事業計画及び成長可能性に関する事項
東証マザーズへ上場するためには、主幹事証券会社による「成長可能性に関する評価」を受ける必要があります。そこでは、「ビジネスモデルや取り扱っている製商品・サービスの特徴」また「競争力の源泉(経営資源・競争優位性)」について問われることになります。
事業の差別化が困難な産業の代表格である不動産業は、この点の説明が困難になります。
上場会社になることが差別化の材料として考え、IPOを目指す不動産業者が多く存在しますが、そもそも東証マザーズの場合は、上場会社になる前の段階で差別化できていない会社の上場は極めて困難になるというジレンマに陥ります。
ランディックスのIPO
2019年12月19日に東証マザーズへ上場した株式会社ランディックスは、東京都の港区や渋谷など城南地区を地盤として、不動産売買・仲介をしている会社です。
ランディックスが展開している事業には、不動産売買・仲介の方法に差別化要因があるとアピールしています。
不動産売買に関する情報を発信するだけではなく、土地のマッチングから始まり、デザイナーと建設会社のオンラインコンペや選定まで幅広くサポートする自社サイト「sumuzu」を保有していることが差別化要因のようです。
不動産のIPO
毎年のように不動産業がIPOを達成しており、2019年と2020年にIPOを達成した不動産業の会社は、以下のようになっています。
表 2019年と2020年にIPOを達成した不動産業(TOKYO PRO Market含む)
上場日 | 会社名 | 市場 |
---|---|---|
2020/10/2 | タスキ | 東証マザーズ |
2020/5/27 | ファーストステージ | TOKYO PRO Market |
2019/12/19 | SREホールディングス | 東証マザーズ |
2019/12/19 | ランディックス | 東証マザーズ |
2019/7/31 | Liv-up | TOKYO PRO Market |
2019/7/31 | ツクルバ | 東証マザーズ |
2019/6/19 | 日本グランデ | 札幌アンビシャス |
2019/6/4 | 大英産業 | 福岡 |
2019年~2020年に、東証マザーズへ上場した不動産業は4社(ジャスダックと本則はゼロ)であり、その他の市場に上場した不動産業は4社存在します。
東証マザーズへ上場した4社には、共通点があります。
表 東証マザーズへ上場した不動産業が保有するITシステム
ITシステム | ITシステムの概要 | |
---|---|---|
SREホールディングス | おうちダイレクト | セルフ売却及び不動産仲介業務支援サービスを提供するサイト |
ランディックス | sumuzu | 不動産売買関係の情報発信、土地のマッチング、デザイナーと建設会社のオンラインコンペや選定までをサポートするサイト |
ツクルバ | cowcamo | リノベーション住宅の仲介サイト |
タスキ | タスキDayPay | FinTechを利用した福利厚生サービス |
4社の共通点は、単なる不動産の仲介や不動産販売だけではなく、独自のITシステムを事業成長のウリとした事業展開をしていることです。
一方、その他の4社は、独自のITシステムをウリとした事業展開をしていません。
これだけを見ると、不動産業が東証マザーズへ上場するためには、独自のITシステムの有無が重要視されていると解釈できそうです。この流れは今後、東証の市場再編後のグロース市場が引き継ぐことになります。
東証マザーズだけではありません。
不動産業者がマザーズ以外へIPOを目指すには
不動産業者が、毎年のようにジャスダックスタンダード市場や本則市場にIPOを達成していましたが、2019年に1社もIPOを達成していないということは、理由が絶対にあるはずです。それは近年IPOを果たした不動産業者の株価動向を見れば、容易に予想できます。
この流れは今後、東証の市場再編後のスタンダード市場とプレミア市場が引き継ぐことになります。
スタンダード市場には、流通株式時価総額が10億円以上必要であるという形式要件が入ると言われています。
スタンダード市場の形式要件については、こちらで説明させていただいています。
時価総額ではなく、流通株式時価総額だけで10億円が必要になるということに注意が必要です。
流通株式についての説明は、こちらで行っています。