ある日、私のツイッターアカウントのフォロワーの方が「近所なので、一度吞みませんか?」とお誘いがありました。

「てりたま」という方です。

てりたま様のツイッターアカウントは、↓になります。

てりたま様は、元Big4監査法人のパートナーを約17年も勤めていた公認会計士の方であります。

てりたま様の能力やご経歴は、生まれてからずっとドンブリ勘定で生き続けてきた私の能力・経歴と比較すると「灘・筑駒・開成の高校生とスシロー醤油ナメナメ高校生」「井上尚弥と10人ニキ」くらいの差があります。

私が、ある日、私のTwitterアカウントのフォロワーのてりたま様に図々しく「上場準備担当者は、監査法人と対峙する場面も発生します。しかし監査法人と初めて接する事になる人が多く、中には監査法人の使い方を誤解している人、また監査法人の業務・役割を理解していない方も存在します。そこで上場準備担当者がどのように監査法人に接すれば、上場準備が円滑に進むのかを監査法人目線で記事を出す事は出来ませんか?」という無理なお願いをしてみました。

そうするとなんとなんとご快諾していただきました!!!!

IPO AtoZにバース、ブーマー、郭泰源、ホーナー級の助っ人がやってまいりました!!!

ありがとうございます!

孫子の兵法で「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」という言葉があります。

上場を達成するためには、監査法人と対峙する必要があり、そのためには、監査法人を知ることが重要です。

ブログの中の人は、さっぱりわかりません。

その記念すべき第1回目が「IPOを目指す会社に対して監査法人の体制」になります。

上場準備担当者の方にとりまして、監査法人に対する理解が進み、少しでも円滑に上場準備が進む事が出来れば幸甚です。

ありえないお褒めの言葉をいただき、いごこち悪いですw(てりたま)

監査法人とは

そもそも「監査法人」ってなんでしょう? 堅い話は抜きにして、監査は公認会計士か監査法人しかできません。

公認会計士が一人で監査することは、制度上は可能なんです。

しかし、監査は年々複雑になり、ITや年金などすべての領域を一人でカバーすることは難しくなっています。

また、監査基準が毎年のように改訂されて監査手続は増える一方。一人でやっていては終わらないので、チームで担当することになります。

このため、監査の必要があれば、監査法人にお願いすることになります。

ご参考までですが、「公認会計士法」という法律があり、ここで公認会計士を規定するとともに、監査法人についても規定されています。監査法人は公認会計士が5人以上集まれば設立できます。

監査法人の業界地図

上場を目指す会社の会計監査をするには「上場会社監査事務所登録」をしている監査法人である必要があります。

その登録状況は、日本公認会計士協会のこちらのサイトから確認ができ、このブログ記事作成時点で国内132の監査事務所が登録されています。

132の監査法人には、規模の大小がありまして、「公認会計士・監査審査会」によりますと、次の表のような規模による区分けがされてます。

規模 監査法人
大手監査法人 EY新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツ、有限責任あずさ監査法人、PwCあらた有限責任監査法人
準大手監査法人 太陽有限責任監査法人、東陽監査法人、仰星監査法人、三優監査法人、PwC京都監査法人
中小規模監査事務所 アーク有限責任監査法人、ひびき監査法人、監査法人アヴァンティア、監査法人A&Aパートナーズなど

IPO AtoZさんの調べでは、一昨年のIPOの監査法人ランキングが↓のようになっています。

2021年に東証へIPOした会社の監査法人をランキング

監査法人の組織

大手監査法人を参考に、監査法人がIPOを目指す会社の会計監査に対し、組織としてどのように対応しているかをご説明します。

大手監査法人は東京に本部を持ち、全国の主要都市に事務所を構えています。東京、名古屋、大阪、福岡などの大都市に集中して運営するか、中規模都市にも分散するかは監査法人によってさまざま。

各事務所に公認会計士が常駐しており、案件ごとに監査チームを組成して、その監査チームによって会計監査が行われます。

公認会計士が行うすべての監査業務は、「審査」が義務づけられておりまして、審査担当パートナーが任命され、監査業務の品質に対し客観的な評価を行います。この審査が終了するまで監査報告書は発行されません。

監査を実施する監査部門とは別に、品質管理部門があり、監査品質に関する方針を出したり、重要案件の監査判断を行うなど、監査業務の品質向上に向けた活動を行います。

中小規模の監査法人では、独立した品質管理部門を設けず、主要なパートナーの合議制で判断している場合もあります。いずれにしても、重要な判断は監査チームだけでは完結しない体制。

大手監査法人だけではIPOを目指す会社の監査をこなしきれなくなり、準大手や中小監査法人の出番が増えています。これまでは、品質管理への安心感から、特に主幹事証券会社は監査法人の規模を気にしてきました。中小監査法人でも品質でしっかりしたところはありますが、監査業界としては、そうでないところを底上げするように取り組んでいるところです。

監査法人の役職

監査の責任者のことをパートナーと呼び、大手監査法人になると600名前後のパートナーが所属しています。

「パートナー」という役職は、法律事務所やコンサルティングファームでも聞かれたことがあるのではないでしょうか? 「共同経営者」とも訳されるように、監査法人の経営者であり、所有者でもあります。株式会社に例えると、株主兼取締役。

パートナー以下の役職は、監査法人によって違いはありますが、おおむね以下のようになっています。昇格年次は上に行くほどばらつきがあり、あくまでも目安ですのであしからず。

  • シニアマネジャー(12年目~)
  • マネジャー(8年目~)
  • シニアスタッフ(5年目~)
  • スタッフ(1年目~)

国家試験に合格すると、まずはスタッフとして監査法人に入社。3年程度の実務経験を積んで修了考査と呼ばれる試験に合格して、名刺に「公認会計士」と書けるようになります。

上場準備会社に対する監査チームの編成

監査は、クライアントごとに編成されたチームで担当します。

次のようなチーム編成です。

  • パートナー 1~2名
  • シニアマネジャー及びマネジャー 1名
  • シニアスタッフ及びスタッフ 数名

監査チームのリーダーは、パートナーが務めます。

上場会社やIPOを目指す会社の場合、パートナー2名が標準です。

パートナーは監査責任者として、監査終了後発行される監査報告書にサインします。

パートナーの下には、シニアマネジャーかマネジャーが通常1名います。部下であるシニアスタッフとスタッフを指揮し、パートナーと調整しながら監査をまとめる、扇のかなめになる仕事。

マネジャーが昇格してシニアマネジャーにありますが、両社で役割はほとんど変わりません。(以後、シニアマネジャーを含めて「マネジャー」と総称します)

最後に、シニアスタッフとスタッフ数名から、多くて10名程度が一般的です。

上場準備会社にいるのはシニアスタッフ及びスタッフ

監査法人は、クライアントに行くことを「往査する」「現場に行く」などと言います。

クライアントで日々執務するのは、シニアスタッフとスタッフ。クライアントに資料を依頼したり、質問したりして、結果を監査調書にまとめます。

なお、コロナが始まってからは、どの監査法人もリモートで監査するインフラを整え、クライアントへの往査とリモート執務を組み合わせています。クライアントが原則出社であれば往査の割合を高くし、逆であれば往査を減らすのが一般的です。

マネジャーは、上場準備会社へときどき来る

マネジャーは、複数のクライアントを同時に抱えて、現場をぐるぐると回っています。一つのクライアントに往査しているときもミーティング中でなければ、他のクライアントの方々に連絡したり、そこを担当する監査チームのメンバーと連絡をとったり。

マネジャーが来たときは、監査チーム内で相談を受けたり指導したりしながら、重要事項があればクライアントと打ち合わせます。

重要事項とは、比較的大きな問題が見つかったとか、クライアントにちょっと面倒な協力をお願いしたい、といったことです。

なお、規模の小さいクライアントであれば、シニアスタッフがマネジャーの役割を果たすことがあります。

パートナーは、上場準備会社へあまり来ない

パートナーは、マネジャー以上にクライアントを抱えています。また、監査法人の運営に関する業務を担当することもあります。このため、クライアント一社に避ける時間は少なくなり、結果としてあまり顔を見ない、ということに。

少なくとも、年度中ごろに実施する監査計画の説明、社長へのヒアリング、監査が終わってからの監査報告にはパートナーが全員そろいます。

また、マネジャーよりさらに重要度が高い案件があれば登場するほか、パートナーによっては不定期に顔を出します。事前に予定が決まっていないことが多いので、会議室に入ったらパートナーがいてびっくり、ということもあります。

上場準備会社への支援として、監査チームは何をしているか

ここまでは、監査対応をされていたら、だいたいご存じでしょうね。

ところが、質問、資料依頼、打ち合わせなどで何をしようとしているのか、監査チームのいる会議室に入ると全員が黙々とPCに向かっていて、いったい何をしているのか、なかなか分かりづらいと思います。

上場準備会社の状況把握

まずは、上場準備会社のビジネス、経営体制とガバナンス、販売・購買などのプロセスと内部統制などについて情報収集し、上場準備会社の状況を把握します。2年目以降の監査であれば、前年からの重要な変更がないか、という観点で情報をアップデート。

「ビジネス」を例に挙げますと、同業者の安値攻勢でシェアが下がった、製品の需要がシフトしてマーケットが縮小している、といった外部環境、これまで安定を重視してきたが大規模に設備投資して売上の大幅増を狙う、といった内部環境の両面が重要です。

上場準備会社のリスクの識別と評価

上場準備会社の状況把握をするのも、リスクを見極めることが目的です。

ここでいう「リスク」とは、間違った財務諸表を作成し、開示するリスクを指しています。監査の用語では、「重要な虚偽表示のリスク」と呼びます。

ちなみに不正やミスによって発生した重要な誤りを「虚偽表示」と言います。「虚偽」というと、とんでもなくあくどいイメージですが、不正な意図があっても、単なる間違いでも「虚偽表示」。法律用語を仕方なく使わされているので、言葉遣いで会計士をいじめないでいただければ幸いです。

例えば「大規模に設備投資する」という場合には、設備の取得時期を誤るリスク、償却開始時期を誤るリスク、減価償却計算を誤るリスク、費用処理するべきものが有形固定資産に区分されてしまうリスク、など。

リスクが識別されたら、どの程度重要なリスクかを評価します。重要であれば手厚い監査手続が必要ですし、重要でなければ軽い手続で十分です。

中でも特に重要なものは、「特別な検討を必要とするリスク」と呼ばれ、監査基準でも別格の扱いを受けます。長いので「特検(とっけん)リスク」、英語のSignificant Riskの頭文字をとって「SR」などと言っています。

上場準備会社のリスク対応手続

リスクが決まれば、一つひとつにぶつける手続を計画して、実行。

この「リスク対応手続」には、内部統制の運用を評価する手続と実証手続の2種類があります。

内部統制の運用評価手続では、リスクに対応する内部統制について、年度にわたって適切に運用されているかを確かめます。25件サンプルして、適切に承認されているか見る、というやつです。

実証手続は、さらに詳細テストと分析的実証手続に分かれます。

詳細テストは、確認状を送ったり、売上高からサンプリングして受注や出荷の証憑を見たりする手続。

分析的実証手続は、外部データを使うなどしてかなり厳密に行う分析です。

監査意見形成

リスク対応手続をすべて終えたら、虚偽表示や内部統制の不備などの発見事項をまとめます。

発見事項が、集計しても重要でないと判断できれば、晴れて無限定の監査意見を出すことができます。

退出します(てりたま)

まとめ

てりたま様による「IPOを目指す会社に対する監査法人の体制」について説明させていただきました。

しばらくの間、てりたま様には、引き続き「IPOを目指す会社が監査法人をどのように利用すればよいのか」というテーマで記事を執筆していただきます。

一気にIPO AtoZの信頼性が増しました!ぜひ今後もご期待ください!

てりたま様のノート記事があります。

こちらの記事は、てりたま様が監査法人パートナーとしての経験を活かし、監査法人での勤務者向けにかかれていらっしゃいます。

てりたま様のノート記事のリンクは、こちらです。

会計士の方、フォローをしてみてはいかがでしょうか。