50名以上の者を相手方として、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を行う場合をいいます。

会社が募集でよく使う言葉のひとつは「人材募集」です。

インターネットなどを使って、社員を一般に募り集めようとすることです。

一方、これとは違って、役員候補やハイテクエンジニア等を一本釣りでスカウトすることは一般に人材募集とは言わず、人材の勧誘とよぶのが一般的です。

しかし何百人何千人もスカウトをするようになれば、「これって人材募集だよね」となると思います。

人材募集の場合は、何人を勧誘すれば人材募集になるのかという法律はありません。

有価証券の場合、社長の知り合いの1人や2人程度に「うちの株を買いませんか?」と勧誘するのは募集とは言いませんが、何百何千の人に「うちの株を買いませんか?」と勧誘するのは、募集となります。

有価証券の勧誘は、人材募集とは違って、どこからが募集になるか、どこまでが募集にならないかという線引きが金融証券取引法でキッチリ定められています。

募集とは

「有価証券の募集」とは金融商品取引法第二条3項に定義されています。

非開示会社(有価証券報告書を提出していない会社)が有価証券の募集を行う場合、その規模によっては、財務局へ以下のような書類を提出しなければいけません。

非開示会社の有価証券通知書・届出書提出の要否について

区分 発行(売出)価額の総額
1千万円以下 1千万円超~1億円未満 1億円以上
*募集
*売出し
不要 有価証券通知書
[府令第4条通知書]
[特定府令第5条通知書]
(法第4条第6項)
有価証券届出書
(法第4条第1項)
[略号]
法:金融商品取引法、 府令:企業内容等の開示に関する内閣府令
特定府令:特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令

*募集………50名以上の者を相手方として、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を行う場合
*売出し………50名以上の者を相手方として、既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申込みの勧誘を行う場合
(みなし有価証券の募集・売出しについては、500名以上の者が所有することとなる場合)

有価証券の勧誘については、「50名」が募集にあたるかあたらないかを分ける線引きになります。

非公開会社がIPO時以外に有価証券届出書を作成するのは、一般的な観点から非現実的なため、避けるべきです。

所有が50名以上の者ではなく、勧誘が50名以上の者です。つまり結果的に50名未満の人しか有価証券を購入しなくても、50名以上の人に有価証券購入を勧誘すれば募集にあたることに注意が必要になります。

もし有価証券届出書の提出を忘れていた場合は、金融商品取引法違反にあたり、IPO準備作業は一旦ストップになります。

最悪のケースとして有価証券届出書の公衆縦覧期間(5年間)の間、IPOが出来ないということになります。

ストックオプションと募集

IPOを目指す会社で募集について議論になるのがストックオプションの発行です。

IPOを目指す段階で50名以上の役職員にストックオプションを付与する会社は多々あります。

非公開会社がIPO時以外に有価証券届出書を作成するのは、一般的な観点から、非現実的です。

金融商品取引法では、以下のような人を対象としたストックオプションは、有価証券届出書の提出を免除しています。

非公開会社が発行するストックオプションにおいて、次のような割当対象者だけであれば、有価証券届出書の提出が免除
  • 発行会社の役員・使用人
  • 発行会社の「完全子会社」(発行会社が発行済株式の全てを直接保有する会社)の役員・使用人
  • 発行会社の「完全孫会社」(発行会社の完全子会社が発行済株式の全てを直接保有する会社)の役員・使用人
  • 発行会社及びその「完全子会社」が合わせて発行済株式のすべてを直接保有する会社(「間接完全孫会社」)の役員・使用人
  • 発行会社の「完全子会社」と「完全子会社」が合わせて発行済株式のすべてを直接保有する会社(「間接完全孫会社」)の役員・使用人

ここで注意しなければいけないのは、主に次の2点です。

  1. 非完全子会社の社員・使用人は含まれない
    • 税制上、税制適格ストックオプションは、株式保有比率50%超の子会社で働く取締役や使用人が対象者に含まれます。しかし有価証券届出書の提出免除は、完全子会社の役職員が対象になることに注意が必要です。
  2. 免除できない人を1人でも勧誘してしまうと、同時に発行会社の社員49名以上に勧誘すれば募集に該当してしまう
    • 発行会社の社員1万名にストックオプションを割当てしようとしても有価証券届出書の提出は必要ありませんが、そのストックオプションの勧誘対象者に社外関係者を1名でも含めてしまうと変わってきます。
    • 社員と社外関係者に割り当てるストックオプションの権利行使期間や権利行使価格を別にするなどにより、有価証券届出書の提出を除外するための検討が考えられます。

ストックオプション発行時の有価証券届出書の提出の判断については、金融庁のパブリックコメントが参考になります。こちらです。

金商法第 4 条第 1 項第 1 号、金商令第 2 条の 12、開示府令第 2 条第 1 項、同第 2 項

募集と私募

募集に該当しないような水準で勧誘をおこなうことを、私募とよびます。

私募についてはこちらで紹介していますので、ご参考ください。

私募