IPOにおける公開価格の設定プロセスの見直しが行われ、10月から施行されました(日本証券業協会がまとめたサイトは、こちらになります)。

日本証券業協会「公開価格の設定プロセスのあり方等に関する」報告書案が公開

そこでIPO時に発行する有価証券届出書がどのように変化するのかを考えてみました。

この記事も他の記事と同様、個人的見解が多く、内容を保証するものではございません。

なお、本改正には、上場承認後の有価証券報告書(半期報告書)についても言及されていますが、本ブログはIPO準備のブログという事もあり、その説明は省略しております。

変更点

10月より、以下のような箇所の記載が変更できる事になりました。

表1 主な変更箇所

変更箇所 変更内容 関連条文※
上場日程関連 申込期間 一定の幅の期間での記載

(1週間程度の範囲)

5-8-2-3①
払込期日 5-8-2-3②
株式受渡期日 5-8-2-3③
発行価格決定予定時期 5-8-2-3④
売出価格決定予定時期 5-8-2-3④
引受人の氏名又は名称決定予定日 5-8-2-3④
引受人の住所決定予定日 5-8-2-3④
引受人の引受株数決定予定日 5-8-2-3④
引受条件の決定予定日 5-8-2-3④
訂正届出書の提出日 上場承認日に提出 7-2-2
募集株式に関する事項 発行価格 「未定」で記載 「府令」9条9
資本組入額
発行に係る申込証拠金
申込取扱場所
引受人の氏名又は名称
引受人の住所
引受株式数
引受の条件
売出価格
売出に係る申込証拠金
売出しの委託契約の内容
発行数
売出数
売出価額の総額
発行価額の総額の算定根拠 不記載 5-8-2-2①
資本組入額の算定根拠 5-8-2-2①
払込金額の総額の算定根拠 5-8-2-2②
売出価額の総額の算定根拠 5-8-2-2③
手取金の総額の算定根拠 5-8-3
訂正届出書に関する事項 届出書に記載しなかった財務諸表(申請期の財務諸表) 訂正届出書に添付 7-2-2
監査報告書に関する事項 7-2-2
グローバルオファリングするIPO 臨時報告書を提出※※ 24の5-8-2
表紙 「募集または売出しの相手方」記載 記載上の注意
募集数・売出数の記載箇所欄外 記載上の注意

※  企業内容等開示ガイドラインの条文です。「府令」と記載している条文は、企業内容等の開示に関する内閣府令の条文になります。「記載上の注意」は第2号四様式の記載上の注意になります。

※※ 各種条件があります。詳細は、専門書や条文をご覧ください。

繰り返しになりますが、本改正には、上場承認後の有価証券報告書(半期報告書)についても言及されています。本ブログはIPO準備のブログという事もあり、その説明は省略しております。

さらに日本証券業協会では、以下のように定めています。

表2 『有価証券の引受け等に関する規則』に関する細則」第15条第1項に規定する「本協会が別に定める一定の範囲」についての概要

改正内容
公開価格 仮条件の下限の 80%以上かつ上限の 120%以下の範囲内で決定出来る
仮条件の決定時における売出数量 仮条件の決定時における売出数量の 80%以上かつ 120%以下の範囲内で決定出来る
公開価格の決定時における、発行数量及び売出数量の合計数量に公開価格を乗じた額 仮条件の決定時における、発行数量及び売出数量の合計数量に仮条件の下限を乗じた額の 80%以上かつ発行数量及び売出数量の合計数量に仮条件の上限を乗じた額の 120%以下の範囲内で決定出来る

この他、親引けを行うIPOの場合、従前方式であれば、届出書提出前に親引け先を選定する事が一般的な実務になりますが、承認前届出書方式であれば、届出書提出後に親引け先を選定する事が可能になる事から、親引けに関する記載内容について大きく変わる事が想定されます。

承認前届出書方式でIPOする場合の主な留意点

承認前届出書方式でIPOする場合、いくつか議論を要する点が存在すると言われています。主に以下のような留意が必要になると考えます。

承認前届出書の信頼性が、従前方式よりも低くなる

従前方式では、有価証券届出書は、証券会社・証券取引所・財務局の3者から承認を受けた後、開示されることになります。

しかし一方、承認前届出書の内容は、もちろん証券取引所からの承認を受けていません。

さらに承認前届出書は、従前方式の有価証券届出書に比べ、訂正箇所が激増するような事もあるため、承認前届出書の内容に対する信頼性は、従前方式の届出書に比べ、かなり低くなると想定されます。

承認前届出書の提出時期は、特に制限が無い事から、上場予定時期と承認前届出書提出時期が数か月離れているような場合、猶更、信頼性が低くなると予想されます。

したがいまして、承認前届出書をベースにして、プレヒアリング(実際には「プレヒアリング」とは呼ばないようです)を受ける機関投資家等は、従前方式に比べ、投資可否判断等をしづらいケースが増加する可能性があると想定されます。

なお、従前方式であったとしても、開示ガイドライン2-12③において、有価証券届出書の提出予定日の1カ月以上前であれば、IPOの概要について投資家と話したとしても、金商法上の取得勧誘又は売付け勧誘等に該当しないと定められています。

主幹事証券会社の責任割合が高くなるリスク

従前からのIPOは「証券取引所」「監査法人」「主幹事証券会社」の3者による承認等を得た会社のみが主幹事証券会社と一緒になって、機関投資家等に「うちの会社の株どうですかぁ?」と営業(正しい表現ではありません)に走りまわるという事になります。

しかし承認前届出書方式の場合は、証券取引所と監査法人からの承認等を得られていない段階、つまり主幹事証券会社しか承認を出していない会社が株の営業をするという事になります。つまり主幹事証券会社の責任割合が100%になってしまいます。

このリスクに対し、主幹事証券会社がどのように考えるのか不明です。

引受価額が会社法上の払込金額を下回る可能性が発生する

今日のIPOは、引受価額が会社法上の払込金額を下回る場合はIPOを中止するという前提で行われています。引受価額は、↓で説明しています。

引受価額・スプレッド【IPO用語】

今日のIPOにおける会社法上の払込金額とは、発行価額と同じ額であり、仮条件の下限の85%の株価で設定されています。発行価額は↓で説明しています。

発行価額【IPO用語】

「表2『有価証券の引受け等に関する規則』に関する細則」第15条第1項に規定する「本協会が別に定める一定の範囲」についての概要」で説明している通り、公開価格は、仮条件の下限の 80%以上かつ上限の 120%以下の範囲内で決定出来るため、現行での仮条件の下限の85%で設定される会社法上の払込金額によりも、引受価額が下回ってしまうケースが発生してしまうという解釈になります。

これは会社法上の有利発行規制に影響が発生してしまいます。

予め、引受価額が会社法上の払込金額を下回らないような制度設計を考える、または万が一下回った場合に対応策を事前に考えることが必要になると思料します。

ブログの中の人の予想は、承認前届出書方式も従前方式と同じく、仮条件の下限の15%下回る株価で会社法上の払込金額を設定し、もしその価格を引受価額が下回るような事になってしまえば、IPOは中止する方向に進むのではと考えます。

そんな価格になってしまうという事は、ブックビルディングで相当人気が無かったという事であるため、主幹事証券会社等は、一旦引き下がるべきとアドバイスすると思われます。

※ 従前方式でも可能です。

まとめ

上場承認前に有価証券届出書が発行出来るように制度変更がされ、主にどのような点が変更されるのか、またはどのような点に留意が必要なのかをまとめました。

もし会社法上の払込金額、つまり発行価額を仮条件の下限の85%未満で設定することを選択する場合、主幹事証券会社の見解だけではなく、発行体は、自社で顧問弁護士に相談した上で決定すべきと考えます。

この制度変更により、発行体にとって満足度が上がることを願っております。