2020年12月25日に東証は、実質的に市場再編を実施することを決定しました。

ブログの中の人は、2021年の投資先決定を考える上で、「東証の市場再編」というキーワードは、非常に大きいキーワードであると考えています。

ここではその点について説明させていただきます。

市場再編と株価の影響

市場再編の概要については、こちらでまとめていますので、ご参考ください。

東証の市場再編が”ほぼ”決定!

基本的には、現在、東証1部の上場会社はプライム市場へ、東証2部とジャスダックスタンダードの上場会社はスタンダード市場へ、マザーズの上場会社はグロース市場へ移行することになります。

しかし、市場再編により、上場維持基準が変わるため、プライム市場へ行けない東証1部上場会社が出現することになります。

またその反面、東証2部やマザーズ、ジャスダックの上場会社の中には市場改編をきっかけにグロース市場ではなく、プライム市場へ上場するという会社も現れることになります。 さらには、市場改編によって、上場廃止を余儀なくされる会社も現れることになります(注)。

表1に市場再編により、上場会社がどのように移行するかの類型と、各類型が株価に対し、どのような影響が出る可能性が高いのかをまとめました。

表1 市場再編による影響の類型

現在の市場 市場再編後 株価への影響
類型① 東証1部 プライム市場 影響なし
類型② 東証1部 スタンダード市場 悪影響
類型③ 東証2部 プライム市場 好材料
類型④ 東証2部 スタンダード市場 影響なし
類型⑤ 東証2部 どの市場にも行けない 大暴落
類型⑥ ジャスダックスタンダード プライム市場 好材料
類型⑦ ジャスダックスタンダード スタンダード市場 影響なし
類型⑧ ジャスダックスタンダード どの市場にも行けない 大暴落
類型⑨ マザーズ/ジャスダックグロース プライム市場 好材料
類型⑩ マザーズ/ジャスダックグロース スタンダード市場 影響なし
類型⑪ マザーズ/ジャスダックグロース グロース市場 影響なし
類型⑫ マザーズ/ジャスダックグロース どの市場にも行けない 大暴落

本則市場とプライム市場では、上場維持基準に関して、主に次のような点が異なります。

表2 上場維持基準の主な違い

プライム市場 スタンダード市場 東証第1部・第2部
株主数 800人以上 400人以上 400人以上
流通株式数 20,000単位以上 2,000単位以上 2,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
売買代金 1日平均売買代金0.2億円以上 月平均売買高10単位以上 最近1年間の月平均売買高が10単位以上 又は3か月の間に売買成立
流通株式比率 35%以上 25%以上 5%以上

流通株式時価総額が100億円に満たないような会社、一日の平均売買代金が2千万円に満たないような東証1部上場会社の株価は、市場再編によって、下落するリスクが高まることになります。

さらに流通株式時価総額が10億円前後の東証2部の上場会社は、上場廃止による大暴落リスクが高まります。

逆に流通株式時価総額が100億円を超え、かつ一日の平均売買代金が2千万円を超える東証2部、ジャスダック、マザーズ上場企業の株価は上昇する可能性が出てきます。

そこで市場再編で影響を受けそうな会社を2020年末時点の株価でスクリーニングしてみました。

表3 市場再編で影響を受けそうな会社例

該当社数 該当した会社
時価総額10億円~100億円、一日平均売買代金が2千万円以下の東証1部上場会社 177社 シー・ヴィ・エス・ベイエリア(2687)、一蔵(6186)、井筒屋(8260)、東天紅(8181)他
時価総額が10億円に満たない東証2部またはジャスダック上場会社 15社 太洋物産(9941)、ヤマト・インダストリー(7886)、フジタコーポレーション(3370)、さいか屋(8254)他
時価総額が100億円を大幅に超え、一日売買代金が2千万円超の東証2部、ジャスダック、マザーズ上場会社例 東芝(6502)、ハーモニック・ドライブ・システム(6324)、ワークマン(7564)、メルカリ(4385)、日本マクドナルド(2702)他

流通株式時価総額が100億円に満たない会社は、表3でとりあげた177社を大幅に上回ります。

東証1部の会社数は、このブログ作成時点では2,186社あります。新聞によれば、その中でなんと約3割にあたる600社前後がプライム市場に移行できない可能性があるらしいです。 つまり表1の類型②だけでも600社前後存在するということになります。

多くの上場会社は、流通株式時価総額を高め、株式の売買を活発にさせるための活動を至急取り組む必要が出てきています。

なお、流通株式と時価総額の定義については、それぞれこちらで説明しています。

流通株式【IPO用語】

時価総額【IPO用語】

(注)経過措置が存在するため、市場再編により、いきなり上場廃止されるものではありません。

流通株式時価総額を高めようとする事例

流通株式時価総額が低く、上場維持基準に抵触してしまい、東証2部の会社は上場廃止、東証1部の会社は東証2部へ指定替えされるピンチに陥っている会社は毎年のように存在します。

2020年7月10日に東証は、東証第1部の2社(株式会社ホウスイ(1352)、株式会社一蔵(6186))と東証第2部の5社(株式会社セキド(9878)、株式会社省電舎ホールディングス(1711)、倉庫精練株式会社(3578)、オリエンタルチエン工業株式会社(6380)、松尾電機株式会社(6969))に対して、上場廃止もしくは指定替えの猶予期間入りしたと発表しています。

それを受け、各会社は、収益向上に向けた取り組みを実施することで上場維持を目指すとプレスリリースしています。 このような会社は、流通時価総額が5億円や10億円レベルが”アップアップの状態”です。

例えば、ブログの中の人が調べたところ、株式会社ホウスイは、時価総額が82億円、平均売買高がたった160万円でした。

市場再編が行われると、上で挙げたような会社は「収益向上に向けて、がんばります!」という宣言だけでは、上場維持は難しくなると予想されます。

上場維持基準を維持するためには

表1の上場維持基準を抵触しそうな会社は、主に表2のような活動を検討することになります。

表2 上場維持基準を抵触しそうな会社の一般的な対応策例

対応策 懸念事項
  株主数が少ない会社 ①株式分割を行う 株価が低い会社は、実行しずらい
②従業員持株会や取引先持株会から、会員の証券口座へ引出しを行う 需給が崩れ、株価の低下を招く懸念がある
③株主優待制度を採用し、個人株主を増やす コストがかかる
流通株式数・流通株式時価総額 が低い会社 ④関係会社、役員親族、財産保全会社が保有する株式を売却する 需給が崩れ、株価の低下を招く懸念がある
⑤持ち合い株式等、”流通の乏しい株式”の株式を削減する 需給が崩れ、株価の低下を招く懸念がある
⑥増配を行う コストがかかる
売買代金が低い会社 上に挙げた①~⑤を対応する 需給が崩れ、株価の低下を招く懸念がある
⑦従業員持株会の活性化策を実施する コストがかかる

上に掲げた対応策の中で効果があるのは、「③株主優待制度の導入」「⑥増配」「⑦従業員持株会の活性化」の3つしかないのではと考えます。 その他の対応策は、効果が無い、もしくは逆効果になるリスクが存在します。

兎に角、上場維持基準を抵触しそうな会社は、”やれる事は全てやる”という総動員態勢で上場維持をすることになります。

通常、増配や減配は、利益に大きく左右されますが、しばらくの間、利益の大きなに関係なく、増配する会社が続出する可能性があると思います。

従業員持株会の活性化は、Must

ブログの中の人は、ある眼鏡メーカーの会社を担当していました。その会社は、当時株価が100円を割っており、上場維持基準の抵触がギリギリの状況でした(ちなみに、この眼鏡メーカーの株価は、現在5000円を超えています)。 その会社の上場維持を助けていたのが、実は従業員持株会でした。従業員持株会による自社株式の買付が時価総額や売買高を支えていました。 従業員持株会による株式の買付は、毎月安定的に行われるため、一定規模の需要が高まります。 2021年、従業員持株会の活性化を真剣に考える会社は、激増するのではと予想します。 従業員持株会の活性化策については、こちらで説明しています。

従業員持株会の活性化策

流通株式時価総額が文句ない水準であり、売買代金だけがヤバい会社の場合は、従業員持株会の活性化策だけで解決できるかもしれません。

市場再編が与える2021年証券市場への影響

覚悟をしていたとは言え、市場再編の影響を大きく受けてしまう会社が数百社あります。 このような会社が2021年に行う行動から、株式市況がどうなるかという予想をザックリしてみました。

上場会社のM&Aが激増する

上で取り上げたような方策を全て対応したとしても、市場再編後の上場維持基準の達成は、ほど遠いという会社が多々あります。 そのような会社は、甘んじて上場廃止を受け入れるか、または合併や買収によって規模を拡大して上場維持に向けた取り組みを選択することになるはずです。 特に上場会社であるということが、ブランド力や差別化に繋がりやすい業種は、合併や買収を選択する可能性が高いと予想します。 飯田グループホールディングスは、一建設株式会社、株式会社飯田産業、株式会社東栄住宅、タクトホーム株式会社、株式会社アーネストワン、アイディホーム株式会社という6社の上場会社が経営統合をして設立されました。 市場再編は、明らかに第2、第3の飯田グループホールディングスを促すきっかけになります。

配当、または株主優待制度の導入が爆増する

上場維持基準を維持するため、株主還元を手厚くする会社が激増すると予想されます。 株主還元策には自社株買いという手段がありますが、自社株買いというのは流通株式時価総額の低下を招くことが懸念されるので採用出来にくい手段です。 そこで配当を増やすことや、株主優待制度の導入によって、株価を上げようとする経営者が激増するものと思われます。

従業員持株会の買付を狙ったデイトレーダーが多くなる

従業員持株会の買付は、毎月、給料日または給料日の翌日に、寄り付きでの成行注文が最も多くなっています。 売買代金が小さな会社の中には、持株会の買付によって、株価が一時的に、前営業日の終値より高くなりやすくなる傾向のある会社が存在します。 持株会の活性化を行った会社は、買付代金が増えるため、さらにその傾向が高くなることが期待できます。 実は、デイトレーダーの中には、そのような傾向を利用して、株式を売買している人が少なからず存在しています。 20日が持株会の買付日であろうという会社の株式を19日に買付をして、20日の寄り付きの成行で機械的に売却するというスタイルです。

日本一地味な2021年注目銘柄

ブログの中の人は、市場再編でプライム市場入りが達成できない可能性がある東証1部上場会社の内、こういう会社が市場再編をきっかけにして「こういう会社が市場再編をきっかけにして、M&Aまたは大幅増配を期待できるんじゃないの?」または「こういった会社には、きっと証券会社の投資銀行部門の営業が提案しているんだろうなあ」という会社をピックアップして考えてみました。

  1. 流通株式時価総額が100億円未満
  2. 1日平均売買代金2千万円未満
  3. バランスシート、キャッシュフローに問題無い
  4. 継続して黒字計上
  5. 筆頭株主または大株主の力が強い(オーナー色が強い等)

という会社を中心に取り上げます。 なお、もちろん個人的な見解であり、情報の保証等は一切いたしません。

(注:ブログの中の人は、次で取り上げる株式を一切保有していません)

日本ギア工業(6356)

バルブや歯車等を製造販売する東証1部の老舗メーカーです。堅実的な経営でB/S、C/Fに問題なく、継続的に安定的な黒字を計上しています。

ただし流通時価総額や売買代金面の両面でプライム市場入りは、困難な水準にあります。

しかし配当性向が18%であることや、B/Sの状況等からも、大幅な増配余地があります。

さらにオーナー色が強い会社であるため、プライム市場入りをオーナーが目指すとなると、一気に方向が流れやすい土壌があります。

植木組(1867)

新潟県地盤の中堅建設である植木組は、流通株式時価総額でも、一日平均売買金額でもプライム市場の上場維持基準を下回っています。

市場再編でスタンダード市場へ向かうか、または抜本的な改革をして、プライム市場を目指すかどうかの選択に迫られる会社になるはずです。

植木組の他にも、地方地盤とする建設・不動産の上場会社の内、数社(例えば、佐田建設(1826)、ソネック(1768)など)がプライム市場入りが困難な状況にあります。地方地盤の会社が同業で合併するというのは、カニバリズムが起きにくく、仕入面や財務面での交渉力が向上することを期待できるため、これまでも事例があります。

植木組は、プライム市場入りを目指し、同業他社と合併等を行う可能性があると考えています。

高知銀行(8416)

高知県に本社を持つ地方銀行です。市場再編でスタンダード市場へ向かうか、または抜本的な改革をして、プライム市場を目指すかどうかの選択に迫られる会社になります。

東証には2020年末時点で、82社の銀行が上場していますが、全て1部上場会社です。

すなわちプライム市場入り出来なかった銀行は、メンツが立たない状態に陥ります。

銀行は「信用力が最重要な業種」なので、プライム市場入りに全集中するはずです。

タナベ経営(9644)

経営コンサル大手です。流通株式時価総額でも、一日平均売買金額でもプライム市場入りにピンチな状態にあります。

その上、大株主の田辺会長は、2021年6月の定時株主総会で退任することになります。田辺会長は70歳になることも含め、田辺会長以外の創業家一族から株式売却の意向が出ることが予想され、株式の需給バランスの悪化が悩みの種になりそうです。

このような会社は、証券会社の投資銀行部門から、積極的な営業攻勢を受けているはずです。

大和証券グループ本社(8601)

市場再編は、M&Aアドバイザリーを行っている企業にとって、特需を起こす可能性があると考えています。

大和証券や野村證券等、上場会社のM&Aアドバイザリーとして実績が豊富な会社にとっては、追い風が吹いていると予想します。