東証は、2018年から市場の再編成を検討開始し、2020年2月に「新市場区分の概要等についてを公表しました。ここで現在の5つの市場区分から3つに削減されることになったと発表がありました。

その3つの市場の内、東証2部市場とジャスダックスタンダード市場(以下では「JQスタンダード」といいます)と同様のポジションになるスタンダード市場(仮称)が出来るようです。

この市場は中長期的に安定性のある企業が上場を目指す市場として位置づけされます。

ここではスタンダード市場(仮称)への変更が、IPO準備にどのような影響が出るのかをまとめました。

スタンダード市場のコンセプト

スタンダード市場は、次のようなコンセプトでスタートする予定です。

特に重要なところは、赤字の箇所であると東証は、述べています。

スタンダード市場のコンセプト

公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業及びその企業に投資をする投資家のための市場

東証2部市場とジャスダックスタンダード市場には無いコンセプトとしては、「一定の時価総額(流動性)」というところです。

東証2部市場とジャスダックスタンダード市場には、時価総額や流動性が極めて低い会社が数多く存在しています。そのような会社を証券市場から退場させ、証券市場を活性化させることを目的としています。

スタンダード市場の新規上場基準

スタンダード市場の新規上場基準(形式要件)は、東証2部とJQスタンダードと以下のような点で異なります。

表 新規上場基準の違い

スタンダード市場 東証2部 JQスタンダード
株主数 400人以上 800人以上 200人以上
流通株式数(注1) 2,000単位以上 4,000単位以上 1,000 単位以上(注4)
流通株式時価総額 10億円以上 同左 同左
時価総額 20億円以上 50億円以上
流通株式比率 25%以上 30%以上 10%以上(注4)
利益 直前期の利益が1億円以上 最近2年間の利益の額の総額が5億円以上(注3) 直前期の利益の額が1億円以上であること
純資産 連結純資産が正 連結純資産の額が 10 億円以上
(かつ、単体純資産の額が負でないこと)
連結純資産の額が2億円以上
コーポレートガバナンス・コード 全原則の適用を求められる(注2) 努力義務 同左

注1:流通株式数の定義が変更になります(以下同じ)。

注2:コーポレートガバナンス・コードは、今後の改訂される模様

注3:「最近2年間の利益の額の総額が5億円以上」を満たない会社の場合は、「最近1年間における売上高が 100 億円以上である場合で、かつ、時価総額が 500 億円以上となる見込みのあること」

注4:新規上場申請日から上場日の前日までの期間に、1,000単位又は上場の時において見込まれる上場株券等の数の10%のいずれか多い株式数以上の新規上場申請に係る株券等の公募又は売出しを行うこと。

スタンダード市場の新規上場基準が東証2部・JQスタンダードと異なるポイントは、コーポレートガバナンス・コード遵守の重要性が高くなることの1点ではないかと思われます。

その他は、要件が緩和された、もしくは同程度~多少上がったというレベルではないかと考えられます。

スタンダード市場の上場維持基準

スタンダード市場の上場維持基準は、東証2部やJQスタンダードと以下のような点で異なります。

表 上場維持基準の違い

スタンダード市場 東証2部 JQスタンダード
株主数 400人以上 同左 150人以上
流通株式時価総額 10億円以上 5億円以上 2.5億円以上
流通株式比率 25%以上 5%以上
流通株式数 2,000単位以上 同左 500単位以上
時価総額 10億円 注1
コーポレートガバナンス・コード 全原則の適用を求められる 努力義務 努力義務

注1:株価が10円未満となった場合において、3か月以内に10円以上とならないとき

注2:マザーズやJQグロースには、猶予期間、また上場後10年間は表の数値より低く設定しているものが存在する。

最も変わるのが、流通株式時価総額と流通株式比率であると思われます。

流通株式とはこちらで説明しています。ぜひご覧ください。

流通株式【IPO用語】

スタンダード市場へのIPO準備の変化

上でも取り上げましたが、これまでとは大きく異なる点は、次の2点であることは明らかです。

コーポレートガバナンス・コードの全ての原則の適用を求められる

市場区分の変更に合わせてコーポレートガバナンスコードの改訂を行う予定となっていますが、このブログ作成段階でのコーポレートガバナンスコード(2018年6月版)を参考に、IPO準備においてどのような点が変わるのか、またはクローズアップされるのかを下に示します。

表 これまでの上場準備と変化が予想される箇所

影響を及ぼすことが予想されるコーポレートガバナンスコードの原則 予想される新たな対応例
原則1-4.政策保有株式 毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証する 政策保有株式の取扱いについて討議した取締役会議事録を準備する
原則1-5.いわゆる買収防衛策 買収防衛の効果をもたらすことを企図してとられる方策は、経営陣・取締役会の保身を目的とするものであってはならない。 買収防衛目的で発行した新株予約権や定款の内容等は破棄、削除
原則2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題 上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題について、適切な対応を行うべきである。 何らかの社会問題や環境問題の解決に向けた協力や対応を行っていることをアピールできるようにする
原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保 社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。 女性社員に対する人事や教育、福利厚生等への配慮を強化する
原則2-5.内部通報 内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。 内部通報体制を整備する。内部通報体制の責任者は、定期的に取締役会へ内部通報体制の状況について報告する
原則4-2.取締役会の役割・責務(2) 経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。 経営陣の報酬制度の設定方法について、第三者へ説明できるように準備する
原則4-3.取締役会の役割・責務(3) 取締役会は、経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反を適切に管理すべきである。 関連当事者取引の決議は、取締役会の決議事項にする
原則4-8.独立社外取締役の有効な活用 上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。 独立社外取締役を少なくとも2名以上選任する
原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件 監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。 監査役には、税理士または会計士を1名以上選任する。
原則4-12.取締役会における審議の活性化 取締役会は、社外取締役による問題提起を含め自由闊達で建設的な議論・意見交換を尊ぶ気風の醸成に努めるべきである。 取締役会議事録には、社外取締役の発言を残すことが重要になる
原則4-14.取締役・監査役のトレーニング 上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべきである。 取締役と監査役に対し、外部教育を予算化する。そして取締役会に成果等を報告する。

流通株式時価総額の厳格化

現段階での新規上場基準(形式要件)の流通株式時価総額は10億円であり、上場維持基準は、東証2部では5億円、ジャスダックでは2.5億円になります。つまり上場後の流通株式時価総額は、新規上場時より、基準が甘くなるという解釈になります。

しかし、スタンダード市場に市場区分に変更すれば、上場後の流通株式時価総額が10億円のままに基準が維持されるということになります。そうなれば、次のように考え方が変化することが予想されます。

表 流通株式時価総額に対する上場審査の考えの変化

新規上場基準 上場維持基準 上場審査の考え
現在 10億円 5億円or2.5億円 IPO時点で10億円を達成していれば、承認できる
今後 10億円 10億円 IPO時点で10億円を大幅に超えている、または事業に成長性が期待できる会社しか承認できない

主幹事証券会社は、上場後即、上場維持基準に抵触する可能性が高い会社を東証へ推薦出来ません。

つまり、新市場区分へ変更すると、事業性についての審査のハードルが高くなることは間違いないと思われます。

新規上場時の流通株式時価総額が10億円ギリギリの会社がジャスダックへ上場するケースは毎年のようにありますが、新市場区分へ変更すると、そのような会社に対する審査のハードルが極めて高くなることが予想されます。