上場を目指す会社は、インセンティブプランとして、ストックオプションや持株会、特定金外信託などを採用している会社が存在します。

ここでは、最近、インセンティブプランとして、上場会社の中で稀に出ている「譲渡予約権」について、紹介させていただきます。

「譲渡予約権」は、「新株予約権」と呼び方が似ていますが異なります。

このインセンティブプランは、上場会社だけではなく、非上場会社でも利用可能なスキームであると考えられますので、紹介させていただきます。

譲渡予約権とストックオプションの違い

株式会社ユーザベースは、「当社役員保有株式を用いたインセンティブ付与に関するお知らせ」をプレスリリースしています。そのプレスリリースは、こちらになります。

これは、新株予約権を付与するストックオプションとは、明らかに異なります。

その違いをザックリ言いますと、次のようになります。

表 譲渡予約権とストックオプションの違い

譲渡予約権 ストックオプション
株の”出し手” 株主 会社
契約 株主と役職員間 会社と役職員間
割当する株式 既存株主の保有株 新株または自己株式
付与時のオプション料の金銭払込 要※① 任意
発行プロセス 契約に基づく※② 会社法に基づく

※① 法的には、オプション料を無償とすることが可能と思われますが、付与時にオプション料を支払することにより、みなし贈与課税を含め、贈与税の支払を免れることが出来るようになると思料。

※② 株式譲渡制限会社の株式を権利行使をする場合は、決議が必要になると思料。

簡単ですね。

ストックオプションの場合は、役職員が会社へ権利行使の意思を示して、会社から株式をゲットします。

一方、ユーザベースの事例では、役職員が大株主の梅田優祐氏へ権利行使の意思を示して、梅田優祐氏から株式をゲットすることになります。

ここで、もうひとつのポイントがあります。

それは、付与時にオプション料を設定し、その額を役職員が大株主に支払っているという点です。

これは、いわゆる”有償ストックオプション”に似ています。

有償ストックオプションは、役職員がオプション料や権利行使価額を会社に対して支払いますが、ユーザベースの事例では、株式の”出し手”、つまり梅田優祐氏へオプション料や権利行使価額を支払うことになります。

譲渡予約権のメリット

譲渡予約権は、既存株主の株式を利用したインセンティブプランであるため、株式の希薄化を防止できるため、ストックオプションに比べて、株価下落のリスクを低減できると考えられます。

即ち、株主からのウケが良いという事になります。

また、大株主個人からのプレゼント的な要素が入っているため、ストックオプションとは、心理的な違いが色濃く出てくることが期待できるのではないでしょうか。

さらに、前述した通り、付与時にオプション料を支払することにより、みなし贈与課税を含め、贈与税の支払を免れることが出来ると想定されており、譲渡予約権を受けた人は、付与時また権利行使時に課税を必要としないと言われているため、税制適格ストックオプションのように税制適格要件を意識する必要はありませんし、税制非適格ストックオプションに比べると税制上でメリットがありそうです。

取得価額は、行使価額とオプション料相当額になり、株式の売却時のみ、売却価額との差額が、分離所得課税になるようです(その理由等につきましては、顧問税理士さんへご相談下さい)。

また、この譲渡予約権は、ストックオプションよりも、事業継承という目的で採用出来やすいのではないでしょうか?

  • 新株予約権とは異なり、潜在株を増加させないため、株主からのウケが良い。
  • 税制上、シンプル。
  • ストックオプションよりも事業継承目的で採用出来る。

譲渡予約権発行時のデメリットまたは留意点

ストックオプションや持株会、特定金外信託などは、あくまでも会社の決議の上で実行されるインセンティブプランになります。

したがいまして、これらのインセンティブプランの導入に関する費用を会社が負担することは、合理性があります。

しかし一方、譲渡予約権は、大株主と役職員間で行われる株式譲渡プロセスの一つであるため、会社が主導して行うスキームではありません。

そこで、ストックオプション等とは違い、導入費用を会社が負担することに対し、議論が発生します。

特に譲渡予約権の場合は、オプション料を設定することになり、その設定には、原則、税理士等の外部専門家に算定を依頼することになります。その算定料を誰が負担するかが議論になります。

算定料等を会社が負担することになれば、利益相反取引の決議や関連当事者取引の開示等が求められる可能性が出てきます。

また、割当する属性や人数によっては、金商法における規制に留意が必要になると思料します。

譲渡予約権の税務(2022/3/23更新)

ブログの中の人は、譲渡予約権の税務に関して、以下のように解釈しています。

ただし内容を保証しておりません。専門家にご相談ください。

付与者の税務

譲渡予約権付与時

譲渡予約権付与時、役職員からオプション料を受領する事になります。このオプション料は、譲渡予約権付与時(つまりオプション料受領時点)で付与者が所得として認識すべきかどうかが税務上の論点になると考えます。

譲渡予約権付与時に付与者は、オプション料を受領し、権利行使時に株式を付与する義務を負ったに過ぎず、その義務を履行するまで所得が確定していません。国税庁資料(「株式譲渡益課税のあらましQ&A」)においては、「オプション取引による義務の履行により譲渡した上場株式等の収入金額」は、「当該オプションの義務の履行により受領した金額」に「受取オプション料」を加算した金額となっています。「当該オプションの義務の履行により受領した金額」とは譲渡予約権の権利行使時にならないと確定しません。

したがいまして、譲渡予約権付与時には、課税義務が発生しないと考えられているようです。

譲渡予約権の権利行使時

付与者は、譲渡予約権者から行使価額を受領し、株式を譲渡予約権者に譲渡します。

その際の譲渡対価の額が論点になります。

行使価額とオプション料の合計額が株式の譲渡対価になり、譲渡所得課税の課税対象になると考えられます。

株式の売却時

付与者は、譲渡予約権者が株式を売却した事実とは、直接無関係なため、課税義務等を考慮することは一切ありません。

譲渡予約権者の税務

譲渡予約権付与時

譲渡予約権者は、付与者に対し、オプション料を支払います。

オプション料の算定根拠が適正であれば、課税関係は生じないと思われます。

譲渡予約権の権利行使時

譲渡予約権者は、付与者へ行使価額を支払、株式を取得することになります。

株式の取得価額が行使価額とオプション料の合計額とされ、所得課税義務が無いと考えます。

さらに適正なオプション料を支払っている場合、みなし贈与課税の適用が無いと考えます。

株式の売却時

譲渡損益が譲渡所得として、分離課税を課される対象になると考えます。

譲渡損益は、↓のように計算されます。

譲渡損益 = 譲渡価額 ― 行使価額 ― オプション料

まとめ

譲渡予約権というインセンティブプランをご紹介させていただきました。

このインセンティブプランは、上場前から、採用候補になるのではないでしょうか?

特にオーナー株主の持株比率が高い一方、ストックオプションを発行しにくくなった会社の採用が考えられます。

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