上場申請書類の中で最も重要な書類です。
Ⅰの部とは
正式名は、「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」といいます。
Ⅰの部は、事業や決算の内容などを細かく記載する書類であるため、経営陣や経理、財務部門等、多く部署の協力が必要になる書類です。
上場審査は、Ⅰの部に書かれた内容を中心に確認されます。
引受審査に入る前に完成する必要があり、IPO準備の実務責任者の多くは、直前期の期初からⅠの部の作成に取り掛かります。
Ⅰの部の事例は、こちらで確認できるようになっています。
Ⅰの部の記載要領
Ⅰの部に記載される内容は、有価証券上場規程施行規則において、次のように定められています。
「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」は、開示府令第8条第2項第1号に規定する「第2号の4様式」(「第二部」から「第四部」まで)に準じて作成するものとし、「第2号の4様式」の「第二部」に準じて掲げたものの次に、開示府令第15条第1号イに規定する「第3号様式」の「第二部」に掲げる事項を、当該様式に準じて記載するものとする。
「第2号の4様式」とは、有価証券届出書のフォーマットです。
第一部 企業情報
第1 企業の概況
経営指標等の推移、沿革、事業の内容、関係会社の状況、従業員の状況等
第2 事業の状況
経営方針、経営環境、対処すべき課題、事業等のリスク、財政状態や経営成績等の状況分析等
第3 設備の状況
設備投資等の概要、設備の新設除却等の計画等
第4 提出会社の状況
株式等の状況、自己株式の取得等の状況、配当政策、役員の状況、コーポレート・ガバナンスの状況等
第5 経理の状況
財務諸表、主な資産及び負債の内容等
第6 株式事務の概要
第7 提出会社の参考情報
親会社等の情報
第二部 提出会社の保証会社等の情報
第三部 特別情報※
連動子会社の最近の財務諸表
第四部 株式公開情報
第1 特別利害関係者等の株式等の移動状況
第2 第三者割当等の概況
第三者割当等による株式等の発行の内容、取得者の株式等の移動状況等
第3 株主の状況
※ マーカー箇所が目論見書や有価証券届出書に存在しない項目になります。
Ⅰの部と有価証券届出書、目論見書の違い
Ⅰの部の作成と並行して、「有価証券届出書」と「目論見書」という書類も作成する必要があります。
内容はほぼ同じですが、若干違います。その違いをこちらで説明しています。
Ⅱの部とは
正式名は、「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)」といいます。
Ⅱの部は、Ⅰの部で書かれた内容より、さらに深く、またさらに広範な内容になり、Ⅰの部よりもボリュームや作成時間がかかる資料です。
Ⅱの部は、本則市場へ上場申請する場合に作成が必要となります。ジャスダックとマザーズへ上場申請する場合は、作成する必要がありません(しかし、どの市場へ上場申請するにせよ、作成することをおススメします)。
Ⅱの部の記載要領
Ⅰの部や目論見書、有価証券届出書は、開示布令という法令で定められたフォーマットに準じた内容で作成する必要がありますが、Ⅱの部は東証の規則で定めたフォーマットになります。
Ⅰ.上場申請理由について
Ⅱ.企業グループの概況について
沿革、企業グループとしての経営方針、子会社の業績など
Ⅲ.事業の概況について
同業他社の状況、事業所の展開方針とその状況等、仕入先の選定方法など
Ⅳ.経営管理体制等について
組織図、相談役・顧問等、子会社の管理方法、適時開示担当組織など
Ⅴ.株式等の状況について
大株主の持株比率の推移など
Ⅵ.経理・財務の状況について
経理及び財務担当組織(担当部署及び人員数等)、決算手続きなど
Ⅶ.予算統制等について
中・長期利益計画の内容、具体的な立案方法、年度利益計画の具体的な立案方法など
Ⅷ.過年度の業績等について
過去の売上高等の変動要因、事業セグメント別の売上高等及びその変動要因など
Ⅸ.今後の見通しについて
今後1年間また、今後2年間の連結損益計画表など
Ⅹ.その他について
係争紛争事件、主幹事の決定時期など
Ⅺ.添付書類について
ここで最も注意しなければいけないのが、「Ⅸ.今後の見通しについて」になります。
「Ⅸ.今後の見通しについて」では、今後2年間の連結損益計画表について記載を求められます。
中期事業計画を3年~5年に一度しか作成していない会社は、Ⅱの部の作成のためにも、申請期に中期事業計画を作成する必要があります。
Ⅰの部とⅡの部の違い
Ⅰの部とⅡの部は、基本的に次のようなところが異なります。
表1 Ⅰの部とⅡの部の大きな違い
Ⅰの部 | Ⅱの部 | |
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上場申請市場 | 全市場 | 本則市場のみ |
公開 | 公開される | 非公開 |