人材派遣業のIPO
人材派遣業を営むためには、労働者派遣事業の許可が無ければいけません。労働者派遣事業の許可を維持するためには、労働者派遣法等の遵守が必要になり、違反が見つかってしまうと、処分を受けます。
人材派遣業で飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していた株式会社グッドウィルは、二重派遣や港湾派遣など労働者派遣法違反のオンパレードで事業停止命令を受け、後に経営破綻しました。また人材派遣業大手のフルキャストもほぼ同時期に労働者派遣法違反により、営業停止処分を受けました。
これら大手の不祥事は、IPO市場にも影響を与え、労働者派遣業のIPOは一時期完全にストップした事態になりました。
今日においても行政処分を受ける人材派遣会社が後を絶ちません。
IPO直後に処分を受けるような会社が現れてしまうと、主幹事証券会社や東証の責任問題に発展してしまいます。
このような背景から、人材派遣業者に対する引受審査や上場審査では、法令遵守が最大審査ポイントになります。
ユナイトアンドグロウの目論見書
2019年12月18日に東証マザーズへ上場したユナイトアンドグロウ株式会社(以下では「ユナイト」といいます)は、法人の情報システム部門に人材を派遣する人材派遣業の会社です。
ユナイトの目論見書におけるリスク情報には、以下のような記載があります。
当社グループでは、インソーシング事業のサービス提供において、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(労働者派遣法)等の関係法規に照らし合わせ、労働者派遣事業とは区分される準委任契約での事業形態の遵守に努めております。しかしながら、予期しない当該法令の改正や新たな法令等の制定により当社の事業に何らかの制約を受ける場合、あるいは、インソーシング事業において法規上の適格要件を欠く等の問題が生じる場合には、当社グループの事業及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。
人材派遣にまつわる法律
人材派遣業の法令遵守状況の確認については、以下のようなチェックポイントがあります。
ユナイトの目論見書に「関係法規」という記載が存在します。人材派遣業者は、労働者派遣法に関係する関係法規の認識と遵守が求められます。次に「関係法規」の例を次にリストアップします。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 最低賃金法
- 労働契約法
- 職業安定法
- 労働施策総合推進法
- 職業能力開発推進法
- 高年齢者雇用安定法
- 障害者雇用促進法
- 若者雇用促進法
- 男女雇用機会均等法
- パートタイム・有期雇用労働法
- その他、社会保障や税金に関する法律
以下の業務については、労働者派遣法の適用範囲から除かれ派遣が禁止されています。グッドウィルやフルキャストは、この点の違反があったため、処分をうけました。
- 港湾業務
- 建設業務
- 警備業務
- 病院・診療所等における医療関連業務
- 弁護士・社会保険労務士等のいわゆる「士」業務
- 「期間制限」を守っているか。
- 派遣先企業には「期間制限」があります。派遣先企業の同一事業所が派遣社員を受け入れできる期間は、原則3年が限度です。
- 一人の派遣社員が派遣先企業の「同じ部署」で勤務できる期間は、3年が上限です。
- 期間制限のない派遣(60歳以上の派遣など)が存在します。
- 派遣期間が30日以内の派遣を行っていないか。
- 業務内容(ソフトウェア開発や研究開発など)や特定者(60歳以上の人、学生等)によっては、該当しません。
労働者派遣法は、頻繁に改正されています。IPOを目指す人材派遣業を営む会社は、その法律改正の内容を熟知し、対応状況の確認がされます。労働者派遣法は2020年に以下のような内容が改正されました。
- 派遣社員について不合理な待遇差が禁止
- 派遣会社には「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかの方法により派遣社員の待遇を確保することが義務化
人材派遣業者には、キャリア支援制度や雇用安定措置の整備が求められています。これらの整備状況と運用が有名無実化していないかどうかの確認がされます。
それぞれの事業所の法令遵守状況を確認、または啓蒙教育活動をする組織が必要になります。
ユナイトの目論見書には、「コンプライアンス・リスク委員会を設置し、当社グループの事業活動における各種リスクに対する予防・軽減体制の強化を図っております。」「役職員に対し、コンプライアンス及びリスク管理に関する教育・研修を継続的に実施いたします。」が記載されています。