上場会社では、監査法人の異動が増えています。

関連する記事は、こちらになります。

この記事によりますと、監査法人の異動理由の第1位が監査報酬です。

上場を目指す会社にとりましても監査報酬の高騰は、悩みのタネです。一方、監査法人側も会計士の退職を止めるため、また監査業務の増大のために監査報酬を値上げせざるを得ない状態にあります。

IPOAtoZでは監査報酬額についてIPOを目指す会社と監査法人の間でトラブルになったとき、仲裁を目的として「監査報酬アドバイザリー」というサービスを行っていました。

このアドバイザリーサービスは、上場達成会社の監査報酬の過去実績のデータを元に、監査報酬に関するトラブルを何とか仲裁するという目的に開始したサービスです。

しかし、最近の急激な高騰ぶりによって、過去のデータが全く参考にならない状態になってしまい、もうこのサービスを止めてしまいました。

昨今の監査報酬水準が数年前とガラッとトレンドが変わってしまいました(しかし、監査報酬データを引き続き記録しておりまして、IPOコンサル先や顧問先には、要望があれば、出しております)。

そんな中、監査報酬額については、株式会社キーエンス(以下「キーエンス」といいます)の監査報酬が時々話題になります。

キーエンスの監査報酬は、いつもバカ安だからです。

例えば、以下のようなツイートやサイトがあります。

サラリーマン会計士さんのツイート:こちらです。こちらです。

ミータソ@スタートアップ会計士さんのツイート:こちらです。

矢野譲公認会計士・税理士事務所さんのブログ:こちらです。

ブログの中の人は、てっきり「監査法人がキーエンスの会計監査を政策案件として位置づけ、赤字で受注している」または「キーエンスが監査法人の弱みを握っている」と勝手に考えておりました。

しかしブログの中の人が会社関係者に尋ねると、そんな事は全く関係ありませんでした。

監査報酬の高騰ぶりは、IPOを目指す会社経営者に対し頭を悩ませます。そこで、キーエンスの監査報酬について記事にしてみました。

なお記事内容については、キーエンスの役職者にヒアリングしたことをまとめた記事になっておりますが、一切保証できません。

株式会社キーエンスとは

大阪に本社があるファブレスのセンサーメーカーです。

このブログを作成時点で時価総額が16兆円を超え、国内3位レベルにあります。

僅差の2位がソニーであります。ちなみにソニーの年間売上は10兆円近い売上がありますが、キーエンスは9,200億円(2023年3月期)程度しかありません。

時価総額の4位はNTTです。つまりキーエンスは、1兆円に満たない売上高の会社でありながら、数兆円の売上を上げる会社よりも、企業価値が高いというバケモノ企業です。

例えば日立製作所は時価総額8兆円強なので、キーエンスは売上10倍近くある日立製作所を余裕で買収できる皮算用になります。

たかがセンサーメーカーが発電所や電車、家電、ITシステム等を作る会社を余裕で超えてしまっています。

ブログの中の人が学生の時、キーエンスは誰でも入社できるような会社でした。しかし今は、全く違い、国内企業屈指の高サラリー企業、人気企業になっています。

キーエンスの監査報酬

監査報酬は、有価証券報告書を見れば確認できます。

キーエンスの監査報酬(単体)と売上高(単体)の推移を次表で示します。

表 キーエンスの売上高(単体)と監査報酬(単体)の推移

2019/3 2020/3 2021/3 2022/3 2023/3
売上(百万円) 458,423 419,862 419,291 605,720 709,736
監査報酬(百万円) 29 29 31 32 31

監査報酬は、単価×監査工数で決まります。

一般的な感覚であれば、売上が増える、つまり会社の規模が大きくなればなるほど、在庫や伝票等が増加することになるため、監査工数も増えると思われます。

その上、単価が上がっているはずなので、監査報酬は右肩上がりなはずです。

しかし過去5年間でほぼ伸びていないだけではなく、2023年3月期は2022年3月期より減っています。

さらに、キーエンスの売上規模や販売商品が近く、また監査法人も同じであるオムロン株式会社の監査報酬と比較してみます。

表 キーエンスとオムロンの監査報酬の比較

キーエンス(2023/3期) オムロン(2023/3期)
売上 7,097億円※ 3,694億円※
監査法人 監査法人トーマツ 監査法人トーマツ
業務を執行した公認会計士数 2名 3名
監査業務に係る補助者の構成

公認会計士 5名

その他 15名

公認会計士 35名

公認会計士試験合格者 13名

その他 25名

監査証明業務に基づく報酬額 31百万円※ 254百万円※

※ 単体の数字

(出所:各社有価証券報告書より)

キーエンスの単体売上は、オムロンと比較すると、売上がほぼ倍です。しかし同じ監査法人、同じ精密機器メーカーでありますが、監査報酬の差が大きすぎることがわかります。

なぜこんなに差があるのでしょうか?

キーエンスは、ファブレス企業(売上の10%前後を自社グループ工場で製造していると言われています)であり、オムロンは自社工場を保有しています。

このような大きな差が出てくるのは、ファブレス企業と自社工場保有企業に差が出るのかもしれないと仮定しました。

そこで、売上規模が比較的違いファブレス企業である良品計画と比較してみました。次のようになります。

表 良品計画とキーエンスの監査報酬の比較

キーエンス(2023/3期) 良品計画(2022/8期)
売上 7,097億円※ 3,667億円※
監査法人 監査法人トーマツ あずさ監査法人
業務を執行した公認会計士数 2名 2名
監査業務に係る補助者の構成 公認会計士5名、その他15名 公認会計士6名、その他18名
監査証明業務に基づく報酬額 31百万円※ 77百万円※

※ 単体

(出所:各社有価証券報告書より)

良品計画は多店舗経営している会社であるため、キーエンスより監査工数が多くなる事が想定できますが、それを考慮してもキーエンスの監査報酬の安さがやはり際立ちますね。

ブログの中の人は、キーエンスの監査報酬が完全に異常値レベルであると思っていました。前述しましたが、てっきり「監査法人がキーエンスの会計監査を政策案件として位置づけ、赤字で受注している」または「キーエンスが監査法人の弱みを握っている」と考えていました。

キーエンスの監査報酬が安い理由

ブログの中の人がキーエンスの役職者とお酒を飲む機会があり、「なぜ監査報酬が安いの?」を聞いたところお答え頂き、またさらにその後、追加して聞く機会がありました。

その概要を↓にまとめました。

キーエンスの監査報酬が安い理由と提言【IPO事例-41】

この内容は、オンラインサロンで紹介させていただきます。

このヒントは、日経BP出版の「キーエンス解剖」の中に入っています。

この本は、経営者の必読書だと思います。

↓から購入していただければ幸甚です。2時間あれば、十分読める本です。

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「キーエンス解剖」は、キーエンスの営業部門や技術部門、ロジスティック部門が主に書かれており、管理部門は内部監査のみ書かれており、経理や財務部門について書かれていません。

しかし営業部門や技術部門が行っているような取り組みを管理部門でも同様に実行しているため、監査報酬が安くなるのは間違いないとおっしゃっていました。

つまり私が知っている内容は、この本の延長線上にあるような内容になります。

まとめ

キーエンスの監査報酬が安いこととその理由を紹介させていただきました。

パスワードをかけて隠しておりますが、監査法人で勤務している方であれば、その理由を想像できると思います(想像してみてください。きっと90%以上当たりです。)。

ただしキーエンスは、その理由を極めている会社のように感じます。

また、キーエンスは、監査報酬だけが安いのではなく、IT等、他も他社と比較して安くなっているらしいです。

これは、決して外注や業務委託業者等を叩いているのではなく、費用を安くするための工夫や協力を最大限にしている事も間違いないとも言われました。

どんなに利益があってもコスト低減のための工夫を毎日地味にコツコツしているそうです。

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