。

外食業に対する労務管理以外のポイント

外食産業に対するIPO審査でのポイントは、労務管理以外にも次のような点が確認が重視されます。

外食産業に対するIPO審査での重点確認ポイント
  1. 小口現金管理
    • 盗難が起きない仕組みをどうしているか
    • 特に深夜営業をしている店舗は、現金を複数の従業員が夜間金庫へ持って行っていくか
    • ワンオペの店舗の現金管理に対する牽制はどうしているか
  2. 出店・退店基準
    • 出店を決める判断を社長等の個人ノウハウに依存していないか
  3. 衛生管理
    • 肉と野菜では、別々の包丁まな板を使っているなどをして、食中毒などのリスクを低減させる仕組みはあるか
    • 食品在庫の保管日時がわかるような仕組みはあるかなど

IPOに向けた外食業の対応例

NATTYの目論見書などを拝見すると、以下のような面で労務管理の充実に向けた体制整備や対策をしているように伺えます。

NATTYの対策
  1. リスク・コンプライアンス委員会を設立し、取締役へ報告する体制を整備している。
  2. 社外監査役に社労士を招聘している。
  3. 社内イベントを設けている

IPO審査では、人材採用とともに、優秀な社員を繋ぎとめる施策についても問われることが定番です。