会社または子会社の従業員が、自社株式を購入することによって、資産形成を行う目的とする福利厚生制度のひとつです。

従業員持株会は、IPOを準備する段階において、多くの会社で組織化されており、東証の調べによりますと、2019年3月末現在における上場会社3,658社のうち、3,206社が大手5社の証券会社による事務の元で、従業員持株会を運営しています。(東証 調査レポート より)

会社は、福利厚生制度のひとつとして取り扱う事になり、従業員の経営参加意識の向上を目的とします。従業員(持株会の場合は、「会員」)にとっての主なメリットは以下にようになります。

従業員持株会会員のメリット
  • 福利厚生として、奨励金が付与される
  • IPO達成前に株式を保有している場合、IPO達成時にキャピタルゲインを期待できる

法令上の位置づけは「民法上の組合」に位置づけされ、大まかな運営スタイルは「マンションの管理組合」に類似しています。

従業員持株会の運営は、日本証券業協会が公表している「持株制度に関するガイドライン」に則る運営が必要になります。

【従業員持株会の運営(未上場会社の場合)】

従業員持株会の通常の運営については、図1と表1にて説明します。

持株会の通常の運用

図1 従業員持株会の通常の運用プロセスイメージ

表1 従業員持株会の通常の運用プロセス(図1の説明)

会社が会員に対し、奨励金を付与する
奨励金を合算し、給与や賞与から天引きにより、拠出する。
会員からの拠出金を所定の銀行に預け、会員の誰がどれだけ拠出したのかを管理する(IPO達成後は、銀行に預けるのではなく、自社株式を購入する。)

【図1の説明】

※奨励金

  • 奨励金の額は、実質的に会社が決定し、福利厚生費として損金計上。
  • 子会社従業員への奨励金は、子会社で負担し、親会社が負担しない。
  • 奨励金は、給与所得になる。
  • 奨励金は、3%または5%が多く、上場会社の従業員持株会の奨励金は東証が調査開示している。

※※従業員

  • あくまでも入会希望者だけであり、入会を強制してはいけない。
  • 持株比率50%超の子会社の従業員であれば、入会可能。
  • 執行役員の入会可否は、会社によって異なる。

※※※拠出金

  • 拠出は、毎月同じ日に実施する。
  • 配当がある場合は、プール(または再投資)することになる。決して各会員へ配当を支払ってはいけない。

※※※※持株会理事会・事務局

  • 持株会の理事会は、マンションの理事会と同様、理事長・理事・幹事で組成される。

【従業員持株会が株式を購入する時の流れ】

従業員持株会は、自社株式を購入する組合です。しかし、未上場会社の株式を購入できるチャンスは多くありません。従業員持株会が株式を購入するには、既存株主が株式を売却したいという意向が出たり、会社が新株式発行・自己株式処分をする際にチャンスが出ます。従業員持株会が株式を購入するプロセスを図2と表2で説明させていただきます。株式購入の流れ

図2 従業員持株会が株式を購入するプロセスイメージ

表2 従業員持株会が株式を購入するプロセス(図2の説明)

持株会理事会で株式を購入する決議を行う(IPO達成後は、必要なし)。
株主総会または取締役会にて、株式の譲渡や新株発行等により従業員持株会が株式を購入する事を許諾する決議を行う(IPO達成後は、必要なし)。
既存株主(または会社)が株式を持株会へ売る(IPO達成後は、取引市場から購入する)。
株式の購入資金を銀行から引き出す(IPO達成後は、必要なし)。
銀行から引き出した株式購入資金を、既存株主(または会社)へ支払い、株式が持株会のものになる(株式の名義は理事長になる)。
購入した株式は、各会員の拠出金残高に応じて、比例配分される。

【図2の説明】

※株式購入決議

  • 理事会で株価、株数を決議。
  • 株式の購入は原則、拠出金の残高の範囲のみにし、残高が不足している場合は臨時拠出の募集を会員から募る。
  • 臨時拠出に対しては、奨励金を付与出来ない。

※※配分

  • 拠出金の残高に応じて比例配分される。したがって各会員の持株残高は少数点未満の持株が存在する。
  • 比例配分されるという事は、拠出金残高が高い会員は多く株式の配分を受ける一方、拠出金が多く減額される事になる。
  • 配当支給があれば、持分株式の数に応じて、比例配分される。

【従業員持株会から退会者が出たときの流れ】

従業員持株会の会員は、あくまでも従業員だけになります。したがいまして退職すれば、自動的に退会する事になります。退会者が出た際のプロセスを図3と表3で説明させていただきます。

退会処理の流れ

図3 退会者が出た時のプロセスイメージ

表3 従業員持株会が株式を購入するプロセス(図3の説明)

退会者が持っている株式を持株会へ売却する(IPO達成後は、単元未満株式を除き、退会者個人の証券口座へ振り替えする)。
株式の購入資金を銀行から引き出す(IPO達成後は、必要なし)。
精算金を支払い、退会手続きは終了する(IPO達成後は、単元未満株相当額のみ)。
会員の拠出金残高に応じて、比例配分される。

【図3の説明】

※清算金

  • 清算金は原則、【拠出金累計額】+【奨励金累計額】+【配当金累計額】とする。
  • 株式の売買は、原則、あらかじめ持株会が決めた株価で行う事にし、退会時の時価を使った計算で行わない。

    【従業員持株会を設立する時の留意事項】

    IPO後に従業員持株会を設立すると、インサイダー情報を保持した状態で入会できなくなるという法的な制約が存在します。またIPO前に設立する方が、会員にとってもメリットが多く存在するため、IPO前に設立することをおススメします。

    従業員持株会を設立するには、一定期間以上の募集期間や社内人事システム対応などで最低2カ月以上の準備期間が必要になります。

    ほとんどの会社は自社独自での設立を目指さず、主幹事証券会社に依頼して、設立することになります。

    IPOに向けた準備に関する主な留意事項は以下のとおりです。

    • 従業員持株会の運営ルールは、規約と運営細則で定める事になり、証券会社からドラフトを入手して準備にとりかかる事が基本である。
    • 従業員持株会と会社間の契約は、引受審査または上場審査に提出を求められる可能性がある。
    • 従業員持株会の拠出金は、給与や賞与から天引きされるため、労働基準法により労使間で協定等を締結する必要がある。そして当該協定書等は、引受審査または上場審査に提出を求められる可能性がある。